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悪逆令嬢になんか絶対なりませんわ! …多分……  作者: 赤木緑
第一章 クリスお嬢様の長い七日間
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六話 『クリスお嬢様の魔法体験』

 お茶菓子と紅茶を交えたお茶会。それはマリーとクリスを中心に楽しく回っていた。アンネローゼの突然の一言まで。


「あぁ、そうだ。魔法、試してみるか?」


 発言の対象は当然クリス。当人はまだ菓子をモムモムと頬張っていたところだが。


「む、ム、ゴクン。ごくごく。……できるんですの?」


「できるとも。魔法陣は書いてもいいと言ったろう」


 アンネが取り出したのは一枚の白い布だった。黒い線で幾何学模様が描かれている。アンネは、クリス嬢の前に、とマリーに手渡した。


「魔力を込めてみろ」


 マリーは、目を閉じ集中し、魔力を布に込め始める。すると……。


「わっ、光りましたわ!」


「はい。見事な緋色にございます」


 黒だった魔法陣は緋色になり、鮮やかな光を放っていた。


「ふん。まぁこんなものか」


 言葉とは裏腹にアンネは感心した表情をしていた。うまくなったな、とでも言いたげに。


「よし、もういいぞ」


 ふぅ、とマリーは息を吐いて魔力の供給をやめた。魔法陣は輝きを失い、黒に戻った。


「わたし! 次、わたしですわ!」


 マリーから布を渡されると、クリスはぐぬぬと念を送り始めた。


「まぁ待て、クリス嬢。魔力を把握もしていないのに送れるわけがないだろう」


 そうなんですの、とぐぬぬをやめた。


「いったいどうすればいいんですの?」


「それなら、休憩をやめて、勉強を始めるとしよう」


 すこし長くなるかもしれないからな、と短い休憩は終わったのだった。




――まずは自分の魔力の把握からやらねばならん。魔力を流し込んで無理やり把握させることもできるが……。その練度がある者がこの場にいないからな。自分だけでしてもらおう。


 そう言うと、アンネはクリスを仰向けで寝かせた。手を胸に重ねさせ、自分の呼吸を確認できるようにしている。部屋は光が差さない程暗くなっていた。こうしているとお人形みたいだとマリーは思ったが、口には出さなかった。


―― 一定の間隔で呼吸しろ。他は何も気にするな。とにかく、乱すな。


 そう指示した後、なにか操作して、クリス以外は部屋を出た。リーンは残ってクリスと同じ訓練をと願いでたが、アンネが必要ないと拒否した。



「本当に、大丈夫なのですね」


「はい、私もこんな感じでした」


 部屋を出てすぐ、三人は話始めた。何かの仕掛けで、部屋の中には音が入らないらしい。


「マリーさまを疑うわけではありませんが……」


「心配性だな。こんなものでなにかあるものか」


「リーンはクリス大好きですから、仕方ありませんよ。アンネ」


「宮廷のものといえど、お嬢様に何かあれば……」


 時間にして約二十分ほど、心配するリーンとそれを慰め続ける二人という構図が展開されたのだった。




 暗闇の中、クリスは言われた通りに呼吸に集中していた。一定の間隔で、一定の間隔で。そう思い続けても、光が綺麗だった、お菓子がおいしかったなど思考が少しずれた。そのたびに少し呼吸が乱れた。だから、乱さぬようにクリスはわずかに思考を削っていった。暗闇の中の時間は長く、削りきるには十分だった。


 思考がなくなると、クリスは自分の身体をじっと見つめているような感覚になった。手、足、腹、顔、それぞれよく知った自分の体のはずなのに、まるで知らないように感じた。指先から、一つ一つ観察するようにすると、ふと、それは起こった。

 胸の奥になにか、光って湧き出てくるものを感じたのである。クリスはそれが気になって、手を伸ばして、確かに触れた。




「時間、だな」


 アンネは懐中時計を見て、そう言った。

 真っ先に部屋に駆け込んだのはリーンである。ドアからは、アンネがサプライズと称したような、バァン! という音が出た。


「お嬢様!」


 クリスは、リーンの出した音に驚き、身を起こしていた。


「な、なんですの、リーン!」


「お嬢様! よかった……! どうなるかと」


 リーンがクリスに抱き着いた。クリスは困惑した。


「……第一印象が良くなかったのは認めよう。だが、こんなにされるほどか?」


「警戒された時点で当たり前です。もっとまともな仕込みをしてください」


 アンネはその偉丈夫のような体格に見合わないように落ち込んでいた。自業自得ではあるので、マリーも慰めなかった。


「クッ……。クリス嬢、どうだ?」


 いますぐ何とかしたい気持ちを抑えて、アンネは言った。


「なにか、なにかは掴めましたわ」


「よし、それでいい。その何かを布に込めろ」


 マリーは、大丈夫でしたから、とリーンをクリスから引きはがし、魔法陣の書かれた布を渡した。

 クリスは、布を受け取ると深呼吸をし、目を閉じて集中し始める。考えるのはさっきのこと。胸の光を手の方へ。


 しばらくそうすると、息を飲むのが聞こえた。

 気になって、薄目で見てみると、マリーよりは淡いものの、クリスの髪と同じ見事な金色に光っていた。魔法陣もきちんとその色に染まっていた。


「……、やりましたわ!」


「はい、見事でございますお嬢様!」


「わぷっ!?」


 リーンがクリスを抱きしめた。今度は、クリスの顔を胸にうずめるように。その横でマリーはうんうんとうなづき、アンネはニヤリと笑った。

 こうして、クリスの魔法体験は無事終わったのだった。

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