第32話
この二人は面識がなかっただろうか? なかったかもしれない。一応戸籍上の繋がりはあるはずだが母の再婚時柾輝くんはもう家を出ていた。それから一度も母と会っていないことを考えると、柾輝くんと透流さんは正真正銘今現在が初対面ということになる。
そして私の予想では、お互い合わないタイプだ。
「僕は凛夏の義兄です。こんな時間に義妹となにを?」
「…………あーそういうこと」
じろりと透流さんが柾輝くんを睨み付ける。柾輝くんはなにかを察したように頭に手をやり、伝票片手に席を立った。
「あ、あのっ透流さん! この人は私の――っ」
不意に言葉に詰まる。もしも透流さんに私たち兄妹が会っていることを母に言いつけられてしまったら? そしてまた母と柾輝くんの仲が拗れてしまったら?
どう言えば正解なのか。なんと言えばこの場を治められる? ぐるぐると思考する頭にぽんと柾輝くんの手が乗った。
「んじゃ、連れまわして悪かったな」
「あ……」
透流さんを一瞥して柾輝くんは背を向ける。伸ばした手はするりとかわされ、その背中はあっという間に見えなくなってしまった。
本当のことを言えなかった。突然のことだったとはいえ、柾輝くんをまるで悪者のようにしてしまった。後悔がどっと襲いかかってくる。
「凛夏ちゃん、どういうことかは家で聞こう。――凛夏ちゃん?」
透流さんの冷たく厳しい声よりも胸を刺すのは、柾輝くんに突き放され、突き放してしまったという事実。
引っ込んだと思っていた涙が一粒、ぼろりと零れた。




