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6 節約ぅ~!

 服を買うにもお金が必要だ。昨日は、仕事探しに時間がかかり、武器屋でも時間を忘れて長時間眺めていた。服を買う必要があると判明したときには2時を過ぎていて、残りの時間と心もとない体力により、仕事をするのは諦めた。なにせ、1日のうち12時間寝ているので、活動時間が短い。

 服屋と皿洗い候補を下見して、早めに寝た。




 それからは、[とりまる]の求人があるときは[とりまる]へ、無いときは[欧風居酒屋 小人の切り株]へ通った。

 [欧風居酒屋 小人の切り株]は、可愛らしい内装で煮込みハンバーグが絶品らしい女性に人気のお店だった。店主は無口でたんたんと仕事をするタイプの人だった。居心地が悪いわけではないが、俺は相変わらず[とりまる]に愛着を持っていた。おじちゃんおばちゃんの親しみやすさが一番の理由だが、客席に近い場所にシンクがあり、噂話程度の情報でも、情報が得られるのはいいことだった。

 魔王の話も聞いたが、話している本人も連れから「魔法の聞き間違いじゃないの?」と突っ込まれていた。武器屋のケンジさんが言っていたドラゴンは信憑性が高まった。他にも2グループほどドラゴンの話をしていたからだ。




 皿洗いの仕事を毎日続け、10日以上経ったときに3万ゴールド貯まった。レベルもジワジワと上がり、5になった。体力や、満腹の最大値も上がったらしい。6時間ほど働いても体力に余裕がある。ただ、困ったことに、ごろ寝部屋で12時間寝ても完全回復しなくなってしまっていた。ほぼ空腹の状態から満腹にしようと思うとお握りを10個食べても全く足りない。さすがにお握りを10個以上食べるのは苦痛になっていた。


 元々お握りは好きな方だ。でもそれは、普段のご飯が白米なのに比べて、握ってあって具も入っていて特別感があるからだ。それが、毎日大量に食べれば特別感など無くなってしまった。[とりまる]でもらえる唐揚げが、唯一の救いだった。


 お握りは150ゴールドで安いとはいえ、10個以上も食べれば食費はかかるし、1日の活動時間は短いのに回復量に限りがあり、働く時間を増やせない。

 唐揚げが食べられるし、雰囲気のよい[とりまる]は気に入っていたが、服を買って、時給の良いところで働くことにした。




 購入したての半袖ワイシャツとストレートパンツで申し込みをし、緊張しながら高級店[肉と旬菜 炎]に入る。店中はとにかく広く、シンプルながら飽きのこないテーブルセットが、余裕をもって並べられていた。当たり前のように汚れた皿が山積みになっているシンクは、この店の中では完全に浮いていて、違う空間と繋がってしまっているような違和感がある。奥まったところにあるので客からは見えないが、逆に俺が客の話しに聞き耳を立てることはできそうにない。


 聞き耳を立てるなんて!って、避難されるかもしれないが、高級店で食事をする人が何を話しているのかって、興味があるだろ??


 皿洗いのプロにかかれば、皿が高級になろうとたいした問題ではない。6時間働いて、9000ゴールドになった。




 パブリックオフィスに帰る途中、公園のベンチに腰かけて、プレイヤー表示をする。


 あ~!!緊張する。


 お礼のために連絡するんだから、俺は、何を緊張しているんだ!?


 [アカリ]、[連絡する]を選択した。


 電話のように呼び出し音が鳴ったあと、「はい。」と応答があった。メールやラインに慣れて、電話なんてほとんど使ったことの無い俺は、何を話したら良いのか一瞬頭が真っ白になった。

「あ、あの。リョウです。」

 一応、名乗る。

「あぁ、久しぶり。元気だったのね。」

 なんか、ちょっと引っ掛かるような言い方だ。ちゃんと元気だったよ!!確かにあのとき死にかけてたけど…。

「この前はありがとう。そんで、お礼に食事でもって思うんだけど、ど、どうかな?」

 うわぁ~。始めて女子を誘ったぁ~!!お礼は食事で良いって言われていても、マジ緊張する!!

「えっと、ねぇ~。ちょっと、待ってね。」

 えっと、言い出したのはそっちなんだから、断るとかマジで無しな!!これで断られたら、超ダサいじゃん。心折れるわ。

「ちょっと忙しくって、明後日ならどうかな?」

 おぉ、ただ忙しかっただけか。よかったぁ~。

「俺は大丈夫。明後日、パブリックオフィスの前で、6時でどう?」

 待ち合わせ場所も時間も俺基準で決めたけど、待ち合わせ定番スポットなんて知らないし。

「大丈夫。じゃあ、明後日ね。」

「じゃあ。」

 はぁ~!!マジ緊張した。心臓飛び出るかと思った!

