侯爵令息からのモラハラ
前回まで読んでいただきありがとうございます。誤字脱字、感想ありがとうございます。
ローズ視点となりますが、お楽しみいただけると幸いです。
「あら、それは新しいドレスね。また同じ物だったの?」
王子妃になった従姉妹は、ローズが婚約者からドレスを贈られるとすぐに気付く。あの木偶の坊はドレスしか贈ってこないので、分かりやすいらしい。
「さすがコレットね。今回は肩のレースを変えてみたの。案内されている途中に会ったエリーゼ様の侍女たちには『貧乏だから同じドレスを着ていらっしゃるのかしら。恥ずかしいわ。王子妃のご親戚はセンスが悪いわね。』って笑われたわ。」
すれ違ったというより待ち伏せしていた男爵令嬢の真似をすれば、案内してくれたメイドが笑顔でコクコクと頷いた。彼女は従姉妹が実家から連れてきた人間だから反応してくれるが、他の城のメイドたちは私のことを侍女たちと同じように思っていたのか目を丸くしている。
「どのドレスもよく見れば違うと分かるのに。それを見分けられないなんて、そちらの方がセンスが無いわね。その侍女たちは誰が作ったドレスを着てたの?」
クスクスと笑いながら扇で口元を隠すコレットの目は色々な人間を見ている。使用人の選別に私は最適だ。
「先頭に立っていた男爵令嬢はクレールの一昨年のものね。後ろはそれぞれジャスミンとアレクサンドルだったかしら。」
深い緑と、落ち着いた青、クリーム色のドレスを思い浮かべて答えると、コレットの目は更に笑った。
「ジャスミンは確かレース刺繍が上手いミリーだったかしら。」
「そうよ。花のデザインが上手で、1番好きな花からブランド名を付けたの。デザインは幼なじみのリーンと考えてるのよ。」
二人はまだ駆け出しだが必ず成功すると信じている。赤毛で涙脆いミリーのことを考えていると、コレットが吹き出した。
「母親みたいな顔しないでよ。あなたの方が年下でしょ。」
「みんな兄弟みたいなものよ。夏によく着るものはミリーがリメイクしたし。」
「ローズの頼みならどこの店でも最優先でドレスを作ってもらえるのに、惜しいわね。」
メイドたちは城に勤めている以上、貴族令嬢の端くれだろう。いつもローズを赤いドレスしか着ないと影で馬鹿にしているメイドたちは、下位貴族ではなかなか買って貰えないブランドの名に段々と顔が青くなる。
「そこのあなた。顔色が悪いわね。部屋から出てくれる?あなたも。私は従姉妹が可愛いの。」
ローズに凭れかかりながら指で指された青い顔のメイドたちは、無表情の侍女たちに外へと促されて出された。もう専属に戻ることはないだろう。
「ジェイクがドレスを贈らなければ、ローズはもっと賞賛されるのに。妬ましいわ。」
婚約者のジェイクがローズに首まで覆う赤いドレスを贈るようになった理由は単純だ。
ジェイクを周りが褒めたから、である。
同級生が「婚約者にドレスを贈ったら喜んだ。」という世間話からドレスを買おうと思った。思ったが、どれがいいのか分からない。だから母と同じドレスを注文した。サイズは私と夫人の贔屓店が同じだったから問題ない。というか、私の母がオーナーの店である。ローズのドレスはここでしか作っていなかった。デイドレスと夜会用の説明をした店員を未だにローズは感謝している。
結果、初めて贈られたドレスは義母になる予定のサミュエル侯爵夫人とお揃いであった。するとジェイクはパーティーで褒められた。私の両親もジェイクの両親も褒めた。
それからずーーーーーっと同じ物をジェイクは贈ってくる。変わるのはサイズだけ。それは店が気を使っているからだ。
ちなみに他の色、タイプのドレスを着るとジェイクは不機嫌になり、勉学が出来ないのも、剣技が出来ないのも、忘れ物をするのもローズのせいとなる。
周囲は苦言を呈した。件の同級生は婚約者から袋叩きにされたらしい。サミュエル侯爵夫妻は真っ青だった。息子しかいない家庭でも令嬢が着飾るのが楽しいのは分かる。夫人だって歳をとって最終的に落ち着いたのが首を覆うドレスだっただけで若い頃は様々なドレスを着ていた。
しかしジェイクが頑固過ぎて、ローズが折れた。それから自分で用意するものも同タイプしか購入していない。違うのは学園の制服と喪服だけ。周囲は嘲りの意味でジェイクを『生真面目』といっているが、本人は気付いていないようである。
それから私の家にはリメイクに特化した部隊が出来てしまった。私専属侍女とメイドの『お針子部隊』である。
「お嬢様、ドレスが届きました。」
ここが緊張の瞬間である。大体赤が目に入った瞬間に落胆し、そこから会議が始まる。店で少し変えてみたら偶然我が家を先触れなく訪れたジェイクにバレた。それからは一度ジェイクの元に届けられ、ジェイクの侍従が我が家に届けるスタイルとなっている。
リメイクの最も重要な課題は、『ジェイクが気付かず、周りは気付く』である。一度首部分を短くしたらバレたので、それからは首は絶対に覆っていないといけないと決まった。ジェイクは裾をあまり見ていないらしい。いつもダンスを踊るのは一曲だけだからか、背中の素材を変えても今の所気付かれない。
どこまで同じドレスに変化を加えられるのか、流行りを取り入れられるか。それが『お針子部隊』の特命である。
結果としてシェラード侯爵領の繊維産業は目覚しく発展している。腕のいい子女は貴賤を問わず王都でお針子部隊に所属し、マナーを学びながら腕を磨く。そしてパーティーで技術をお見せしてご婦人に名前を覚えて頂きお仕事を戴く。実績を積んで独立するか、領地での後進の育成にあたるかは本人の希望による。それに伴い布の進化も職人たちが頑張っている。赤を最初にそこから派生して、鮮やかさや繊細な色の種類は他の地域の追随を許していない。
ある意味ジェイクのおかげである。
そしてローズの野望は「侯爵家を乗っ取る」ことに決まった。
結婚後に好きなドレスを着るために。
こんな問題ある行動を定着化させて未来の令嬢たちを不幸にしないために。




