第98話
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雨に濡れたアスファルトの匂いが漂う通学路を、傘をさしながらぼんやりと歩く。薄雲から零れる雨粒とともに清涼な音が降っていた。
様々な出来事が立て続けに起こった高二の春は終わり、梅雨に入った。ぱっと思い出す記憶は全て沢里と過ごした時間だ。
これから楽しい夏を迎えようというのに、私の気持ちはざわついていた。
視界に入った淡い色の傘に、私は気合を入れて話しかける。
「おはよう土井ちゃん!」
「おはよー凛夏。雨だねえ」
まだ眠たそうにしている土井ちゃんは私に気付いてイヤホンを外した。
「あのさ、この日って空いてる?」
スマホのカレンダーを示して尋ねると、土井ちゃんは同じくスマホでスケジュールを確認して指で丸を作る。
「空いてるよ! え、なになに? 遊びに行く?」
「ええと、その……。んーとりあえず空けておいてほしい!」
「オッケー!」
上手く説明ができずに誤魔化す。土井ちゃんがあっけらかんとしているのが救いだ。
土井ちゃんに【linK】であることを明かし、ライブに誘う。その一連の行動を私は躊躇していた。今日こそはと意気込んで土井ちゃんに話しかけるのはいいものの、笑顔を向けられると途端に言い出せなくなってしまう。
この笑顔を怒りに染めてしまうかもしれない。
嫌われるかもしれない。
そんな悪い想像に支配されしまうのだ。
また今朝も言えなかった。
私は土井ちゃんの横に並び、傘に流れる雨の筋を黙って見つめた。
「どうしたー?」
「ううん、なんでもないよ」
私はどうしようもなく臆病者だ。




