第35話
「もう沢里くんに近づくなよ」
「――ねえこいつ動かないんだけど。もうよくない?」
「なんか体調悪いとか言ってたしやばいよ」
うつ伏せになったままピクリとも動かない私を気味が悪いと思ったのか、先輩たちの声は遠ざかって行った。
さわさわと緑の揺れる音と地面に踊る木漏れ日の中、私は目を閉じた。
土の匂いをこんなに近くで感じたのはいつ以来だろう。
父がまだ生きていた頃、泥だらけになりながら公園ではしゃいでいた記憶が蘇る。
父は私たちが遊ぶ姿を見つめながら、よくギターを弾いていた。少し切なくて、おしゃれなコードを。
こんな時でも音は降ってくる。思考回路とは別の領域で、音楽が構築されていく。
父の好きだったコードはなんという名前だっただろうか。音は思い出せるのに、言葉が出てこない。
「凛夏!」
世界が反転する。悲痛な声で名前を呼ばれのろのろと顔を上げると、目に涙をいっぱいにためた土井ちゃんの顔のどアップが映る。
「ごめん遅くなって。急いで呼びに行ったんだけど一歩遅かった、ごめんね」
ぺしゃりと打ち捨てられたままの私の体をやんわりと起こしながら、土井ちゃんはなぜか謝っていた。土井ちゃんはなにも悪くない。そう言おうとしてもうひとつの人影に気付く。
「リンカ……」
「あ」
呆然と私の有り様を見降ろしているのは、見たことのない顔をした沢里だった。




