第83話
どれだけ息が続くか見られている。そのためにわざとゆったりとした歌を歌わせている。
sawaさんの意図に気付きどきりとするが、そもそも息もれについて相談しに来たのだから呼吸を観察されるのは当然だ。むしろちゃんと見てくれていることに感謝しないといけない。
無事に歌い終えると今度はsawaさんの指示が沢里に飛ぶ。沢里はひとつ頷いて私の横に並んだ。
「じゃあ次ユニゾンで」
来た。私は思わず身構えた。ユニゾンとは同じメロディーを複数人で歌うこと。沢里と一緒に声を合わせるということだ。
「大丈夫、気を楽にな」
「うん」
沢里とでなければ素直に頷けないだろう。私は息もれを克服したい。そしていつか沢里と歌ってみたいのだ。【linK】の曲を丸々一曲、止まることなく。
前奏が流れる。私は強い気持ちを持って声を出した。
「ブレスの位置が狭まってる」
sawaさんの言葉に私はガクリとうなだれる。沢里と一緒にさくらさくらを歌った結果、一番が終わるころに力尽きた。声を出そうとすればするほど、息のみが勝手に吐き出される。気持ちを強く持っても体が付いてこない。
持って来たペットボトルの水を一口飲み、喉の動きを確かめる。なにが悪いのか自分では分からない。
「一人で歌っているときはのびのびとしていてとてもよかった。音程も正確だし、息も続く。でも二人で歌うと途端ににブレスがおかしくなるんだ」
ブレスの位置。二人で歌っている時は迫りくる妄想を払いのけるのに必死で考えられない。楽譜に息を吸う位置を書き込んでも、息が続かなくて結局そこまで我慢できずに吸ってしまう。
「……ふむ。じゃ、春。ピアノ」
なにかを考える素振りを見せた後、sawaさんはキーボードを沢里に託し私の前に立った。




