笑い上戸の令息
皆様からのアドバイスを聞きながら修正を繰り返しておりますが、出来ている所まで更新は進めていきたいと思っております。
よろしくお願いします。
「私を信じて、行ってきて欲しいところがあるの。」
従姉妹のコレットが困った顔でローズに明日の予定を聞いてきた。何も無いと答えれば、街の教会を指定される。
「危ないことは何も無いの。いつものお忍びスタイルで、これを持って行って司祭様に見せてくれれば案内してくださるわ。」
青く光るサファイアの付いたペンダントを渡され、ローズは困惑しながら口を開いた。
「えっと、許されぬこ「違うに決まってるでしょ。」冗談です。」
即答するくらいコレットとアーク殿下と愛し合っているのは周知の事実だ。今は執務中らしいが、アーク殿下は結婚してから始終コレットの傍にいる。
「行ってくるから、そんなに怒らないでね。」
コレットの機嫌が直るように、大事にペンダントをハンカチに包んでローズはお茶を再開した。
ジェイクがドレス。それと一緒に指図している髪型。家庭教師かと言わんばかりのひっつめお団子頭。
この二つのトレードマークのおかげで、幸か不幸かローズの街へのお忍びは簡単だ。
髪を下ろして、違う色の服を着れば、誰もローズだとは思わない。おかげで王都であればプラス眼鏡で店員に変装し、母の店で接客をする事もある。学園にいる令嬢よりも年上のご婦人方のリサーチが出来て助かっている。
侍女のユーリに道案内をお願いしてコレットに指示された教会へ向かう。ユーリはお針子部隊としてとても優秀だか、武術の腕もあるためローズのお出かけにはいつも駆り出されるのだ。
頼まれた教会は上位貴族の邸に近く、ローズが礼拝には行ったことがない場所だった。
地味な青いワンピースに髪を二つに結んで、学園にいる可愛い双子ちゃんを意識した格好で教会に入る。いつも行く教会よりも静かで厳かな雰囲気に及び腰になりながら、ローズは司祭に面会を頼んだ。
「おや、可愛いお嬢様が何の御用でしょう。」
白い髭の司祭は領地の有力者のお爺ちゃんたちのような気安さでローズの対応をしてくれた。
「ある方が司祭様にこれを見せるようにと頼まれました。心当たりはございますか?」
コレットから預かったペンダントを見せると、司祭はローズを二度見をし
て微笑む。
「貴女がローズ様でしたか。こちらへどうぞ。」
司祭はそのまま懺悔室の奥、神職しか入って行くのを見たことが無い、所謂関係者以外立ち入り禁止の場所へとローズとユーリを導き、ドアの前で立ち止まった。
「既にお待ちかねかと思います。」
深々と頭を下げた司祭に、ローズも礼をして見送ると不安が募る。
「コレットが大丈夫だと言ったんだから、大丈夫よね。」
ローズは緊張しながらドアを開けると、応接間らしい空間が広がる。真ん中に鎮座する立派なソファーには従兄弟のローガンとオスカー、それに社交界の有名人『仮面の君』と言われるほど無表情なウィンダム公爵令息が表情を和やかに会話をしていた。ドアが開いた途端に公爵令息の顔は強ばったが、オスカーが手を広げてローズの元へとやって来た。
「つまり、三人が私を呼び出したと。」
オスカーに向かいのソファを勧められ、ユーリを背後に立たせて警戒しながらローズは座った。控える従者が素早くお茶の準備をする間にローズは状況を把握しようとした。
「正確にはライルだな。俺たちはお目付けプラス警護とか、助力。」
じょりょく、言葉に出しても意味が分からない。何故公爵令息の為に、従兄弟が王子妃たる自分の妹を使ってまでローズを呼び出すのか。皆目見当もつかない。
「もしやこうして今まで何人ものご令嬢を?ローガン兄様たちの奥様になんて謝れば。」
「違うから、俺たちは自分の奥さん愛してるから。」
「エリーゼ王女殿下に愛されない公爵令息のために女漁りを?」
「私のことはライルと。あと別に王女殿下に愛されなくても全然平気だから。」
「ではやはりライル様は他所に女を作って仮面夫婦になるおつもりですね。」
「いや、白い結婚になる予定だけど、愛人を作る気はないよ。」
「では一回だけと?私が知らないだけで傷物のご令嬢がいらっしゃるのですか?」
「しないから。そこの侍女、短刀はしまってくれるかな。」
「だってこんな密会慣れしたお部屋を用意されて。司祭様まで手の内にしていらっしゃるなんて。」
「クッ。」
ウィンダム公爵令息、ライル様はいきなりプッと吹き出したと思うと、そのまま間にある小さなテーブルに伏せて小刻みに揺れ始めた。仮面の君の奇行に思わずオスカーを見れば呆れ顔で上を向いている。
「悪いがライルがこうなると暫く話が出来ない。お茶でも飲んでおけ。」
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十分後、ローガン兄様はニヤニヤと呼吸を整えようとしているライル様の横で囁き始めた。
「な?うちのローズは可愛いだろう?密会慣れだぞ?お前のツボを射抜かれたか?」
コホン。ぷッ。ゴン!
