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涙の魔法使い 〜その悲しき運命を超えた先に〜  作者: 夕凛
「バイアスの弾薬」編 第一章 『身分』
5/28

〜エアス、奮い立つ〜

 

 ここまでは僕を視点で読んでもらったけど、ここからは少しエアスに視点を切り替えてみていこう。

 

 僕が初任務をしている最中(とは言っても僕はユリウスに全て任せていたけどね)のエアスをね。


 


→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→




 ユーリ、初任務出発の三十分後。


「お前の次の任務は、捕まったマスティカとロイーヤの二人の女性隊員の救出だ」


「了解しました軍隊長。では、行って参ります」


 とは言ったものの、王都になんか行きたくないというのが本音だった。

 

 王都は貴族しか住むことを許されない。

 僕ら貧民にとっては、極めて生きにくい場所だ。

 

 今二人が拘束されているのは王都の西南地区。入り口の門を通って右手側の道に進んだ建物の何処か。


「はぁ...。これは時間がかかるなぁ〜」


 一言ため息をついてから、早速探し始める。

 

 任務開始だ。

 

 路地裏や大通りの裏手、人があまり通らない場所を重点的に探る。連絡が途絶えたのなら、何かあったのに違いない。

 

 一刻も早く探さなくては。




→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→




「・・・いない。しかも宛になるような情報もない...。ちょっとマズいな」


 人気のない場所で、一人ボソッと呟やいてみる。

 一時間ほど探し続けたが一向に見当たらず路頭に迷っていた。

 

 そんな時だった。


「おい、少年。綺麗な女に興味は無いか?」


 妙な男二人が現れて問いかけてきた。

 まさかとは思ったが少し不安になったので、その女の外見の特徴を聞いてみる。

 

 一人は、水色のセーターにロングスカートを履いていて髪型はセミロング。

 もう一人は、長袖のTシャツを着た長髪の女性とのことで、事前に聞いた反乱軍隊員のマスティカとロイーヤの情報に合致する。

 

 予感的中だ。その女はマスティカとロイーヤの二人だろう。

 

 二人は、王都でも名高い貴族にからかわれ、その挑発に反抗しようとして捕まったと聞いている。

 

 こいつらに顔を見られたのは少しまずかったかな。


「こっちだ。ついてこい」


 言われるがまま、僕はついていくことにした。

 

 少し歩くと、薄暗く錆びついた建物の仲まで案内された。

 何も無い殺風景な場所でいきなり、机とお茶出されたので、少し戸惑ったが仕方なく座って休むことにした。


 だが、それも束の間だった。

 

 周囲に気を回しつつ出されたお茶を飲む()()をしていたのだが、突然物陰から現れた大勢の人に襲われて抵抗する間もなく縛り上げられてしまった。


「おとなしくしてろよ」


 王都に住む貴族に捕まった僕は拘束されたまま少しその場で待っていると、奥の薄暗い部屋からマスティカとロイーヤが連れてこられ、僕はハッとした。

 

 二人は、服の殆どをビリビリに裂かれ、ほぼ裸のような状態だった。

 気が付けば、僕はその光景を昔の自分と重ねていた。貴族共に自分の姉と妹達を穢されたあの屈辱を。

 

 捕まった姉さんたちは今どうしているだろうか。早く助けてあげたい。

 

 そう思った瞬間、僕は我を忘れ、腰に下げた剣を手に敵を斬り刻んでいた。


「貴様らァー!!!!」


 手を縛っていた縄を腕力だけで引き千切り、怒声を浴びせ、襲いかかる。

 そこにいたチンピラ貴族の数人は、僕の怒声に臆してその場から立ち去っていった。

 今までロクに戦ったこともないような連中だ。無理もない。


「ハッハッハッハッハッ。いいカモだな!!」


「残った奴らで潰すぞー!!!」


 僕を裏路地で誘い出した二人がその場に残った兵士をまとめ上げ、全速力で向かって来る。

 こんな奴らには負けない!!もう何も奪わせやしない!!!

 その一心で剣を振り続けた。


弾丸剣技(ソードオブバレッツ)!!」


 必死に抗った。だが、相手は腐っても能力はある貴族だ。僕が一人で戦って勝てるはずもない。戦闘の経験など、圧倒的な力の前では無力だ。簡単に捻じ伏せられてしまう。

 結局僕は鎖で縛られ、その場で拷問が始まった。


「反乱軍...?そんなもの知らない...。グッ...!」


 なぜこいつらは反乱軍のことを知っている?どこから情報が漏れた?

  

 第一、ただのチンピラじみた貴族じゃないのか、こいつら。

 

 だとしたら全て仕組まれていたことになる。はじめから反乱軍の情報を引き出すために挑発を仕掛けたわけだ。

 

 マズい。いち早くこの事を報告しなくちゃ...。

 でもあの二人を見捨てていくわけには......。


「早く喋ったらどうだ...?そうしないと、あの可愛い女の子にまで手を出さなければならなくなる...それは出来ればこちらからも願い下げしたいところなんだ」


「グッ...!!ア”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!!!」


 剣先で、手や肩、太ももをぐりぐりエグられた。痛ってぇ!クソ!!助からないのか!?僕は......!


