第37話
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結局割れた中指は絆創膏の上からテーピングで固定してもらったが、やはり鍵盤は叩きづらいだろう。
沢里は保健室でも押し黙ったまま、普段の調子からは考えられないほど静かで不気味だった。責任を感じているとしたって様子がおかしい。
午後の授業を受けながらどうしてこんなことになってしまったのか考える。
今もじっと斜め後ろの席に座っている、沢里の人気を低く見積もり過ぎていた。
沢里の関心を引くだけで癇に障る人間がいるのだ。
私はちらりと美奈の後姿を見る。
ネットシンガーをやっているとアンチがわくこともある。暴言を書き込まれたり、馬鹿にされたり。けれどそれらの声をかき消すフォロワーのコメントのおかげで今まで続けられている。
気持ちの面では【linK】のアンチに慣れてしまっていたが、現実では怪我という実害を被った。
もう沢里に近づかない方がいいのか。そもそも自ら寄って行った覚えはないのだから、避けるしかないのだが。それではアンチの思うつぼではないだろうか。沢里も勝手に避けられては傷つくのでは?
どうすればいいか分からない。誰かに意見を聞きたい。けれど、
――柾輝くんには頼れない。
ここで真っ先に兄の顔が浮かんでくるあたり、私は甘ったれで、だから突き放されて当然なのだ。
アンチも曲作りも自分の力でなんとかするしかない。結局のところ私には【linK】しかないのだから。
授業終了のチャイムが鳴る。物足りない単音。もっともっと音がほしい。音楽のこと以外なにも考えられなくなるくらいに、脳内を満たしてほしい。
父の弾いていたコードはまだ思い出せない。




