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涙の魔法使い 〜その悲しき運命を超えた先に〜  作者: 夕凛
「バイアスの弾薬」編 第一章 『身分』
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〜どうやら弟子を取るらしい〜

 

「ユーリさんのあの魔法強かったなぁ〜。なんで、僕やグレイの魔法が使えたんですか?」


 エアスが質問してくる。当然の疑問だろう。

 大抵の世界では、魔法とは一個人に与えれる固有なものとなっている。

 僕が調べた上ではそうだ。


「僕の魔法、複製(デュラスケイト)。一度見た人の魔法、身体能力、ありとあらゆる特技を複製、コピーできる。ただ、大半の人間は、コピーしたところで今までずっとその魔法を使い続けてきて熟練度が桁違いな訳だから、仮に同じ魔法で戦ったとしてもかなわない。応用力や使い勝手がまるで異なるからね」


「なるほど...」


「でも僕の場合は、それらを咄嗟の対応力と瞬発力で完璧とまではいかないけど、ある程度はカバーしているのさ」


 エアスは今の説明では理解が追い付かなかったのか、追い付こうと顎に手を当てて、唸りながら考えていた。


「それじゃあ。失礼するよ」


 エアスのもとから去っては来たものの、その日は特にすることもなく、部屋でゆっくり過ごしていた。


「失礼する」


 ノックもなしに、女性が部屋へ入ってきた。


 紫色の髪の毛に紅色の瞳そして高身長、年齢は二十歳くらいだろう。とても貧民とは思えない風貌で、凛として佇んでいる。とても美人だ。


「今度の任務でご一緒します。反乱軍小将、フレナです」


 そいうと、目の前の女性は敬礼をした。

 身体も引き締まっていて随分様になっている。


「ユーリ准尉。あなたはとても強いとお聞ききました。任務の作戦等を考えるために、手合わせを含めて貴方が使える魔法を教えていただけないでしょうか?」


 いつの間に階級が上がったのだろう。新兵から准尉だと、随分な出世だ。伍長や軍曹といった立場の者に申し訳ない。


  それだけなら良かったが、もう既に次の任務が決まっていたとは。そういった事はもっと早く伝えて欲しいものだ。

 今更言ったところで今回はもう後の祭りだが、次回以降改善されることを願って後で頼むとしよう。


「構いませんよ」


 反乱軍の人たちは他人と手合わせをするのが趣味なのだろうか......

 そう心でぼやきながら、この前グレイと手合わせをした所まで移動してきた。


「では、手合わせを始めます!」


 透き通ったきれいな声が響く。と、同時に彼女は魔法を畳み掛ける。


「輝け、神秘なる天の氷よ。かの大地を凍り尽くせ!凍りついた天地フローズン・ヘブンズ・ランド‼」


 見た目に反して、氷雪系の魔法か。

 僕の経験では、瞳が赤い奴は大抵火属性の魔法を放ってきたものだが......

 まもなく、辺りは雪景色と化した。

 大地ごと僕は凍り、氷に包まれ身動きが取れない。

 やるね......。ただ、僕との相性は悪かったようだ。


氷の破壊者(アイス・ブレイカー)


 周囲の氷にひびが入り、瞬く間に割れた。


 僕の周り約半径1メートルにある氷をすべて破壊した。この魔法を持っていると知っている者に、氷雪系の魔法で挑むものはいない。


  この魔法は、半年前くらいに他の異世界人から僕が複製したものさ。なんでもその世界には、その地に根ざしていた「世界を覆う『永久氷塊』という巨大な氷塊を破壊する」仕事(ジョブ)があったらしく、氷の破壊者(アイス・ブレイカー)はその仕事についた者が代々受け継いだ魔法らしい。


 その話を聞いた時は、どこぞの異世界で読んだ小説に登場するギガスシダーとか言う大きな木を倒そうとする青い服の剣士が脳裏をよぎったものだ。

 それはもう今すぐにでも、「咲け!青薔薇!!」とか言い出しそうな雰囲気だったよ。


 まぁ、何はともあれ運が良かったね。


「よもや私の氷が破壊されようとは。グレイの件といいこれといい、アブノーマルな存在...」


 無惨にも粉々に砕け散った氷の破片を見て言う。


「どうやら、噂以上のようですね...。でも、まだ負けませんよ」


極北の短剣(アスベル・ダガー)!」


 近接戦か。こっちに来てからはグレイと戦った時以来だったね。手合わせも兼ねて僕の能力も知りたいと言っていたので、また「あいつ」に来てもらうか。


「獄門『門番召喚』。お呼びだよ、ユリウス」


 するとユリウスは、ふわぁ〜とあくびをしながら出てきた。いつものことだが寝ていたらしい...。


 彼は門番なんじゃなかったのか...。寝てていいのか?


