第4話
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「なーにーが『勉強見ようか?』よ! ピアノのなにが悪いのよ! 大体お母さん昔はあんな豪勢な料理つくったこともなかったくせに! 新しいおとうさんとお義兄さんに媚び売っちゃって!」
「相変わらずうるせーなお前は」
「ねえちゃんと聞いてよ柾輝くん! 実の妹がこんなに虐げられてるっていうのに」
「十分かわいがられてんだろ」
いつもどおり電話越しにそっけない態度を取るのは私の実の兄、柾輝くん。
私の三つ上で、高校卒業後に一人暮らしを始めた自由人。
「で、どうなんだよ【linK】の方は」
そして、【linK】の正体を知る唯一の存在だ。
「新曲で相談したい部分があるんだけど、今日の配信見てくれた?」
「見てない」
「もー! 見てって言ってるでしょ!」
柾輝くんはメジャーデビュー目前と言われているインディーズバンド、【モルフォ】のメンバーとして活躍している。
兄妹そろって音楽を続けているのは亡くなった父の影響が大きい。
父は歌手だった。
と言ってもちっとも売れていなかったので別の仕事もしていた。
それでも自分はミュージシャンなのだと、死ぬまでそう言っていた。
母はそんな父に呆れていたのかもしれない。
それでも柾輝くんと私は幼い頃から父に習った音楽から離れられず今に至るわけだ。
「ピッチはもっと速くてもいいな」
「ん?」
「あと後半、雰囲気下がるから転調した方がいい」
「しっかり見てるじゃん」
どうやら配信は見ていたらしい。
うるせーと一喝されてしまうが、これは柾輝くんの口癖のようなものなので放っておく。
なんだかんだでこの兄は面倒見がいいのだ。