「ユーリ...さん......。グレイ......。軍隊...長......。あとは......頼みます......」


 消え入りそうな声でそうつぶやいた。

 後僕に出来る事といえば、神に祈るくらいだ。


「さて、直に殴ってうっぷんを晴らしたあとは、火炙りにでもして痛めつけてやるかなァ~」


「く...」


「俺たち貴族の魔法はよぉ、テメェら下民のそれとは格が違うから覚悟しとけよ?」


「そぉれ」という声とともに、僕の皮膚が熱を感じ始める。

 異常なほどまでに、熱が伝わるのが遅かった。


「悲鳴が出ないほど痛いのかよっ。笑えるな」


 感覚がなくて、痛みが和らいでいるようにさえ思えてきた。

 魂の灯がうっすら消え始めているのを感じる。

 せめて、マスティカさんとロイーヤさんだけでも助けてほしいと心の底から祈った。


「ユ...ゆーリさ...」


 声すら、でなくなった。

 圧倒的絶望感で満たされる。

 死ぬ直前に見るという走馬灯は、まだ見えない。

 見えたときはいよいよだな。

 そう思い、死を待った。


「アッハッハッハッ。いきなりそんな事任されても困るなぁ。それに、こんなところで死ぬなんて君らしくもないだろうに。あの時の復讐に燃える心は、いったい何処へ行ったんだい?」


 目の前に立っていたのはユーリさんだった。

 僕を庇うようにして仁王立ちしている。

 その瞬間妙なそれでいて絶大な安心感が、僕を包んだ。


「君はその場でゆっくりしていてくれ。今は止血することに心血を注いでいればいい。心配することはない。安心して後のことは任せてくれたまえ。エアス君」


 ユーリ......さんだ...神さま......彼女達を......僕を......見捨てないで...くれて......ありがとう...ございます.........


「さて、君たちはここで何をしてるのかな?」


 僕はエアスを拷問にかけた貴族に、柔らかく質問した。


「見りゃ分かんだろ!拷問だよ...フフッ、フッハッハッハッハッハッハッ。反乱軍なんて、いかにも貧民らしい」


「貧民風情がどれだけ(たか)った所で、絶対的な力を持つ貴族にかなう訳ねぇんだよ!!その貧相な頭でも考えれば分かるだろ?」


 あーあ。言い方がもう雑魚キャラのそれと同じだよ。

 貴族という地位の美味い部分だけを啜って生きてきた証だ。

 働いたことなどなく、偉そうにのたまうだけの輩。

 僕はその手の人間が一番嫌いだ。

 久々に腹が立ってきたな。


「貧民風情ね。どうせそんなことを言い出すんだろうと思っていたよ。ここまで典型的なのもむしろ珍しいかもしれないね」


「知ったような口を聞くやつだな......生意気な。そーいや、そのローブ。やけに高そうだな。お前みたいのには似合わねぇよ」


 僕は奴らの言葉をすべて無視した。

 向かってくる魔法も全て避け、彼らに余裕の笑みを見せる。


合成(ジンテーゼ)。ファーストシード、清灰(しんかい)。セカンドシード、弾丸剣技(ソードオブバレッツ)


 数秒の間があく。


「完了。独自魔術(オリジナルマジック)灰燼剣弾(アッシュソードバレッツ)!!」


 僕は清灰で生成した灰を剣の形に変え、それを実弾とほぼ同じ速度で放った。相手の両足のみをさして、動けなくなったところを縄で縛り、死なない程度に尋問した。やはり、反乱軍というものには内通者がつきものらしく、僕らの反乱軍にもいるらしい。そいつについては、詳しく聞かされていないそうだ。何より、内通者が貴族の手の者と接触するときは、必ず黒いフードを被っているんだとか。


 マスティカとロイーヤの二人を開放してから僕を連れて拠点まで転移の魔法で帰った。


 拠点に着いたあとは、エアスを医務室に届けてから軍隊長に報告書を書いていた。向こうで起こった事、内通者の話、等々。その後は、僕の看病をして一日をすごし彼の目が覚めるのを待っていた。

 エアスは翌日には目を覚めし、普通に生活していた。何はともあれ重症じゃなくて良かった。


「さて、内通者は誰なのか...こういう犯人探しみたいなの面倒で嫌いなんだよなぁ......まぁ邪魔になるようならそれはその時考えよう」


「ユーリさん。内通者は本当にいると思いますか?」


「どうだろうね。彼らの脅しかもしれないし、本当のことかもしれない。脅しの場合、考えられる理由は一つ。僕らを疑心暗鬼にさせて、組織の内部分裂を図る。だから、そうならないためにも僕らはともに戦う仲間として、皆を信頼しなくてはならない」


「そう...ですね......」


 僕が内通者だという考えが多少なりとも()ぎったであろうと言うことを思わせる返事だった。



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