第81話
スタジオのソファに座り、沢里が誰かに電話をする姿を見つめる。
憎たらしいほどにスタイルがいい。カジュアルな服装なのにやたらと目を惹くのはそのせいだ。背が高いからスポーツも得意そうだが、本人曰く「中の中」なのだそう。
単なる推測ではあるが、指を痛める危険があるからあまり好まないのかもしれない。私の割れた爪を見た時の反応が過剰だったのも、沢里の中では耐え難い出来事だったからではないだろうか。
そうだとしたら沢里の世界は音楽を中心に回っている。
親の英才教育と立派な自家スタジオ、柔らかな声に器用な指。
気付くと私はごくりと喉を鳴らしていた。うかうかしていられない。きっと沢里は私なんてあっという間に越えて行ってしまう。今はまだ世の中が沢里を見つけていないだけなのだ。
『リンカが他の人と楽しく歌っている姿を見たくない』
そう言った沢里の気持ちが少し分かった気がした。
「親父もうすぐ来るって」
「は、はい」
沢里の言葉に私はピンと背筋を伸ばす。緊張がぶり返してくるのを感じ、私は縋るように沢里を見る。
「ね、ねえ結局沢里のお父さんって――」
誰なの? と問おうとしたその時、重い扉が開き一人の人物がスタジオに足を踏み入れた。
白髪混じりの髪を後ろに撫でつけ、頭にサングラスを引っかけたド派手なアロハシャツ姿の男性が、ビシッと二本指を顔の横に構えて沢里に歩み寄る。
「ういーっす」
「親父! ちゃんとした格好しろって言っただろ!!」
「おいーっす」
「聞けよ!!」
奇抜なデザインのシャツに映えるダンディで彫りの深い顔立ち。沢里によく似たすらっとしたスタイル。
私はそんな男性を見て、思わず口元に手をやった。




