第四階層~第七階層
●第四階層
「ぼっちゃん、お帰りなさいやし」
「デッドさん、そこを通してくれ。俺は急いでいるんだ」
「申し訳ありやせんが、俺にも役目というものがございやす。ここを通りたければあっしを倒してから──」
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「あんっ❤」
俺は第四階層のフロアボス。マミーのデッドさんの言葉を最後まで聞かずに彼の首を跳ね飛ばした。
「悪いがデッドさん、今日は小芝居に付き合っている暇はないんだ!」
デッドさんは小芝居が好きで、テレビやらなにやらで見た口上と芝居を真似したがる。
普段なら付き合うんだけど、今日はアウトだ。長い時は数分かかったりするからな、タイムロスがでかすぎる。
「おやお急ぎですか、こいつは失礼。5秒で終わる奴にしとけばよかったっすね」
「次の時はちゃんと付き合うから!」
「よろしくお願いするっスー」
床に転げ落ちた頭を拾って体につなげ直そうとしているデッドさんに見送られつつ、第五階層へ。
あと筋力、敏捷力を上げるスキルをありったけ掛けておく。
●第五階層
「ぼっちゃん、今日も付き合ってもらいますぞ!」
「エルボー!」
「ふごっ」
「サマソ!」
「ぶべらっ!」
第五階層最奥、そこで待ち受けていたミノタウロスのホルスさんに俺は開幕早々連続の打撃を叩き込む。
体格差は歴然としているが、こちらはパラメータアップのスキルをこれでもかとかけた状態だ。それを連続して受けた彼はグロッキー状態になりこちらを一瞬見失う。
その間に俺は彼の背後に回り込み、彼の巨体を抱え上げ、
「ジャーマン!」
「おごっ!?」
ジャーマンスープレックスで後頭部を床へと叩きつけた。
明らかに大きなダメージを負っているホルスさん。だがタフさが売りの彼はまだ立ち上がろうとする。
なので俺は彼の腕を取り
「必殺! 脇固め!」
「あだだだだだだだ折れる折れる折れる!」
「ギブ? ギブ?」
「ギブアーップ!」
ホルスさんが負けを認めたので、俺は彼の腕を開放する。
「すまんなホルスさん、見せ場の無い戦いにしてしまって。すまんが今日は急いでいるんだ」
ミノタウロスのホルスさんはプロレスマニアなので、いつも俺にプロレスの勝負を挑んでくる。
普段ならもう少し攻撃の応酬に付き合うのだが、今日は時間がないので秒殺試合にさせてもらった。
「明日はもうちょっとちゃんと付き合うから!」
「……はい」
なんか体だけじゃなく心に傷を負った気配のある彼の背中に後ろ髪を引かれつつも第六階層へ。
●第六階層
第六階層はあの金髪イケメンの担当フロアだった。奴はまだ校門で足止め喰らっているはずなので当然ここにはいない。
結果としてアイツがあそこで絡んできてくれたのはラッキーだったな。
ボス不在の階層を素通りして、第七階層へ。この先からボスのレベルが跳ね上がるので気合いを入れなおす。
●第七階層
「ここまで来たかミコト。だが、ここから先へは一歩も進ませるわけにはいかん」
七階層で待ち受けていたのは武骨な、それでいて「え、ちょっとその部分はガードしなくていいの?」と思わせるちょっと露出多めの女騎士的な鎧を身に着けた、黒髪ポニテの女性だった。剥き出しのおへその辺りがセクシー。
ちなみにミコトは俺の名前である。村中 尊。大抵初対面ではタケルと呼び間違えられる。
しかしホント……出遅れたのが痛かったなぁ。彼女達より先に帰ってこれればここから先はノンストップで行けたのに。あー担任の顔にワンパン入れてぇ。
とりあえず妄想の中でワンパン入れて黒板に叩きつけてから、俺は彼女に向けて剣を向ける。
「悪いけど今の俺には時間がないんだ。推し通らせてもらうぜ鎧塚先輩!」
そう、俺の前に立つ女性は同じ学園に通う一個上の先輩、鎧塚早矢先輩だった。彼女が第七階層の番人なのである。
元剣道部である彼女が鎧を纏い刀を構える姿は様になっている。一定以上の実力者ならば、彼女がこれまでの階層に出てきたフロアボスとは格が違う事に気づけるだろう。
だが、今の俺には引く事は出来ないのだ。なにせ配信開始の時間まで残り15分を切っているからな!
「行くぜ先輩!」
「こい、みーく……ミコト!」
お互い、武器を構えて正面から駆け寄っていく。その途中で俺はバフ系スキルを大量連打だ。筋力アップ、武器の威力アップ、次の一撃に威力を乗せる代わりにその後数十秒間攻撃力が落ちるスキル、防御力が紙になる代わりに攻撃力が爆上げになるスキルetc、大盤振る舞いだ。
ここは一撃で決める! そのためにここまでノーダメで来てるんだからな!
勝負は一瞬だった。
俺と、鎧塚先輩の一撃が交差する。だがお互いの攻撃はそれぞれの武器に触れる事はなく、ただ真っすぐに二人の体を貫いた。
──パキィン!
同時に、何かが砕ける甲高い音がダンジョンの中に鳴り響く。
そして──膝をついたのは鎧塚先輩の方だった。
「くっ……まさか一撃で削り切られるとは……」
先程、俺の剣は彼女の腹部を切り裂いた。同様に彼女の刀も俺の胸元を貫いていた。
だが俺の胸から血は流れていないし、彼女の腹部は綺麗なままだ。
これが、このダンジョンのルールだ。
6階層から先、人型のフロアボスと俺に適用されたルール。
基本的にこのダンジョンの住人は、ダンジョンの内部では死ぬことがない。何で俺はデッドさんの首を容赦なく飛ばしたりしてたわけだが……さすがに人型、しかも超絶美人の首なんて飛ばしたくないだろ? なのでルールとして人型の敵に関してはライフゲージ制を適用してもらった。
それが先程砕けた黒水晶だ。あの黒水晶は本来俺達が受けたダメージを肩代わりしてくれるのだ。そして一定ダメージを受けると砕け散るわけである。
さっきの攻撃の応酬で、俺と鎧塚先輩の黒水晶がそれぞれキャパシティを超えて砕け散ってたというわけだ。
そう聞くと相打ちに聞こえるが、俺は残ダメージが解りやすいように黒水晶は五分割している。それに対して鎧塚先輩は分割無しの一個だ。そして俺の方で割れた黒水晶は一個だけだ。
俺の圧勝である。
鎧塚先輩は地面に崩れ落ちたまま、こちらをキッと睨みつけてくる。
「くっ、殺せ!」
はい?
突然何を言い出すんだこの人は。俺がそんなことをするはずがないだろう。
何の意図か分からないセリフの理由が気になるが、今はその時間はない。俺は動けない彼女の横をすり抜けて急ぐ。
その俺の背中で、困惑に満ちた声が響いた。
「こらまてどこに行く! 先程のセリフの後は、ミコトの手によって私を汚さないとダメだろう! エロ同人みたいに!」
あ、これなんか妙なもん読んだな? 後で説教だな。