夢の中の2人
「どうやら二人は夢の中らしくてね。昔からあるだろ?おとぎ話みたいなロマンス小説。婚約者がいる二人が偶然出会い、そこから愛を育んで最終的には結婚してハッピーエンドってやつさ。どうやら小説に憧れた王女殿下が城下にお忍びで行った時に、帽子が飛んでね。それを拾ったのがジェイクなんだそうだよ。そこから侍女を通じて連絡を取り合って、密会しているらしい。」
お茶を優雅に飲むライル様は先程までとは一転して不快としか言えない表情を貼り付けている。本当は感情が出やすいタイプらしい。
「わざとロマンス小説を並べておいたら、婚約破棄物や二人が引き裂かれるけれどハッピーエンドになる作品ばかり選んで読んでいらっしゃるので浸ってますよー。」
サラがライル様の話に付け足しながら、追加のお茶を注いでくれる。
「婚約破棄した二人が痛い目に遭う作品に誘導するようにする。あと他の侍女とメイドにも、せめて解消にするよう促させるつもりだ。」
カップの水面をぼんやりと見つめていると、視線を感じて顔を上げる。と、ライル様と目が合った。
「で、ご感想は?」
「ひとまず理解しました。ジェイクを教育出来ず申し訳ございません。慰謝料などのご請求は?」
深々と頭を下げると、隣のオスカーが深くため息がつく。
「お前が請求する側だからな?サミュエル侯爵と王家に。ジェイクは身内じゃないんだから。」
「あ。理解出来ていませんでした。まさかあのジェイクが王女殿下となんて、考えていなかったので。」
「プラン5でも足り無かったな。」
コクコクと頷くローズに、ライル様が首を傾げた。
「プラン?」
「はい。結婚までにジェイクがしでかすことを考えてサミュエル家を乗っ取る計画書を作っておりました。オスカー兄様に見ていただいて、合格点が取れるまで詰めておりました。」
その一、平民、侍女やメイドに手を出した場合
その二、伯爵家以下のご令嬢に手を出した場合
その三、侯爵家、公爵家のご令嬢に手を出した場合
その四、学園を退学した場合
その五、駆け落ちして居なくなった場合
「まぁ一と四が濃厚だったのですが。」
「この二つは他よりもしっかり練ったのにな。まさか王女殿下とは。」
オスカーと二人でジェイクを甘く見ていたと反省していると、向かいからローガンが呆れた声を出した。
「お前たち、これでライルに笑うなって言うのは酷いぞ。」
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どれにしても領民が同情し、ローズが表舞台に残るか裏方に回るかは別としてもジェイクのサミュエル侯爵としての権利を乗っ取ってシェラード伯爵家の有利になるように動く手筈だった。
「ついでに弟ノア様がベタ惚れの婚約者はローガン様の奥様の遠縁で、ローズお嬢様が協力しなければ成婚は出来ずに破棄されます。それをノア様は理解なさってますし、婚約者様も幼いながらに人心掌握に優れた方でノア様のハートをしっかり捕まえてらっしゃいます。」
結局部屋に残ったユーリが隅で小さく、しかし楽しそうにサラに話しかける。主人たちの一方はまた笑い始め、もう一方は従兄弟とうっかりライルの地雷を踏んだことを眉を顰めて反省している。使用人が少しくらい話していても咎められそうにない。
「そこまでして乗っ取る旨みがあるのですか?」
「ありません。どちらも大きさは違えど同じような土地です。兵力で言えば辺境伯に親類のあるシェラード伯爵家の方が助ける可能性は大きいです。私たちも旦那様も婚約解消して欲しいと思っているのです。本当はもっと上の方がお嬢様は相応しいと。けれどお嬢様は断れば隣の領地と軋轢が出来るかも知れないと仰って。確かにサミュエル侯爵家の領民はちょっと上から目線で、婚約しているのだから値段を下げろと煩い方も多いんです。だからシェラード伯爵家からお断りをすれば、暴れる方もいるんじゃないかと危惧していらっしゃったのです。」
「では、ライル様では?」
「大賛成です。」
「なら、解消の後に私が立候補しよう。」
