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5 レベル!

 皿を洗っていて驚いたことがある。洗った皿は拭くと消えてなくなってしまうのだ。そして、洗っても洗っても汚れた皿が減らない。シンクに入らない量の汚れた皿は、数だけカウントされていて、減ったら出てくるようになっているんじゃないのか…。

 シンクに山になっているとはいえ、3時間はかからないと思っていたのに、結局3時間皿洗いをして、見た目はもとと変わらなかった…。達成感も何もない。さらに気疲れしてしまった。

 しかし、奥さんには汚れた皿が大きく減ったと大喜びされたのだ。3時間のアラームがなると、すぐに来て、俺の両手を掴んで「本当にありがとう。」と。

 大袈裟なと思ったが、店主の旦那さんには、お給料と共に「もってけ!うちの自慢料理だ。」と唐揚げを5つもらった。




 パブリックオフィスの軽食コーナーで、ステータスを確認する。仕事に申し込みのときに4時間を勧められたが、確かにあっていたようだ。あと1時間くらい働けそうなくらいの体力が残っていた。

 空腹度合いは結構ギリギリ。これは、こまめに確認しておかないと危険だな。

 

 唐揚げを手の上に取り出した。食べ物をもらって、こんなに嬉しかったことは今までないんじゃないか。今までもらった食べ物は、ガムとかポテトチップスとかお菓子がメインだった。ご飯は待っていれば親が作ってくれたし、お金がかかっているということはわかっていても、実感したことはなかった。自分の稼いだお金を払ってご飯を食べることを考えたら、もらえるなんて、なんかめっちゃ有り難い。


 この世界は便利だ。しばらく唐揚げを見つめていたが、冷める気配がない。一番美味しい状態を保っていてくれるようだ。

 ただ、残念だったのは3つ目を食べている途中で食べた認定されて消えてしまったことだ。5つちゃんと味わいたかった…。

 ステータスは、唐揚げだけで満腹になっていた。




 今日も、[とりまる]さんに皿洗いに来ている。親近感を覚えたので、俺の中ではおじちゃん・おばちゃんに昇格している。

 おばちゃんもおじちゃんも優しい。おばちゃんには大喜びされた。唐揚げのお礼を言うと、おじちゃんは自慢げな顔が隠せていない。俺も嬉しくなった。おじちゃんがわざとらしく「よーし、今日も仕事するぞ~!!」と、肩を回し始めたので、俺も皿洗いを始めた。ちなみに今日は4時間にした。皿が減ったかどうかはわからなかったが、おばちゃんの大喜びが嬉しかったからだ。

 皿洗いを始めて、そう時間の経っていないうちに、華やかな音が鳴り、「レベルが上がりました。」と聞こえた。直ぐ近くにいるおじちゃんを見ても反応がなかったから俺にだけ聞こえたのだろう。


 皿洗いでも経験値がたまっていたのか!?


 ステータスを確認すると、確かにレベル2になっていた。お腹も減っていたので、おじちゃんに許可をもらって、お握りを食べておいた。


 今日は午前中に皿洗いを始めていたので、昼頃になると店は混み始めた。ガンガン新しい料理が運ばれていき、汚れた皿も運ばれてくる。おじちゃんが言うように、唐揚げが多いようだが、出されている料理のどれも美味しそうに見えた。

 黒い前掛けをした工房の親方のような人や、スーツをきて難しそうな顔をした人が多い気がする。

 紺色の細身のスーツと、ベージュのよれたスーツを着た二人組がシンクの近くに座った。二人は各々好きなメニューを注文すると、くつろいだ様子で話し始めた。

「おい、なんか旨い儲け話はないかぁ?」

 それは、俺も知りたい!!皿洗いをしながら、気づかれないように聞き耳を立てる。

「金属が狙い目だって聞いたぞ。」

「金属っつったって、俺は自分で取りに行ける訳じゃあないんだぜ。元手がかかりすぎる!」

 金属か…。将来的にはどうだかわからないが、今は参考にならないな。

「材料を材料のままで転売したら儲けは少ないからなぁ。」

 転売ってことは商売人ってことか?

