第94話
どっちも私。どちらかが偽者じゃない。歌うと決めたのは私で、その私は【linK】でもある。
目を閉じると【linK】として歌う私と、その隣に立つ沢里の姿が想像できた。想像できることはつまり実現できるということに等しいのだと、どこかで聞いたことがあった。
前に柾輝くんに言われたことが、ようやくすとんと胸に落ちる。
「今回は【linK】でいく。【linK】として、私の姿を見せるよ」
「いいんだな? 土井や他の皆にも、【linK】ってバレるんだぞ」
「うん」
私はチケットを胸の前で抱き、土井ちゃんを想う。【linK】のことをとても大切にしてくれる大好きな親友。
「私、土井ちゃんをライブに呼びたい。怒られてもいい、根に持たれてもいい。【linK】を隠してたこと謝って、私の全力を見てほしい」
黙っていたことを仕方がなかったと言うつもりはない。ただ、土井ちゃんの情熱に支えられて【linK】は歌ってきたのだということを伝えたい。私が私の姿でちゃんと。
「ああ、そうだな」
だからチケットの一枚は必ず土井ちゃんに渡す。そして言うのだ。私の歌を聴いてほしいと。
手元で家族の分、土井ちゃんの分とチケットを数えていてふと思い立つ。
「ねえ、前の学校の人ってライブに呼ぶ?」
きょとんとする沢里につられて私も口をつぐむ。
「んーいや、さすがにこのチケットは仲いい友達に配るよ。他の出演者も豪華だし、観たいやついると思うからさ」
「でもそれじゃあ沢里の実力を分からせられないよ」
「リンカの気持ちはありがたいけど、俺は別にそのことに固執してないしな。sawaの息子だってこと隠して歌えればそれでいい。それに、リンカと一緒にステージに立てるだけで胸いっぱいだよ。そう言うリンカは中学のやつら呼ぶのか? 俺的には呼んでほしいんだけど」
「そうするとチケット足りないしいいや」
「そっか。まあ当日中継も入るから、それで目に入るだろ」
「中継!?」
聞くとライブは最初から最後までネット中継されるらしい。初耳の事実にあんぐり口を開ける。私たちの初ステージは予想以上の大舞台だった。ぶるりと身を震わせる私に対し「緊張してきたか?」とどこか余裕の沢里。
当然だ。一曲通して生演奏するのは配信でもなかなかしない。
ネット中継されるのならば、沢里の言うように中学の同期たちに見られる可能性は高いだろう。
あとひと月で歌えなければ醜態を晒すことになる。
あのステージ上で歌えなくなる悪夢を繰り返すことだけはしたくない。
ごくりと息を飲む私の背を沢里がばしりと叩いた。
「大丈夫だって! 俺がいるだろ」
「う、うん」
「でもまずは勉強だ。土日は図書館にでもこもるかなー。な、リンカも来いよ」
「ん。気が向いたら」
溶けかけたアイスモナカを口に押し込み、私は高まる緊張に知らんぷりを決め込んだ。