いつの間にか復活したライルが使用人グループに入った。
「王女殿下が産まれた時に上位貴族の令息たちは慌ただしく婚約してしまって、私だけ乗り遅れたんだ。選ぶ候補の中に、確かローズ嬢もいたからな。」
「?」
先程の無礼を気にしない様子のライルにユーリは驚きつつ、首を傾げた。
貴族のことはさっぱり分からない。
「あぁユーリは知らないか。我が国の陛下が寵愛しているのは王妃様だろう?既に二人の王子がいて、すくすくと育った。外見も中身も問題なく、兄弟間の仲も良好。ここに実務担当の側妃の娘が産まれる。後継者が確実なため、降嫁になる。もっと言うと、降嫁された家はバランス的に王家に娘を嫁がせられない。分かるかい?既に二人の王子には相手がいるが、王妃様と陛下は仲が良い。」
「もしかしたら、またお子が産まれるかもしれない。という事でしょうか?」
「そうだ。男子であれば尚のことね。王にはならないだろうが、大公にはなるだろうし。そちらの方が得だろう?そう考えた家が多かったのさ。」
「ライル様は王妃様の甥であるため、エリーゼ様のお相手には選ばれない筈でした。」
サラがため息をつきながら肩を落とす。
「ご令嬢が選り取りみどりの筈だったんです。それがあまりに令息の婚約者が埋まってしまい、困った王家の打診で決められたのです。」
「それが婚約破棄されそうなんて笑えるよね。慰謝料はしっかり頂くつもりだよ。」
貴族らしい笑顔にユーリはビクリと震えながら、ふと思いついた疑問を投げかける。
「なぜローズお嬢様が分かったのですか?」
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ローズはオスカーとプラン・エリーゼ様を急ごしらえで考えていたが、ユーリの声に我に返った。
「いらっしゃると聞いていた筈の司祭様だってお気づきになられませんでした。」
確かにそうだ。簡単だが有効な変装の筈のなのに、ムッと眉間に皺を寄せて考え始めるとオスカーに指で額を弾かれる。
「ローズ、皺は良くない。私が教えたからだ。」
オスカーの指は軽かったが思わず額を押さえていると、ライル様が近寄ってきた。
「新聞のインタビューに感心してオスカーの部屋で話したことがあってね、偶然ローズ嬢もコレット王子妃の元に来ていたんだ。伯爵邸ではジェイクにバレるから、違う色のドレスは預けていたんだって?」
「それで覗き見ですか?」
サラが呆れた様子で首を振る。
「髪を下ろしたローズ嬢が今日と同じ青いドレスを着ていたから、分かった。というか変装になっていないよ。しっかりローズ嬢のオーラが出ている。」
「オーラ。」
服を思わず見てから、ユーリを見れば否定の意味だろう横に首を振られる。
「残念ながらお嬢様はオーラを消すのもお得意です。従業員の平民のフリは女優になれるレベルです。」
「だそうです。」
他の誰にも一度もバレたことの無い変装だ。違う色を着ると伝えておいても、見つけられない自信がある。
「では試してみようか。今度何処かでお茶でも「駄目に決まってんだろ。」
ローガンが遮るとライル様は不満顔を隠しせずに舌打ちした。
「今はエリーゼ様もジェイクも婚約破棄したいんだ。少しでも隙を見つけたら有責にされる。」
オスカーが呆れたようにライル様の頭を撫で、コンコンと指で叩いた。
「ローズをここに呼んだのは、ジェイクとエリーゼ様に警戒しろということ。俺とローガンがいる時点で分かったかも知れないが、王家も静観していること。万が一婚約解消された時について考えるように伝えるためだ。何かあったら知らせろ。それまではこの部屋の存在は忘れておけ。」
いま下手に動けば、マイナスになるのだろう。オスカーに頷くと、頭をよしよしと撫でられる。
「まぁ2人がお互いに諦めてくれるのが1番だけどな。淑女として耐えろ。」
それから半年後。ローズは何食わぬ顔でジェイクに接していたが、やはりと言うべきか急に家族で呼び出された王城でエリーゼ様に婚約解消を宣言された。
ストックが無くなりそうなので、更新頻度が遅くなります。




