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悪逆令嬢になんか絶対なりませんわ! …多分……  作者: 赤木緑
第一章 クリスお嬢様の長い七日間
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十六話 『ちょ↑っと混乱』

 マリーはどうすればいいかわからなかった。聖女をどうこうするというのは、マリーがどう根回ししても不可能だった。


「それと……」


(それと!?)


 原因のもやも結果のもやも、わかったはずなのにクリスは続けようとした。これ以上、どうなれば気が済むというのか。びくびくしながら、マリーは聞いた。


「こ、これ以上があるんですか?」


「そ、その……」


「おんなのこに、目が向くようになっちゃって」


 クリスはうつむきながらではあったが、緊張と恥ずかしさが半分半分、という心境の声色だった。

 国家転覆、聖女に恋と比べれば、まるで問題ないようにマリーは感じた。いや、クリスにとって問題なのは今までの態度でわかっているのだが、今までの規模が大きすぎた。そんな風に、安心していいのか悪いのかわからないものだから、クリスへの返事がぎこちないものになってしまった。


「……な、なるほど」


 その返事を聞いて、あーあ、やっちまいましたわと思ったのがクリスである。いまだに、マリーの表情を見れないクリスは、引かれた、と感じたのだった。自分は賭けに負けた、そう感じたのだ。


(仕方ありませんわね。王家だろうと、庶民だろうと、同性を愛する方のお話は聞きませんし)


 一周回って、クリスは冷静になっていた。それよりも、どうやってマリーと元の関係に戻れるかを考えていた。アンネには悪いが、今日はいったん出直して、リーンと考えてから来るのもありなような気がした。


「あっ、そ、そうではなくてですね、ちょっと話が大きかったのでびっくりしていたというか」


 私はそういうの別に気にしていないというか、とマリーは続けたが、既に手遅れである。フッとクリスが笑った。


「あなたも、そういう対象ですのよ」


 クリスは自棄になっていた。冷静ではあったものの、親友に拒絶されたという衝撃は大きく、何を言われるかなんてもう何も考えていなかった。だから、マリーに目を惹かれた、と真実を告げてしまった。

 マリーの反応は、と言えば、


「あ、あぁ……ぅ」


 傍目から見れば、まんざらでもないように見える。

 しかし、その心情はそうではなく、親友からの突然の告白にマリーは驚くと同時に困惑し、さらに赤面していた。マリーにしてみれば、自分が告白されるとは思ってなくて、でもクリスは恋愛対象ではなくて、でも、かわいい親友に告白されること自体が嫌なわけじゃなくて、とどうすればいいかまたわからなくなった。


 また、沈黙が起きた。


 今度は、クリスの方から手を引いた。離れる親友の体温になぜか必死で、マリーはもう一度手を取った。


 あ、あ、とマリーもうつむいて何やらぼそぼそと言った後、覚悟を決めたように顔を上げた。その目はぐるぐる模様を描いて、顔は耳の先まで真っ赤だった。


「じゃ、じゃあ、ちゅーとかします!? ほら、女の子どうしなら最初に数えないっていうじゃないですか!?」


 マリーは自分が何を言っているのかわからなくなっていた。

 様子のおかしくなったマリーが気になって、クリスはようやく顔を上げて、マリーの顔を見た。真っ赤だった。そして、少し冷静になった。自分の発言を、よく振り返る。


(……あれでは告白ではありませんの!?)


 どう考えてもさっきの発言が原因だった。クリスとしては意趣返し、くらいの意図しかなかった。しかし、そういう対象ですのよ、は、あなたも恋愛対象です、と捉えられてもおかしくはなかった。むしろ、そっちの方が自然だった。


「さ、さっきのは告白などではありませんわ! マリーがかわいくて、つい見つめてしまっただけで……」


「じ、じゃあ問題ありませんね! 練習、練習ですから!」


 マリーにはまともな思考は残っていないようだった。クリスにもだが。


(そ、そうだ! リーンは……)


 なけなしの思考でクリスはリーンの方を見た。リーンはクリスの片手をがっちりとつかんで離さない。


(リーン! 違いますわ! マリーを止めて!)


 リーンは首を傾げた。お嬢様とマリー様の仲が良いのは良いことでは、とでも言いたげだった。


(リーン!)


 救援が期待できなくなり、心の中でクリスが叫んだ。マリーを止めなければ、とマリーの方を向くと、既に真っ赤な顔が眼前に近づいていた。もう、マリーしか見えなかった。


(どうにか、どうにか……)


 既に、クリスの両手は塞がれていた。どうにもできない。

 マリーが目を閉じた。少しずつ近づいてくる。親友の、可愛さと美しさを同居させた魅惑が、すこしずつ、ゆっくりと。ここでふと、どうして自分はちゅーを断ろうとしたのだろう、とクリスは思った。勢いに乗せられただけで、特に理由はない、とクリスは感じた。


(……これはこれで)


 いいかもしれませんわね、とクリスも目を閉じた。その顔も、真っ赤だった。混乱が伝線していたことは明らかだった。


 少しずつ、二人の距離が縮まっていく。


 息のかかりそうな距離から、息のかかる距離へ。


 息のかかる距離から、体温が伝わりそうな距離へ。


 体温の伝わりそうな距離から――



 ふと、クッキーの美味しそうないい匂いがした。まるで焼き立ての、今ここに持ってきたような匂いだった。


「……なにをしているんだ。お嬢様方」


 こうして、お嬢様二人とメイド一人をさんざんまたせて、ようやく本日の呼び出し人アンネローゼが登場したのだった。大量のクッキーと、人数分の紅茶をトレーに乗せて。

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