第八階層~第十一階層
●第八階層
「ちょっと猫目先輩、ちゃんと戦ってくださいよ!」
「ちゃんと戦ってるよ? 戦術戦術ぅ!」
第八階層で、俺は再び学校の先輩と対峙していた。というか先に言っておくが、7階層以降のフロアボスは全て学校の先輩だ。
うん、頭の中で担任にストンピングをかましておく。
第八階層のボスは、猫目 都先輩だった。赤い髪に赤い瞳、そして頭には猫耳、お尻には尻尾。
そう、彼女は猫の獣人なのである。学校ではそちらの性癖の方々に大人気だ。
そんな彼女だが、対峙している今は厄介な相手と言わざるを得なかった。
獣人である彼女は身体能力が非常に高い。その身体能力で彼女は先程から俺に対してヒットアンドアウェイを繰り返していた。そのせいでなかなか有効打が繰り出せず、時間だけが無駄に経過していく。
「普段のミコト君だったらちゃんと対応できているハズだよ~。焦りすぎて動きが固くなってるよん」
くそっ、読まれている。確かにどうしても気持ちが焦ってしまい、冷静な行動が出来なくなっている。その結果素早い彼女の動きに翻弄され続けている。
パキィィィン!
俺の二個目の黒水晶が砕け散る。くそ、不味い残り時間が10分切った!
仕方ない、卑怯な手を使わせてもらう!
「猫目先輩」
「なぁにぃ?」
気の抜けた返事をしながら、再びこちらに攻撃を加えようと駆け寄ってくる猫目先輩。その彼女に向けて俺は言い放った。
「急いでるの知っててその戦術。俺、猫目先輩嫌いになっちゃうかも」
「えっ、えっ、ちょっと」
その言葉に、目に見えて彼女は動揺した。
チャンス!
俺は体を前に飛ばすと、動揺で動きの鈍った彼女の体に正面から組み付く。
ああ、めっちゃ柔らかい!
「ちょ、ちょ、みーくん」
猫目先輩の顔がすぐ近くにある。その真っ赤になった彼女に対して俺は言った。
「フルパワー【トールハンマー】!」
「あみゃみゃみゃみゃみゃみゃみゃみゃ!」
ゼロ距離で放たれた最高クラスの雷撃を回避すことなど当然彼女にはできず、彼女は強力な電撃に貫かれ強力な電撃に貫かれた猫のような悲鳴を上げる。いや俺そんな悲鳴聞いた事ないけど。そもそもにゃんこに対してそんな非道なことをするような奴は俺許さないよ?
パキィィィィン。
響き渡る甲高い音。猫目先輩の黒水晶が砕けたらしい。
そして彼女は床へと崩れ落ちた。あ、ビクンビクンしてる。
「今のはひどいよぉ、ミコト君……」
「すまん、今の俺には手段を選んでいる余裕はないんだ……後でマッサージするから許して」
ビクンビクンしていて、なんかちょっとエロスを感じる猫目先輩をその場に残して俺は進む。
●第九階層
「ぬおおおおおおおおおおおおお!」
次々と飛来する光の玉をすんでの所で躱していく。
第九階層のボスは天坂 舞先輩。学園ではその白い肌から純白の天使とも呼ばれる彼女は、今はその背中に白い六枚翼を広げて舞い上がり、こちらに向けて立て続けに光の玉を放ち続けている。
うぉぉぉ、弾幕ゲーかよ! 真っすぐの弾だけじゃなくて、急な角度で曲がる弾やホーミングしてくる弾もあるんだが?
「ミコト君! 大丈夫、痛くないから楽になろ? ねっ、動けなくなったら優しく看病してあげるからねえへへ……」
金髪を棚引かせ、天使のような(いや種族自体が天使系なんだけど)笑みを向けてくる彼女。うちの学校の野郎どもがこの笑顔を見せられたら腰砕けになるだろうが、今の俺には通用しない。
というかその瞳の輝きになんか寒気を感じて、逆に必死で逃げたくなるんだが!?
