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君の隣で歌いたい  作者: 三ツ沢ひらく
七、【サムシングニュー・サムシングバッド】
45/134

第45話


 ▽


 悪いことが立て続けに起こると、もういいことなんて起こらないような気分になる。透流さんの眼鏡が綺麗な放物線を描くのを横目に、私は家を飛び出した。


 右の拳がじんじんと痛む。それは初めて人を殴った代償だった。さらには治りかけていた爪も呼応するように痛みだし、自分のしてしまったことの重大さに体が震え始める。


 なにも殴ることはなかった! けれど体が動いてしまったのだ。なお悪いことに怖くなって逃げ出した。行くあてもなく走り続けているうちに後悔で涙が止まらなくなる。


 いくら柾輝くんを馬鹿にされたからといって暴力で解決しようとするなんて、沢里の件で言いがかりをつけてきた先輩たちと同じではないか。


 無意識のままふらふらと行き着いたのは家の近くの自然公園だった。日も暮れて子どもたちの遊ぶ姿も見られない。


 とにかく落ち着きたくて目に入ったベンチに腰掛ける。浅く座り足をのばして、涙が落ちないように空を見上げた。


 右手を目の前にかざすと、中指の爪に貼った絆創膏が血で汚れていることに気付く。


 全力で走って体が熱く、鼓動が収まらない。乱れる息を整えようと深呼吸を繰り返していると、ポケットの中でスマホが震えた。


 着信の相手が透流さんだったらどうしよう。おそるおそる画面を確認するとそこには『沢里』の文字が表示されていて、思わず眉をひそめる。そういえば、先日連絡先を交換していた。


 なぜこんなタイミングで、初めての電話をかけてくるのか。今はとても話す気にはなれなかった。


「リンカ? ごめんなー急に。ちょっとコーラスの部分で聞きたいことが」


 ――いつもどおりの沢里の声を聞くまでは。


 

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