「で、なんだい今日はあの(むすめ)を殺せと?」


 さすがに冗談だろ、といわんばかりの眼差しを僕に向ける。


「いやまさか。これはほんの手合わせだよ」


「困るなー。手合わせごときで地獄の門番を勝手に連れてこられちゃなー。これでもあのケルベロスより強いから門番になったんだよ?その意味、ちゃんと解かってるかい?はぁ。まぁいいけどさ。じゃ、とっとと終わらせるよ」


 僕らのやり取りを、眼の前で見ていたフレナは驚いていた。


 そりゃあ無理もない。いきなり大きな門が現れたかと思えば、そこから人の形をした生き物が出てきたのだから。


 フレナは気を持ち直すと、先程精製した短剣を手にユリウスとやり合った。

 結果は目に見えていたが...。


「地獄流、刀振術(とうしんじゅつ)鬼修羅魏(きしゅらぎ)


 存外に呆気ないものだった。だが、ユリウスと対峙して五分もったのは大したものだ。

 大抵の戦い、一対一の場合は特に先に尻込みをしたほうが負ける。ユリウスには地獄に住む者の特有の覇気みたいなものがあるらしく、戦う前に怖じ気づく者が大半だ。


 フレナは、初めて接するユリウスの禍々しい気配に耐え切れなかったのだろう。そこをユリウスに狙われたというわけだ。


 彼は「ふぅ、久々に刀を振るった」というと、後は任せたよと、その場を去っていった。


「おや。門の中に戻らないとは、珍しい事もあったものだね」



 そうボヤいたあと、フレナの足と背中を下からすくうようにして持ち上げ、そのまま医務室まで運んだ。


「これはこれは。珍しい事もあるものですねぇ」


 今日は珍しい事がよく起きる日らしい。


「そんなにですか」


「そりゃあ、漢も黙るフレナ」


 僕は再びユリウスの所に戻った。


「彼女は医務室のベットまで運んでおいたから、今日はもう帰っていいよ」


 そうユリウスに伝えた後でふと、「アレ」を忘れていることに気付いた。


「あ、そうだった。いつもいつもご苦労様」


「おお!!これは、僕に向けてのプレゼントかな?まったく、面倒見が良すぎるのも行き過ぎると玉に傷というものだよ?お前の姉妹たちも、いつもお返しに困っているというのに...」


 ユリウスに向けてのプレゼントだ。別段何かあった訳でもないけど、いつもいつも地獄から呼び出しているからね...

 それに、何もしてやらないとこっちが何か悪いことをしている気分になってきてしまうし...


「じゃ、今度はお返しの一つでも持ってくるよ。またね」


 そう言うと、ユリウスは地獄へ帰っていった。


 そういえば、僕の家族について何も話していなかったね。両親は二人とも軍人で、あまり家に帰ってこない。だから普段家には、僕以外に姉が一人と妹が三人かな。ま、詳しくはまた今度。向こうに帰った時に。


「はぁ、次の任務はいったい何やら......今日はもう疲れたし、寝るか」


 翌日、部屋の前に大きな人だかりがてきていた。騒がしい。朝っぱらから何事かとドアを開けると、その元凶は僕だったらしい。転移(セプテ)を使って、エアスのところまで行って何事かと事情を聞いた。フレナが手合わせで手傷を負ったと聞いて、負わせた相手の元に集まってきたらしい。聞けばフレナは、反乱軍で無敗を誇る男顔負けの魔法士らしい。ひとまず部屋に戻って何をしに来たのか聞いてみるとしよう。

 すると、人だかりは僕が戻らずともここへやってきた。


「君たち、何しに来たんだい?」


 彼等の目が輝いている。それはもう、とても怖いほどに......。

 その目が僕の妹たちを思い出させ僕をうんざりさせた。


 姉妹がこの目をしたときは大抵良からぬことを考えている。

 例えば、僕を脅してベットに連れ込む方法が思いついたときとか、僕を脅迫してデートに連れ回そうとしているとき。どれもろくな目に会わなかった。


 以上の事柄を踏まえて理解していただけたかもしれないが、傍迷惑なことに僕の姉妹は四分の三は兄または弟好きなのだ。


 他に男兄弟がいればどんなに楽だったか。


 羨ましいと妬むものが多いのは承知のことだ。がしかし、こちら側の大変さを少しは分かって欲しい。

 そんなことも合間って、彼らの言い分を聞くのが少々というより、大分躊躇われた。


「あの、フレナさんに手傷を負わせたのって本当ですか?良ければ弟子にしてください!!」


 仕方なく耳を傾けると、大半の者がこう言っているのがわかった。


 僕の姉妹みたいな、変に邪な感情はないとみて、仕方なくグレイとフレナとの手合わせ場所に弟子になりたい人たちを集め、その中から僕の修行に耐えられそうな者だけを選ぶことにした。


