〜combination〜
任務地付近にて、僕とフレナは崖の上から谷底にある敵の拠点を観察していた。
「あれが、貴族たちが雇った傭兵軍団の拠点か...。さすが貴族だね。あれじゃあまるで、一端の城じゃないか」
本当にそう思わせるほど豪勢なで大きな建物だった。
「ああ、そうだな」とフレナが頷く。
「あの建物も、奴らの武器も、全部私達から徴収した金で作っていると思うと気分が悪くなる。もっとも、今は払ってない金だがな」
彼女はそんな独り言をつぶやいていた。
この傭兵軍団は、お昼頃には隊列を整えて再出発するそうだ。
本当なら明け方頃に起きて出発する予定だったらしいが、移動手段を変えたため昼間までぐっすり眠れた。おかげで気分がいい。
「一つ質問してもいいですか?」
「構わない」
「ここの戦力を全部削いだらどれくらいの影響があると思いますか?」
「そうだな。この人数だと、貴族共が今すぐ降伏してくるかもしれないな。ざっと見て、あいつらの戦力の三分の一くらいってとこだろう。流石に自分たちの戦力がそれほど失われたら、いても立ってもいられないだろうしな」
なるほど。そんなに多いのか。それだけ、相手にとって今回のこの任務は需要らしい。半ば本気で僕らを潰す気らしいからね。
なら、答えは一つだ。
→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→
暫く待って、奴らが隊列を組み始めた。
「獄門『門番召喚』!!」
「!?。おい、なんのつもりだ」
「?」
「まさかあの大軍とやりあうのか?たったの二人で?流石の私でも、こればかりは一度始めてしまえば命をどぶに投げ捨てざるを得ないぞ」
フレナがそう言っている間に、ユリウスの足がにょこっと現れる。と同時に、いつもの眠たそうな顔も姿を表す。
「はぁ~。人が気持ちよく寝ているときに限って君という人間は。僕の怒りを焚き付けるのがそんなに好きなのか?」
「今日はやけに機嫌が悪いね」
「僕が人嫌いなのを知っておいてよくそんなことが言えるよね君は。だってあの城みたいな建物にパンパンに詰まっているじゃないか。こんなところに呼びつけるなんて新手の拷問だよまったく」
「話を戻すようで悪いけど、時間も食っている場合じゃない」
「また何かの任務かい?」
「あれを見てくれ。今回の敵さ」
「やっぱり。みんな、今すぐにでも地獄に来そうな連中ばかりだよ」
ユリウスは、口調を早くして早く地獄に帰りたそうにしていた。
「ん?いや、あれは人間じゃないね」
「何!?」
真っ先に反応したのはフレナだった。
「鎧を剥げばわかると思うけど、あれは人の形を成した何かだ。もっと醜い何か」
ユリウスが言う、「醜い何か」という言葉が引っ掛かった。人ではない、醜い何か。
まさかとは思うけど...。
「もしかして、森にいる魔物のことかい?」
「何だと!?」
「ん?その森の魔物がどんなのかは分からないけど、そうなんじゃないかな。あの形になるのに人の手が加えられているみたいだし」
「なぜそんなことがわかる?」
「周知の事実かどうかわからないけど、僕は地獄の人間なんだよ?目に映した者の魂の形くらいはわかる」
ユリウスがさも当たり前かのように淡々と述べる。
「まさか...。アイツら、やりやがったな...!」
「多分あの城の中に、バケモノ共を統括、指揮している人間がいるはずだよ」
人が、あの森で見たバケモノを利用したというのだ。まったくもって冗談ではない。
目の前にいるやつらが鎧と併せて剣や盾を装備されているとなっては、数段厄介になる。
「ユリウス」
「なんだい」
「この人数の兵士もとい魔物らを、僕と二人で相手したとして、大体十秒位で行けるかい?」