 小刻みに震える指先を太腿に押し付けながら、暗くなっていく空をぼんやり見ていた。


 あ、ヤバい。はやく寝なきゃいけないんだった。

 12時間寝ても、半分ちょっとしか回復しないのだ。起きている時間は有効活用しなければならない。


 普段より遅い時間にパブリックオフィスに到着すると、いつもより人が多いようだ。


 混んでいるのは嫌だなぁ~。寝ちゃえば関係ないとはいえ、やっぱり、隅が居心地がいい。


 まずはご飯だ。寝る前に満腹にしておかなければならない。今日の皿洗いは[炎]だったから、唐揚げはない。お握りオンリーだ…。


 大量にお握りを買って、満腹にするための修行の時間が始まる。食べても少ししか回復しない。同じ味に飽きてきているし、時間もかかるし、苦痛の時間だった。

 一口噛って、ため息をついていると、がたいのいい人が近づいてきた。


 えっと、この前、パブリックオフィスで声をかけてくれた人だ。何て名前だっけ?


 急いでプレイヤー表示で確認する。

「リョウだったよな。久しぶりだな。」

 覚えていてくれたんだ。

「マックさん。いつもここに来てるんですか?」

「いや~。いつもは近くのホテルに泊まっているんだけど、今日はなぜか一杯で、仕方がないからここで個室を借りようと思ってね。」

 マックさんは人懐っこい笑みを浮かべると、俺の椅子の隣に腰かける。

 小柄できれいな顔立ちの少年が近づいてきた。雰囲気が柔らかければ女の子と間違えてしまうかもしれないが、鋭い目線と人を寄せ付けない雰囲気があった。

「マック、俺は行くぞ。」

「わかった。じゃあ、明日な。あいつは最近一緒に探索しているミコトっていうんだ。ちょっと愛想が悪いけどいいやつなんだ。」

 ミコトさんが向かっていったのは、俺が泊まろうと思ったことのない個室があるエリアだった。

「ごろ寝部屋が安いけど、個室に泊まるんですね。」

 マックさんは少し驚いたようでこちらを向いた。

「ごろ寝部屋じゃあ、体力回復が追い付かないだろ?」

 なんか当たり前のようにいわれたけど、えっ?どういうこと?

 俺がポカンとマックさんを見ていると、マックさんは、左手で頬をポリポリと掻きながら教えてくれた。

「高い値段の部屋だと、回復の割合が良いだろ。食事も一緒で、レベルに応じて高いものにしないと効率が悪いだろ。俺もここら辺を拠点にするなら、部屋を借りても良いかと思ってるんだけどな。自炊も出来るし。」

 ええ~!!!値段によって回復量が違うってことか??ってことは、今までの俺の節約は何だったんだ!?頑張ってごろ寝部屋に泊まっていたのも、お握りで食事を済ませていたのも…。

 一瞬呆然としそうになって、次の言葉に耳を疑った。

 部屋を借りるってことも出来るのか!?ただ、自炊っていうのはなぁ。録なものは作れないぞ。

「自炊ですか。マックさん、作れるんですか!?俺は、お握りと味噌汁くらいしか出来ないですよ。」

 ははは!と笑いながら、俺の手にしているお握りをチラリと見ると、

「君はお握りが好きなんだね。まぁ、俺も肉を焼くしかできないさ。味噌汁って、味噌をとかしたスープに具をいれたやつかい?」

 お握りは元々は好きだけど、今は好きで食べているわけでは!!っていうか、ちょっと嫌いになりかけている。味噌汁はすんごいアバウトな説明。

「まぁ、そうですけど、味噌汁は出汁が命ですよ。」

 港町で生まれ育った俺は、出汁にはうるさい。

「出汁?」

「そうです。俺のイチオシは、鰹と昆布の合わせ出汁ですね。」

 この世界で、出汁がとれるのかどうかはわからないが、唐揚げが美味しいことから、美味しいものが作れるってことはわかっている。

「アワセ出汁か!?リョウが作ったら、御賞味に預かりたいものだな。」

 若干片言なのが気になったが、食べたいといわれると、家庭科の授業でしか調理したことのない俺にはプレッシャーだ。

「そ、そうっすね!まずは部屋を借りれるようにならないとっすね。」

 一旦ごまかしていこう。

「おう!楽しみにしてるぞ!じゃあな。」

 マックさんも個室の方に歩いていってしまった。


 部屋で、自炊かぁ。部屋を借りるのは独り暮らしっぽくて憧れるけど、自炊は面倒だな~。

 それにしても、色んな人と話してみるもんだな。値段によって回復量に違いがあるなんて、ごろ寝部屋でしか寝ないから気がつかなかった。もっと早く気づけよって感じだけど、教えてもらえてよかった。


 手に持っている食べかけのお握りを食べ終わると、始めてカレーライスを買ってみた。久しぶりに食べるカレーはおいしかった。不覚にも家で食べるカレーを思い出して胸がジンとする。カレーライス一つで満腹になった。


 俺、何してたんだろう…。


 部屋も始めてカプセル式に泊まった。ギリギリ座れるくらいの高さで、奥に細長い寝るためだけのスペースだ。上下2段になっていて、ロールカーテンを閉めると外から丸見えではなくなる。ごろ寝部やよりは高いが個室よりは安い。しかも、睡眠時間を選ぶことが出来て、8時間で設定した。もちろん翌朝には完全回復していた。

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