 グレイとフレナとの手合わせ場所(もういい加減名前をつけたほうが良いのではないだろうか)に行くと、まだ、フレナの放った氷魔法の跡が残っている。


 集まった人達には、二人一組となって模擬戦をしてもらうことにした。戦い方は自由。それを見て取捨選択をしようって話だ。


「勝手に始めちゃったけど、後で叱られるなんて無いよね...?」


「俺は知らねぇぞ?」


 気付くと、真横にカインがしゃがんでいた。


「随分と人気者になったものだ。それそれで良いことだが、気を付けろ。人気者は一部のやつからは嫌われやすいからな」


「ご忠告どうも」


「ま、気にしすぎることもない。相談は受けてやるからよ」


 その時はありがたく頼らせてもらおう。争いごとは嫌いだし。なにしろ、反乱軍で内輪揉めなんて、相手にすればバカ同然の行為。それは避けたい。


「それはそうと、選考基準はどうするんだい?」


「なにか光るものがあれば、ね」


「光るものねぇ」


「心当たりあるかい?」


「そりゃあるにはあるが、これが見終わったあとのお前さんの意見も聞いてみたい。だからまだ言わないでおくよ」


「なるほど」


 そんな会話を続けているうちに、模擬戦の開始時刻が迫っていた。


「座禅する者、回りを見る者、目をつむって突っ立つ者、ギリギリまで仲間と高め合う者。いつも以上に個性が出てるな」


「そうでなくてはこちら側の判断材料にはならないからね」


「なるほど。試験は既に始まってるってか」


「ああ。で、少し聞きたいんだけど、何でみんなこんなにも必死になっているんだい?いくら僕がフレナを倒したとはいえ、ここまで大規模になるものかなのだろうか」


「そりゃおまえ、アレだよ。自分の力で家族を救いたいって思ってんだろ」


「家族?」


「ああ。ここに来る前に別れを告げ、来た後は仕送りを欠かさずする。そんな家族のためだろうな」


「一人一人に己が物語があると」


「物語っつーか人生?だな」


「んでどうすんだ?このまま二人ずつ見ていくわけにもいくまい」


「当たり前だ。ここにいる全員を、一度に見る」


「一度にって、マジかお前」


「ただし時間は二十分と少々多めにとらせてもらう」


 木の枝の上に立って高みの見物をしながらしていた会話を止め、下で準備する彼らに告げた。


 「各々、近くのやつとテキトーに二人組を組め。どの組も一斉にそいつとやりあってもらう。制限時間は二十分。今から五分後に開始する」


 相手を見つけえるための時間をもうけたが、少し長かったようで、二分分ほどで全員が相手を見つけたようだ。


 待ってる時間も無駄だし、さっさと始めるか。


 「お互いに向き合え」


 こちらにも伝わってくる緊張の一瞬。


 「始め!!」


 「うおーー!!!」


 無数の雄叫びと様々な金属音が、そこらじゅうから聞こえてくる。


「始まったな」


「ああ」


「当たりはつけてるのか?」


「まったくだね」


「そんなんで全員見きれるのか?」


「大丈夫だ。光るものを持っているやつは、視界に入れた()()()分かる」


 見ながら大体の当たりをつけ、だいたい二十分程経過した時点で、模擬戦をやめるよう指示した。


「合格者は三名。合格者には後で僕から声をかけよう。各自自分の部屋で待機していて欲しい。任務があって四時間以内にここを出発するものは、今すぐに僕のもとへ来てくれ。では解散」


 はぁ、この世界にある小説や魔導者をもっと読んでいたかったのになぁ。

 頼み事をされると、どうも弱くてね。


 すると、そこへ出払っていた軍隊長が帰って来た。


 何かマズかったかな...。

 例えば、軍記違反だとかそういったものに引っ掛かってないだろうか...。


「新兵ユーリ。これより、大佐へ昇格!!そして、『反乱軍フィメール』の魔術、及び剣術師範とする!!!弟子に選ばれた者は、努力を惜しまぬように!!」


 力強い声だった。

 そこら中から、歓声が湧き上がった。


 そして、フレナが新兵だった僕を「ユーリ()()」と言ったのが、百パーセント皮肉だと分かった。




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