普段は僕が一人で戦うか、ユリウス一人に任せっきりにしていた。故に久しぶりの二人揃っての戦闘。故にこういった意思疎通も大事となる。
「いや...五秒で殺す」
「上等だ。今回は思い切りやっても構わない。ただし、周りの建物への被害は避けるように」
そう言うと、ユリウスは「ハイハイ、いつもの注文ね」と吐き捨てた。
今日は不機嫌だ。もともとの人間嫌いな性格のせいだろうか。彼は昔から人が多い場所は好まない。
おかしいな。目の前にいるやつらは人ではないというのにね。
「いくら二人でも、それは流石に無理だ!!敵は武装した森の魔物たちだぞ!!」
フレナが横から首を突っ込む。
当たり前の反応だ。敵総勢、約五万体。そりゃ無理だと言うのも分かる。
ただ、僕らとて無謀なことをわざわざやるような人間じゃない。
「一匹だけ残して、全員消してくれば良いんですよね?」
「あ、あぁ」
残された一匹は、後に分解、研究されるだろう。かわいそうにね。
フレナは、僕の言葉と気迫に圧倒された感じで、本音では許可したくないと思いつつも許可せざるを得なくなり、ゆっくり首を縦に振った。
それじゃ、久々に派手にやりますか。
「獄門『閻魔』!!」
地獄の大王、閻魔。
幼い頃から僕の身体に纏わりついている。心のなかで話すことも多々ある。
僕が十六のときに、僕を地獄まで案内し、試練を受けさせた。その時に出逢ったのがユリウスで、この「閻魔」の魔法はその際に閻魔大王から授かった、獄門の切札の一つ。
しかしそのせいか、この魔法を使用すると少々の間人格が歪んでしまう。運が悪いと、閻魔大王に身体まるごと乗っ取られることもある。
僕もまだまだ未熟なもので、これを御しきれていない。
その代わり、強さは保証出来る。
「フッ...フッハッハッハッハッハッ......五秒間だけのショータイムの始まりだ!行くぞ、ユリウス」
案の定乗っ取られてしまった。
「やれやれ。こうなるとこいつは面倒なんだよなぁ。今回みたいに閻魔様出てくる時あるし。まぁ楽になったと考えればいいか......。はぁ」
崖から降りると、すぐさま戦闘になった。
その崖の上からフレナがなにか呟いているのが見える。
手を合わせているから、何か祈っているのだろう。後で礼の一つでも述べておくか。
「ホラホラ、よそ見してんじゃねぇぞユリウス」
「ああもうわかったよ。真面目にやるから黙っててくれませんかねぇ」
「あ?だとコラ」
「あの二人、連携が凄い...!コンビネーション、相性が抜群に良い...!!お互いがお互いをカバーし合い、更には味方に攻撃を当てず、敵の急所も避けている。それらがどれだけ難易度の高いことか。言うは易しとはこのことだな...」
祈りを捧げ終わっても、フレナの口は止まらなかった。
実際、戦場ではフレナの言う通りの事が起きていた。
「お前等全員地獄行き決定だ」
僕(閻魔)がそう言うと何人かの兵士が反論してきた。
「てめぇなんかに俺らの未来を決める權利なんてねぇんだよ!クズが!!」
「残念ながらあるのさ。俺は地獄の閻魔様だ。さぁ、地獄へのカウントダウンの始まりだ」
傭兵たちは次々となぎ倒されていき、瞬きすれば、新たに千人は倒れていた。
「閻魔の太刀・落陽一丁目『黯懼餮血挽歌宴』」
「地獄流抜刀術・沙羅双樹」
閻魔もユリウスも、「こうでもしなきゃ殺してしまうよ...」という感じだった。
敵兵の装備はそれなりに良質な物なのは見れば分かる。魔物ごときに大層なものを無駄使いしてくれたものだ。
「ふぅ...」
終わったと同時に、僕身体から閻魔が離れていった。
早く帰ろう。
戦闘不能にした敵兵は、連れ帰って締め上げるとしよう。事情聴衆なりなんなり出来るだろうからね。
さぁ、今回も任務完了だ。