「やっと落ち着いたと思ったのに、再発させてんじゃねぇよ。」
時間として十分ほど、ユーリと共に不審者にしか見えないライル様を見ていた。ほどほどに観察した結果、ただの爆笑であることが分かりオスカーとお茶を飲んで待っていた。
どうやらライル様は生まれながらの笑い上戸らしい。
仮面を被るように表情を隠す貴族の生活は苦しかったそうで、この部屋で感情を出すように意識を変える訓練をなさったそうだ。
この部屋には入ってきた教会ともう一つ出入口があり、ウィンダム公爵邸へと繋がっていて友人のコレット、オスカー、ローガン、それにアーク殿下など外で会うと周りに人が集まる高位貴族の子息たちの息抜きの場として学生時代から利用しているそうだ。
やっとライル様が落ち着いて姿勢を戻し軽く咳払いをされたのでユーリに目配せされて背筋を伸ばすと、ライル様がまた吹き出す。オスカーが暇つぶしに読んでいた本で頭を叩いたことで、ようやく冷静になったライル様と目が合った。
「発作は治まりまして?」
「あぁ、おかげさまで。この部屋にいると気が緩むんだ。いいワードセンスだった。改めまして、ライルだ。わざわざ来てくれてどうもありがとう。」
貴族らしいアルカイックスマイルにおや?と思う。思いながらも礼儀として立ち上がり、カーテシーをする。
「シェラード伯爵の長女ローズと申します。ライル様は笑顔をお見せにならないと伺っておりました。宜しいのですか?」
ただ疑問を問いかけただけなのに、ライル様の隣に座るローガンが笑う。
「うちのローズはライルが笑ってもポーっとしないだろ。お前は誰でも惚れるとか自惚れてるんだ。」
ライル様はローガンの肩を叩く手を振り払い、笑顔からムッと眉を寄せた。その仕草につい口の端がひくつく。
「しょうがないだろう。小さい頃は微笑みの貴公子と呼ばれたんだ。実際見たいという令嬢にも未だに言い寄られる。」
うんざりとした顔でローガンに文句を言うライル様に、思わず声が漏れた。
「やっぱり、みっか「やめとけローズ、また始まったら終わらないぞ。」」
オスカーに言われて口を噤むと、盛大にため息をつかれる。
「話は簡単だ。ローズが淑女でお前に興味が無い。お前に群がる令嬢のように愛人や妾になろうと思ってない。こいつの夢は婚約者のサミュエル侯爵家を乗っ取ることだ。自分に非があることなんて、全くしない。」
親戚にしか話していない野望をライル様に言うオスカーにギョッとする。
「オスカー兄様!」
思わず声を上げると、オスカーに手で制される。いや、思っていただけですで笑ってもらえる年齢では無い。上手く脚色されれば反逆罪だ。
「大丈夫だ。これからライルがもっとすごいことを言う。」
ほら、と促されたライル様が美しい顏に笑顔を浮かべる。
「あぁ。エリーゼ様と婚約解消したいという方が、罪に問われる。」
それは大罪かもしれない。
イメージとしてローガン←ガタイのいい人短髪。よく笑い、婚約解消を面白がる。
オスカー←メガネ。外すと少しローガンに似ている。唯一のツッコミ役。でしょうか。




