聖夜の空で
超短編
シャンシャンシャンと鈴の音が響く夜空。
そこには筋肉粒々で顔に数多の傷を残す厳つい巨躯の老人が赤い帽子と衣服を纏って、同じく筋肉粒々とした巨躯のトナカイ二頭が引く金色に輝くソリに乗って音速に近い速度で天を駆けていた。
街中に入ればソリの速度を緩め、老人の横に置かれていた大袋から小さくとも美しい冬の精霊が子供達へのプレゼントを持って出て、街中に散っていくのを見守り、そして再加速。
それを各地で繰り返し、途中で領空を守る戦闘機と速度を合わせてパイロットと手で挨拶を送りあったり、時には空のカーテンを揺らしてオーロラを出したりしながら24日の夜を駆け抜けていく。
順調にプレゼントを配り、余裕を持って追われそうという時に急速に老人の乗るソリへと向かってい来る者達がいた。
それは邪神や宇宙人等からちょっと珍しい知識や力を貰った子供たちで、その数は50を超える。
この1年間の自身の振る舞いを省みる事もなく、自分の欲望を満たすために赤い老人の持つ他の子のプレゼントを強奪しに来たのだ。
20世紀に入って急に増えた問題児達だが、老人にとっては顔ぶれは毎回変わろうとも毎年恒例の事。
老人は袋に手を入れ、そこから丈3メートルはある巨大な持ち手の付いた平たい鉄塊を引き出した。
其れを二度三度軽く振り回し、1時間だけの闘争が始まる。
子供等が放ってくるのは魔術や超能力、人類がまだ到達していない段階の武器、時には正気を抉ってくるような姿をした怪物を嗾けてくる子供もいた。
それらをトナカイ達の巧みな走行で避け、鉄塊で弾き、時には筋肉で受け止める。
攻め立てる子供達だが、老人が振るう鉄塊は数の差などモノともせず飛び回る子供達を容赦なく叩き墜していく。
あれだけ居た子供達はすでに十数人を残して墜ち、残った子供達はもう駄目だと、もう無理だと言って先に墜ちた仲間を見捨てて逃げようとした、そんな時。
彼らの周りに黒く渦巻く何かが現れて動きを強制的に止めてしまう。
そして赤い老人の乗るソリの横に、いつの間に居たのか枯れ木のようにやせ細った黒い帽子と衣服を纏う老人を乗せた山羊が引く古めかしいソリが並んでいた。
黒い老人は何も喋らずに薄汚れたボロボロの袋を開けると、黒い渦に囚われた子供達、そして赤い老人が墜としていた子供達が何かに引き寄せられるように袋の中へと吸い込まれていく。
吸い込まれた子供達の悲鳴も、黒い老人が固く袋を閉じれば一切聞こえなくなる。
そして黒い老人が山羊に合図を送れば、ゆっくりと戦車が動きそのまま闇夜に紛れて消えてしまう。
あとは先程までの闘争が嘘のような静けさの中に赤い老人が残される。
老人はやれやれと首を鳴らして鉄塊を袋の中へとしまい直し、懐に入れていた懐中時計で時間を確認する。
無駄な時間を使いはしたものの、まだ十分に間に合わせれられる時間。
老人はトナカイ達に合図を送り、天を駆ける。
良い子にしていた子供達に、夢と希望を送るために――――