第61話
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音程、テンポ、リエゾン、ハーモニー。
初めて合わせると思えないくらいどれもぴったりとはまる。声と声が重なり合い、新たな音を生み出していく。心地のいい一体感。
沢里は角のない馴染む声を持っている。人間の声というのもは千差万別で、クセがないことはすなわち他人の声に合わせやすいとも言える。自分が好きなように歌うだけではそうはならない。誰かと合わせようとして出すその声が、大きな意味を持つ。
合唱向きの声だ。
そう思った瞬間、ぐらりと視界が揺れ、背筋がさあっと冷える。
あるはずのないいくつもの目と口に責め立てられるような妄想が始まり、声が萎んでいく。
必死に歌おうとしても息だけが外にもれだして、どんどん酸素が足りなくなる。
サビを歌い終わる頃にはもう、全力疾走した後のように肩を上下させていた。
「リンカ!?」
ピアノに顔を伏せた私に、沢里が駆け寄る。呼吸を整えているところを見られたくないのに、背に置かれた手には安心してしまう。
「大丈夫か? お前、それ――――ひょっとして、『息もれ』か?」
やはり沢里には分かってしまうようだ。私は諦めて目を閉じる。
『息もれ』。それは声とともに息がもれだし、声量が削られて息が続かなくなってしまう歌い方。
ウイスパーボイスと言えば聞こえはいいが、それを売りにしない限り、歌い手にとって致命的な声の出し方である。人によってはボイストレーニングで矯正するほどだ。
そう、私は人と歌うと酷い息もれを起こしてしまう。
一人で歌う時は全く気にならないのに、人と合わせるだけで呼吸がおかしくなってしまうのだ。同じ【linK】の曲でも、サビだけで息が続かない。
それは中学の時、全国合唱コンクールの舞台で初めて表れた『バグ』だった。




