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涙の魔法使い 〜その悲しき運命を超えた先に〜  作者: 夕凛
「バイアスの弾薬」編 第一章 『身分』
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~誰であろうと~

 捕まえた捕虜は、拠点の地下の大牢獄に収容された。しかし、いくら牢獄と言っても衛生面は整えられている。食事は出るし、清潔感もある。「その場所から出られない」、「魔法が使えない」等を除けば、ある程度自由がきくようにしてある。捕虜をおいて、報告を済ませてから、弟子たちに会いに行くことにした。


「師匠、稽古をつけてください!」


 帰ってきた僕のもとへ一番に駆けつけてきたのは、弟子の一人のエトワールだった。

 よく見れば、後ろからエアスやマスティカ達も走って来ていた。


「なら、いつもの稽古場へ向かっていてくれ。僕は任務の報告を済ませて...」


「私がやっておこう。なに、今回私は達観することしかできなかったのでな。せめてこれくらいのことはやらせてくれ。それに、弟子たちを待たせる訳にもいかないだろう。なにぶん軍隊長殿は話が長いのでな」


 フレナが報告を済ませてくれるそうだ。

 僕はお言葉に甘えることにした。


「行こうか」


 そう言って、転移(セプテ)の魔法で、まとめて移動した。

 僕がいない間にも自主練をしていたらしく、辺りの地形が少し崩れている。

 まずは、いつも通り男同士、女同士で模擬戦をさせ、僕がダメ出しをするいつも通りの訓練が始まった。


「エアス、攻撃がワンパターンだ。エトワールが徐々に君の攻撃に慣れてきている」


「はい!」


「エトワール、君はもう少し柔軟に対応しよう。エアスが攻撃の仕方を変えただけで軸がぶれている。少しの向き、角度が違っても対応出来るように」


「分かりました!」


 二人とも順調だ。

 少しずつ着実に強くなっている。

 問題は女子の二人だった。

 僕は妹たちのおかけがか、年下の女性の扱いに長けていた。問題はそこではないのだ。

 彼女たちは仲が良いのか、どこかお互いに遠慮しがちな様子だった。


「二人とも」


 そう言って呼び止めた。

 すると、二人はピタリと模擬戦を辞め、僕の方へかけてきた。


「君たちはお互いにどこか遠慮しがちな所がある。相手が誰であろうと、ギリギリ殺さない程度でやるんだ」


「マスティカや師匠、反乱軍のメンバーならまだしも、貴族相手でも殺しては駄目なのですか?」


 ロイーヤが聞き返してくる。

 あまりにも純粋な声だった。

 彼女たちは、今までに人を殺した経験があるのだろうか。だとしたら、できるだけ辞めさせたい。国を転覆させようと目論む反乱軍のメンバーにこんな事を言うのは筋違いであると分かっている。それくらいの事も出来なければ、いっそのこと加わらない方が良いと言うことも。

 しかし、彼女たちはまだ十五、六だ。

 僕は十五の時に人殺しをしたことがある。

 海外に行った際に飛行機ジャックにあい、仕方なくだったが躊躇(ためら)っている暇もなく、躊躇なく殺した。

 それ以降、人を殺すことの重みをあまり感じなくなってしまった。

 彼らにそうなって欲しくはなかった。


「出来るだけ人は殺すな。それが僕からの課題だ。いくら憎い相手でも、ゲス野郎でも、殺しは良くない。守ってくれるか?」


「課題なら仕方ないですね~。心がけます。その代わり、いざとなったら(いと)わないですよ」


 マスティカたちも、快く応じてくれた。

 内心とてもほっとしていた。 

 彼女たちが復讐を目的に反乱軍をしているのであれば、もしかしたら彼女たちの生きる理由を奪ってしまいかねなかった。その点は免れなかったようだ。


「それじゃ、お互いに遠慮をしないこと。殺さずに相手を戦闘不能状態にすることを念頭に置いてもう一度模擬戦を開始してごらん」


「「はい!」」


 良い返事だ。

 さて、男子チームはそろそろ次のステップかな。


「二人とも集合」


 彼らも、僕が声をかけるとその場でピタリと動きを止め、こちらにかけてきた。


「どうしましたか?ユーリさん」


 エアスが不思議そうに聞いてくる。


「そろそろ次のステップだ。君ら二人のコンビネーションを鍛えていきたい」


「それは、具体的にどのようにですか?」


 エトワールもすかさず食いつくように質問してくる。


「僕と君達で二対一。一本でも取れれば君たちの勝ちで良い。初めの内は、一日で一本取れるか取れないか程度を目標にしていこう。今日の所はこれで解散」


「了解ですっ」


 森の中から、夕陽が差し込んできた。

 ヒグラシの鳴き声も聞こえる。

 僕は芝生の上に少し横たわり、目を瞑ってリラックスする。

 しばらくすると、足音が聞こえてきて、目を開けるとロイーヤたちが僕のでこをツンツンとしてきた。


「起きていたのですね」


「何かあったのかい?」


「いえ、別に。ただ、男子に今日の訓練はもう終わりだって言われたから」


 いや、女子はまだこれからだ。

 今日の訓練の成果を見なくてはいけない。


「君達には、今日の訓練の成果を見せてもらう。僕と一対一でだ。オーケーかい?」


「はい」


「じゃ、僕はそこで寝っ転がっているから、準備が出来たら声をかけてくれ」


「準備は必要ありません」


 即答だった。

 思わずきょとんとしてしまったが、すぐに「分かった」と返事をして、立ち上がった。


「殺さないように、相手を戦闘不能にすることと、相手が僕だからって遠慮をしないことを意識してね」


「分かりました」


 ロイーヤは短剣を手に取り、構えた。



 

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