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密かに侯爵家乗っ取りを企む伯爵令嬢は、公爵令息と政略結婚する羽目になる  作者: 綴喜
一通りの流れスキャンダルから王女の結婚まで
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スキャンダルの発覚

 王の末子であるエリーゼ王女の婚約者とサミュエル侯爵の嫡男ジェイクの婚約者が密会をしている。


 この噂が夜会で初めて聞こえてから3日後、王国内は飛ぶように新聞が売れた。それはこんな手紙が掲載されたからである。

『愛しのジェイ様。

 あなたと離れて嫁ぐなど、考えられません。

 あの冷徹な表情も変えない男など、夫にしたくはないのです。

 次期公爵夫人などという立場よりも、侯爵になるあなたの方が貴重な存在です。婚約解消の知らせを心待ちにしています。

 あなたのエリーゼより』

『愛しのエリーゼ。

 私も早く婚約解消して、あなたと共に生きたい。

 伯爵令嬢など王女であるあなたの足元にも及ばない存在だ。

 いつものベンチでまた会いたい。

 あなただけに愛を込めてジェイより』

 ライバル社が揃って掲載した手紙には注釈が付いていた。

「金髪に白い肌が印象的なエリーゼ王女(16)の婚約者は筆頭公爵家ウィンダムの嫡男ライル氏(20)は同じく金髪で青い瞳、眉目秀麗と言われる美男。サミュエル侯爵の嫡男ジェイク氏(18)はブラウンの髪に緑の瞳。生真面目さが評判の青年で、婚約者はシェラード伯爵家のローズ令嬢(18)。さも家庭教師かと言わんばかりのお団子黒髪に黒い瞳で首まで隠れるワインレッドのドレスがトレードマークの現在王立学園の特待クラスに在籍し、賢女として評価の高い淑女である。

 手紙は抜粋したものであり、原紙は弊社にあり。筆跡鑑定も済んでおり、間違いなくエリーゼ王女とサミュエル侯爵子息の書いた文章であると証明されている。原紙をお読みになりたい方は、弊社にどうぞ。但し身分証明と他言無用のサイン、高額な閲覧料を携えて。」と。


 病弱なため学園に通えず、ひっそりと暮らす深窓の王女と生真面目さが評判の侯爵子息のゴシップに国内が大騒ぎとなった。

 各所の公園には二人見たさに人が押し寄せた。

 貴族の屋敷に勤めるメイドたちは、耳にした婚約者たちの密会の噂は婚約解消のための打ち合わせではないかと納得した。


 それから1週間後、エリーゼ王女とジェイクの婚約が決まった。

 そして王直轄の南の領地の一部をエリーゼ王女に譲渡、ジェイクに新たに爵位を与えると公表された。病弱なエリーゼ王女の為に王自ら領地を指定したとのことである。尚実母である側妃も役を降りて同行する予定。

 その1週間後には婚約パーティー、3ヶ月後には結婚式というスケジュールに国民は驚き、貴族商人ともに祝いへの忙しい毎日を送ることになる。


 =

「焦れて情報漏洩とか、2人の考えそうなことだね。あの噂さえ出さなければ公爵になれたかもしれないのに。」

 エリーゼ姫の元婚約者、ライルは薔薇が美しく咲き誇るシェラード伯爵家の庭園を眺めながらため息をついた。金髪を軽く後ろに流し、伯爵邸を訪れた青年は白いシャツに青い瞳に合わせた群青色のズボンですら高貴さを隠せずにいる。

「しょうがありません、こちらを悪者にして婚約解消を狙う人のお手伝いなんて出来ませんから。」

 ジェイクの元婚約者、ローズがライルの向かいで首を横に振った。今日は流れるままに髪を下ろし、鎖骨が見えるスクエアネックのイエローのワンピース姿で年相応の少女らしい格好をしている。

「最も愚かなのは、証拠の手紙をそれぞれが私達に提供したことでしょう?」

 唇の端を僅かに歪ませてローズがライルを見つめれば、向かい合った青年は声を上げて笑った。

「婚約者に執着して解消を遅らせているなんて、勘違いも甚だしいよ。所詮政略結婚なのに。」


「閲覧可能にしたおかげで、私の元には真実の愛を夢見るご令嬢たちからお手紙が届きますわ。『貴女の味方です。』って。」

 侍女が離れているから文句は言われないだろうとローズはテーブルに肘をつき、恨めしそうにライルを見る。するとそのヤサグレた姿がツボにハマったのか腹を抱えて笑いだした。どこが冷徹なのか、完璧な笑い上戸だ。ジェイクを選ぶ所といい、王女の目は節穴過ぎる。

 やっと治まったのか息も絶え絶えになりながら深呼吸するライルまで小さなテーブルに突っ伏したので、ライルの指がローズの肘に触れた。

「うちには貴族を馬鹿にする金持ちの商人たちから来るよ。『同情します。応援します。』ってさ。まぁあんなのと結婚しなかっただけマシだな。貸しも作れたし。」

「王家への貸しなんて、滅多に作れませんしね。」

 ローズは話をしながら指から伝わる体温が気になり肘をそっと退かそうとした。するとライルの指が肘から伝ってローズの手のひらに向かい、そのまま握られる。思わずギョッとして顔を見れば、ライルはニヤリと笑った。

「その結果が君との政略結婚だ。よろしく頼むよ。」

しっかりと絡められた自分と男性の指を見てローズの頬が赤くなると、ライルはすっと顔を近づけた。途端に後方のメイドから鋭い声が飛び、ローズは慌ててテーブルから体を離した。

「不慣れなもので申し訳ございません。精一杯努力いたします。」

青年に無礼を詫びても返事はなくローズが顔を上げると、ライルは声も出さずに笑っていた。小刻みに震える様子は泣いていると勘違いされるのだろう、一度は近づいてきた使用人たちは足を止めて様子を伺っている。

「あまりからかわないでください。ジェイクとライル様では何から何まで違うのです。」

「確かに。君とエリーゼ王女では違うな。まぁエスコート以外で近づいたことはないが。」

あっさりと納得したライルは立ち上がり、ローズの元へ回って手を伸ばした。

「こちらも努力する。だから共に頑張ろう。」

その言葉にローズは頷き、手を取って立ち上がった。

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