諸悪の根源
「ふう……やれやれ」
「何がやれやれだ、やれやれ系ハーレム主人公か、息子よ」
とりあえず泣き止んだ王華ねぇを膝の上からおろし(不満そうだったが)、リビングの隣のキッチンに移動して喉を潤していると、料理をしながら母が声を掛けてきた。
「誰がやれやれ系だ」
「ハーレム主人公は否定しないのか、息子よ」
「……」
だってなあ。
物語に出てくるお前ちゃんと脳みそ働いてるの? としか思えないレベルで鈍感な主人公でもない限り、彼女達4人から向けられる好意に気づかないなんてありえないだろう。ましてや長い付き合いだ、心の機微もわかりやすい。
「とっとと食べられちゃえばいいのに」
「食べられるってどういう意味だよ」
「無論性的な意味だ、息子よ」
この母親殴っていいか。
「負けるだけでおいしく食べてもらえるんだぞ? 何が不満なんだ息子よ」
「あんたがアホな事言い出したせいで、俺が今苦労しているんだが?」
今日彼女達が帰宅する俺の前に立ちふさがったのは、何も俺にサウラ嬢の配信を見せないためだけじゃない。
実は俺がスキルを使えるようになってから、ウチの母親より彼女達にある権利が与えられた。
それは「ダンジョン攻略中にウチの息子を倒したら、息子の事一定時間好きにしていいよ」である。
何言ってんだこの馬鹿親と思うが、まぁ中学卒業までは良かった。負けたところでめっちゃ甘やかされるくらいで、恥ずかしいけど我慢できないほどではなかったので。
だが、高校進学にあたりとある制限を撤廃したことで状況が変わった。彼女達の目つきも変わった。
その日の夜、暗いリビングに集まった彼女達が小声で何かを相談していた時聞こえてきた単語が
「みーくんの童貞……」「ロストバージン……」「既成事実……」
だったのは今でも覚えている。
ようするに──負けた時に俺の今後の人生が確定する。
「なんて事してくれたんだよ……マジで」
「彼女達に不満があるのか、息子よ」
「彼女達自体に不満はないけどさ……」
みんな滅茶苦茶美人だし、一部問題はあるけど基本的には性格も悪くないし、何よりこれまでずっと可愛がってくれた幼馴染だ。文句のつけようがあるはずはない。
問題があるのは、彼女達が4人もいる事だ。
「まだ誰かを選べてもないのに、そういう事するわけにはいかないだろ」
「ピュア童貞か、息子よ」
悪いかよ。
「そもそも別に誰かを選ぶ必要はないのでは? 息子よ」
「え?」
「ハーレム主人公らしく全員食べちゃえばいいのでは? 息子よ」
「いや、そういうわけにはいかんだろ!」
「母は許可するぞ? 多分彼女達も受け入れるぞ?」
「いや日本の法律が……」
「ダンジョン内は治外法権。日本の法律で定められれいる、何も問題ないぞ息子よ? というかあの子達を他所に嫁になどださん。ずっと手元に置いておく」
「それが本音かよ」
母は俺の顔を見てため息。
「このふにゃチン野郎」
「真顔で息子に吐くセリフじゃねーな!」
「そんなこと言ってだらだらしていると、そのうち気が付いたら他の男に……いやないな。うん息子よ、のんびりいけばいいわ」
「いいのかよ」
「母はあの子達と息子と楽しく暮らせればそれでいいぞ。理解のある母だからな」
「……」
◇◆
「ぬぉぉぉぉ日暮れの前に街灯がついたせいで影が消えぬぅぅぅぅぅ、動けないぃぃぃぃぃ」
校門前で固まったままのイケメンが、無事救助されたのは翌日の朝の事だった。