しかし今日はいつにもまして弾幕がキツイ。それでも時間に余裕があればどうとでもなるんだが、今は本当に時間に余裕がない……仕方ない、やるか!
「うぉぉぉぉぉ!」
俺はバフスキルを掛けながら彼女の方へ向けて一気に飛び出す。とにかく近寄らないと話にならないんでな!
「さすがにそれは甘いよミコト君!」
当然彼女はその俺の進行方向に向けて、一気に弾幕を集中させてくる。
だが俺は足を止めず、その弾幕の中に飛び込んだ。
パキィィィン!
黒水晶の砕ける音が響く。
「ミコト君?」
その音に反応したか、彼女の弾幕が一瞬緩んだ。
チャンス!
俺は光の玉によって巻き起こされた爆発の中から飛び出す。
先程掛けていたのは防御系のバフスキルだ。おかげでなんとか黒水晶一個分のダメージで抑え込むことが出来た。
これで彼女の元へ肉薄できた! 後は、
「【バインドチェイン】!」
「きゃぁんっ!」
俺のスキルによって生み出された鎖が天坂先輩に絡みつき、彼女を床に引きずり落とす。
その彼女に向けて、俺は剣先を向ける。
「あ……ミコト君」
「ごめん、天坂先輩」
「あ、みーくんの太いのが私の体に突き立てられるんですね」
おい清純派美少女。
さくっ。
「あんっ」
●第十階層
「ふん、ここまでで大分ダメージを受けたみたいじゃない」
第十階層。
自宅を除けばダンジョンの最深部であるその場所には、一人の少女が腕を組んで待ち構えていた。
その少女は俺の胸元くらいまでしかない小柄な体を漆黒のゴシックドレスで包み込み、俺の事を不敵な表情を浮かべながらも睨みつけてくる。
「まさか、水晶が残り2つでアタシに勝てるとでも? ミコト」
「いやでも、最近魔宮先輩に水晶2つ以上砕かれた事ないんですけど」
「……」
あ、黙り込んだ。
あ、俯いちゃった! なんかプルプル震えてる!
「間宮先輩?」
「ふ……ふふふ。これまでのアタシは本気じゃなかったのよ」
声も震えてるけど大丈夫ですか?
あと割といつも全力だったと思うんですけどね。付き合い長いからわかりますぜ。
でもそれ口に出すと泣かれそうな気がしたので言わない。流石に泣いた彼女を慰めている時間がないし。
申し訳ないが、ここはとっとと進めさせて頂こう。
「ではその力を見せてもらいましょうか」
「ふふ、後悔することになるぞ」
あ、声の震えが消えた。持ち直したか。
そして彼女は顔を上げならいう。
「絶対ミコトをあの女の元へなんて行かせないんだからな!」
あの女て。ただ俺は配信見たいだけなんですけど?
「構えろミコト!」
「村中 尊! 推して参る!」
そして最終決戦が始まる。
●第十一階層(自宅)
『それじゃ皆さま方、またですわ~』
PCのヘッドホンから流れる澄んだ声を聴き終えて、俺はヘッドホンを耳から外した。
「いやぁー……今日の配信も最高だった」
億河サウラ嬢の配信、その開始にはギリギリ間に合った。丁度配信画面開いたらローディング画面から切り替わったところだったので間一髪である。
だが俺は間に合ったのだ。おかげでたっぷり一時間、俺は至高の時間を過ごす事が出来た。満足感が凄まじい。
──さて、この後どうするかな。
正直この幸福感を継続するために、過去のアーカイブか或いは切り抜き配信を見るのに移行したいとことではあるんだが、それより先にフォローを入れておかないとめんどくさい事になりそうな気がする。
……しゃーない、下行くか。
俺はPCの電源を落とし自分の部屋を出た。




