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君の隣で歌いたい  作者: 三ツ沢ひらく
十三、【レイニーデイ】
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第97話

「だから観に来てくれないかな? 来月の第一土曜日!」


「あー」


 柾輝くんは再度咳き込み、小さな声で言った。


「悪い、その日は俺もライブだわ」


「あ……。そう、なんだ。そっか、忙しいんだもんね」


 人生初の晴れ舞台を柾輝くんに観てもらえないなんて。仕方がないとはいえショックを隠せず私は放心する。


 珍しく重ねて謝ってくる柾輝くんに、私は慌ててわざと明るい声で話題を変えた。


「し、新曲聴いてくれた?」


「ああ、あれな。よかったと思う。新しいコーラスもいいんじゃないか」


「本当? よかったあ」


 柾輝くんのお墨付きをもらえれば沢里も安心するだろう。


「しかしよく顔出しする気になったな」


 そのひとり言のような呟きがじんと胸に染みる。柾輝くんは今まで【linK】を支え続けてくれた分、顔出しを拒否する私のこともよく知っている。突然顔出しする気になったと言ったら疑問に思って当然だ。


 私は小さく息を吸い、ゆっくりと話を始める。


「うん。柾輝くん、前に言ったでしょ。【linK】も私もどっちも私なんだって。ようやくそれが分かったの。私ね、音楽を続けてるつもりでいて、結局逃げてた。昔の自分からは目を背けて、新しい家族と上手くやれないのも私にはどうしようもないことだって思ってた。けどもうそういうのやめる。一回全部捨てて、歌ってみようと思う」


 柾輝くんはゆっくりと相槌を打って聞いてくれた。そしてまたぽつりと言う。


「【haru.】のおかげだな」


「え? なんで分かるの?」


「分かるっつーの。俺にできなかったことをできるとしたらそいつしかいない」


 柾輝くんにできなかったこと。それがなんなのかを考えるがすぐには思いつかない。柾輝くんはたくさんのことを私に教えてくれたのになぜそんなことを言うのだろう。


「ようやくお前には俺が必要なくなったんだって思ったよ」


「そ、そんなことない! なに言ってるの?」


 今日の柾輝くんは様子がおかしい。体調が悪くてアンニュイな気分になっているのかもしれない。

 そういえば昔から具合が悪いとよくしゃべる性質たちだったことを思い出す。


「好きに歌え。俺も好きに歌うから。じゃあな」


「うん……」


 ライブを控えているのだから無理をさせるわけにはいかない。私は浮かない気持ちで通話を終えた。


 私の音楽に柾輝くんが必要ないなんてことはありえない。今までもこれからも。柾輝くんと作った【linK】という存在こそがその証明であるというのに。


「ライブに来てほしかったな……。まあ後でアーカイブ見てもらえばいいか」


 柾輝くんの忙しさは今に始まったことではない。ライブの後にダメ出しをされないように全力を尽くすのみ。


 そして、私が足を踏み出した姿をきちんと見せたい。そしてもう心配ないよと伝えたいのだ。柾輝くんは私の大切な家族だから。


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