第87話
「沢里くんは学校ですごく人気者ですよ!」
「ふふふよかった」
沢里のお母さんは安心したように笑うとハムスターのようにアップルパイを頬張る。その姿を見て私もつられて笑った。
「おーいリンカー」
「あ、戻ってきた」
ぐったりとした沢里とsawaさんが並んでこちらに向かってくる。どうやらsawaさんに厳しく指導されたようだ。二人は私たちの座るテーブルのそばに立ちお菓子をつまみ出す。
「なに話してたんだ?」
「ん? ふふ、内緒」
母親と同じ仕草でアップルパイを口に詰め込む沢里がおかしくて笑ってしまう。
「あの、sawaさん。本当にありがとうございました。sawaさんに教えてもらった方法で練習続けます!」
沢里が隣で咽せるのを無視して、私はsawaさんに頭を下げる。
「その意気で頑張りたまえ。ところで娘よ、うちのスタジオに興味があるそうだね?」
その言葉に思わず顔をがばりとあげる。私のはしゃぎようを見ていた沢里がsawaさんにバラしたに違いない。赤くなる顔を押さえながら私は頷いた。
「すみません、あまりにも立派で」
「よければ好きに使っていいよ」
「えっ!?」
突然のありがたい申し出に飛び上がって驚く。あのスタジオを使わせてもらえるなんて夢のようだ。【linK】の楽曲のクオリティを高めることができる。
「ただし条件があーる!」
そう言ってsawaさんは一枚の紙をバシンとテーブルに叩きつけた。
そのカラフルなチラシには大きな文字で『Sawa Sonic』と書かれている。その意図を読みかねていると沢里がわなわなとそのチラシを指差して言う。
「ま、まさかそれって」
「そう! サワソニだ!」
「サマソニ?」
「ノンノン! Sawa Sonic……通称サワソニ! 毎年夏本番を迎える頃に開催している音楽イベントである! 数々のアーティストがしのぎを削り本気で歌いまくるsawaプロデュースの野外ライブさ!」
「野外ライブ……あっなるほど! そのお手伝いをすればいいんですね?」
ライブ会場の設営は人数が必要で大変なのだと柾輝くんに聞いたことがある。
スタジオを借りるためなら一日二日骨を折ることくらい喜んでしよう。
意気込む私にsawaさんはチッチッチと舌を鳴らして指を振った。
「春と二人で出なさい」
「え?」
「スタジオを貸す条件は、サワソニに出演して二人で一曲歌い切ること!! オゥケィ!?」
「ええーーーー!?!?!?」
どうだい? と得意げにウインクをするsawaさんに、私たちは思わず顔を見合わせた。




