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君の隣で歌いたい  作者: 三ツ沢ひらく
十一、【ステイ・ウィズ・ユー】
88/134

第88話


 ▽


 考えさせてください。そう言うとsawaさんはぶーぶー文句を言いながらも一日の猶予を設けてくれた。たった一日かと落胆しつつもイエスかノーかを判断するだけのことに何日もかけていたら迷惑がかかる。相手は多忙なプロだ。


 sawaさんはプロデュース側であるのだから、私が断ってもいくらでも替えは用意できるだろう。


 一生に一度あるかないか、音楽を志す者なら喉から手が出るほど欲しがるチャンスなのだ。


 【linK】は有名になりたくて歌っているわけではないが、多くの人に聞いてほしいという思いはある。


 しかし真夏のライブでは顔を隠すのは難しいだろう。家族にも友人にも【linK】であることがバレてしまう可能性がある。特に【linK】の大ファンである土井ちゃんの前で歌ったらきっと私が【linK】だと分かってしまうに違いない。


「リンカ」


 頭に手を置かれて私ははっと伏せていた顔を上げた。今は沢里の家から駅に向かう途中だった。


 わざわざ駅まで送ってくれている沢里の隣で完全に思考に溺れていたことに反省する。


「あっごめん。ぼーっとして」


「いや、親父が急にすまん。多分あれ、意地悪で言ってるんじゃなくてな。リンカならできると思って言ってるんだ」


「うん分かってる。今日、息もれは必ず治せるって思ったの。それを間延びさせないために、サワソニまでに治せって意味だっていうのも分かる。これがめったにない機会だってことも。でも……」


「顔出しか」


 沢里は私の不安を的確に言い当てる。私はこくりと頷いた。


「私が【linK】だってことを中学時代の部活仲間に知られたくない」


 そう思ってずっと顔出しはしなかった。再生数ランキングに入っても、ファンに望まれても絶対に手元しか映さずにいた。


 私は恨まれている。特に最後の全国大会を台無しにした同期たちは、私を許しはしないだろう。その悪意が【linK】という不可侵領域にまで及ぶのが怖かった。


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