「あぁ~!!なんか旨い話はないかな~!」

 ベージュのスーツの方は、踏ん反り返った姿勢のまま天を仰いで額に手をのせる。

「旨い話じゃないけど、妙な話なら聞いたぞ。」

「金にならない話じゃあなぁ~。」

 ベージュのスーツの方は、乗り気じゃないようだ。

「そう言うなって。アメリカの商人が大成功して、商会を立ち上げたらしいぞ。まぁ、こっちにまで影響はないと思うが、注意はしておいた方がいいだろ。」

「そうだな~。俺らに気ぃ遣ってくれりゃあいいんだけどもな。」

「気を付けるに越したことはないよ。おい、この唐揚げ旨いぞ。」

 おぅ、そうだろ!そうだろ!絶品だろ~。

 不思議なことに味はわかるのだ。満腹感はないのにな。

 その後も金儲けについては、良い案がまったく出なかった。運ばれてきた料理は旨かったらしい。旨い!旨い!と食べ、帰っていった。

 俺はちゃんと働いて、おじちゃんに唐揚げをもらって帰った。



 次の日、仕事の申し込みに行くと、[大衆食堂 とりまる]さんが見当たらない。常駐しているガイドに聞いたところ、人を頼むほど皿が溜まっていないのではないかと言われた。

 気に入っていたから、他の場所を紹介されても行く気になれず、町をブラブラしている。始めてこの世界に来てしまったときに、ピンクの彼女を見たことを思い出した。

 彼女を最後の見たのは、レストランに入るところだったはず。

 行ってみると、記憶にある通り高そうなお店だった。

 レストランだし、皿洗いを募集しているかもしれない。店は、[肉と旬菜 炎]。


 よし、名前は覚えた。後で調べてみよう。


 パブリックオフィスのガイドも外に行くにはレベルが足りないって言っていたし、昨日の商人も自分で取りに行くのは無理って行ったから、まぁ、無理なのはわかってる。でも、値段を見て、お金を貯めるくらいはいいだろ。

 [とりまる]さんで働いているのは心地よいし、人に喜ばれるのは思っていたより嬉しいことだった。働くこともも悪くない。

 俺は、武器屋の前で足を止めた。

 何となく入る勇気が持てずに、窓越しに眺める。


 おわ!店主と目があった!!


 店主は驚いた顔をしたあと、笑顔になった。


 ど、どうしよう…。


 ガチャ!


 うわ!出てきちゃったよ!


「兄ちゃん、元気になったんだな。」

 ここで動けなくなったこと、覚えていてくれたんだ。

「この前は、気にしていただいてありがとうございました。」

「いいってことよ。俺はケンジって言うんだ。お前さんは?」

「リョウです。」

「おう!リョウ!ちょっと見ていくか。」

「いいんですか?」

 ケンジさんが中に入るように促した。

 武器屋はスタイリッシュな店内だった。時計か宝石かのように、ガラスの陳列棚にキラキラ輝くナイフが並んでいた。隣には剣が、壁には大剣や杖がガラスの中に並んでいる。

 俺のイメージした武器屋って石づくりの暗くて埃っぽいところだから、明るくてきれいでビックリしてしまった。端から一つ一つ、ガラスの中を覗き込んでいく。

 よく磨き上げられていて、装飾も実用的で上品だ。

「かっこいい。」

「だろ。そこら辺のは定型の武器で初・中・上の順に攻撃力が増すんだ。こっちにかかっているのは、特別誂えの武器だ。」

 カウンターの内側に並ぶのは、青白くうっすら光る剣と、虹色にうっすら光る杖だった。武器の中から溢れるように光り、神秘的で大きな力を内包しているかのようだった。

 しばらく武器に見惚れていた。その間ケンジさんは話しかけずにそっとしていてくれた。

「ケンジさん。俺、まだレベルも弱くて、お金も無いんすよ。一番安い武器ってどれですか?」

「これだな。」

 指差した先には、こじんまりとした短剣があった。


 小さいけどきれい…。


 よく見ると小さく[短剣 初 2000ゴールド]とあった。

 買えそうな値段に、体が熱くなり血液が身体中を駆け抜けた。

「あぁ、でもな、リョウ。町中でナイフとして使うなら問題ないが、外に行くには心もとないな。今は竜の目撃情報もあるしな。」

「いくら貯めればいいですか?」

「竜は無理だが、ただ採集に行くだけなら、最低1万ゴールドってところだな。」

 それでも貯められない金額ではないと思う。

「わかりました。貯めて来ます。」

 やっぱり時給の良い仕事を探さなければいけない。




 急いでパブリックオフィスに戻り、皿洗いの募集を探す。もちろん名前を覚えてきた[肉と旬菜 炎]だ。


 あったぁ~!!時給も1500ゴールド!!


 申し込もうと選択しても、次の画面に進まない。


 あれ?なんで?


 仕方がなく、ガイドを呼んで教えてもらった。

「こちらは、ドレスコードがございます。高級店では、働くために出入りする者にも、ある程度の服装が必要です。」

「服装ですか!?」

「はい。他の服装をお持ちですか?」

 そう言われて自分の格好をまじまじと見れば、よれたTシャツに使い込んだスウェットのズボンに、サンダルだった。靴以外は、部屋着だ。顔とか髪の毛とかどうなってるんだ!?

 後で確認したところ、俺は俺だっだ。寝癖がついていなくてホッとしたが、せっかくゲームの世界なら、イケメンにしてくれてもよかったのになと思うのだ。

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