第77話
「リンカ?」
「あーごめん、思わず電話しちゃった。今って平気?」
「思わずってなんだよ。俺も丁度連絡しようとしてた。今日は本当にご」
「だーー! だめだめだめ!!」
ごめんと続くだろう沢里の言葉を遮りたくて大声を上げてしまった。沢里の困惑が見えずとも伝わってくる。私はこれ以上沢里に謝らせないよう必死にスマホにかじりつく。
「謝るのは私の方! 酷いこと言って本当にごめん! 心にもないこと、軽率に言った。沢里を傷つけるってよく考えたらわかることだったのに……ごめんなさい。許してほしい」
言うべきことを一息で言い、私は沢里の反応を待つ。しばしの沈黙の後、沢里の弱々しい声が聞こえてきた。
「心にもないことって?」
「え、だから……動画に出さないってこと」
「じゃあ俺またリンカのコーラスできる?」
「うん! 沢里さえよければまたお願いしたいよ!」
そこまで言うと沢里は長いため息を吐いた。そして緊張が解けたような、安心したような声で「よかった」と呟く。
「コメント見ただろ? 俺のコーラスが受け入れられないって思ったらすげー苦しくてさ。リンカにもういらないって言われたらどうしようって不安だったんだ。だからって泣くことないよな! いや、すまん! 俺かっこ悪いし情けないわ」
「だから、謝らないでってば。私が悪いの。それに、アンチコメントは気にしないで。今に始まったことじゃないし」
「ああいうのとも一人で戦ってたんだなリンカは。すげーや」
「相手にしてないだけだよ」
沢里は私を許してくれたようだ。しかしその声に覇気は戻らない。沢里の心はまだ晴れていない。私は胸が詰まる思いで沢里に語りかけた。
「沢里は私のこと何度も助けてくれたのに、私はそんな沢里を苦しめて泣かせちゃって。酷いやつだと思ったでしょ? これじゃあ釣り合ってないって言われて当然だよ。コーラスも、もしやりたくなくなったらいつでもそう言って」
私が沢里のコーラスを気に入ったからと言って、沢里を捕まえておく権利はない。いつでも私から離れていいのだ。沢里にはいやいや歌ってほしくない。
「違うんだよリンカ」
「え……?」
しかし沢里はまた辛そうな声に戻ってしまう。また言葉を選び間違えたかと冷や冷やしていると、沢里がゆっくりと切り出した。




