第3話
二人そろって階下のリビングに向かうと、広いテーブルには豪華な料理が並べられ、既に両親が席についていた。
「遅くなりました」
「凛夏、何度も言ってるでしょう。おとうさんを待たせないで」
「すみませんおとうさん」
「いやいいんだよ。さあ食事にしよう」
「どうせまたピアノを弾いていたんでしょ? いい加減勉強に集中しなさい」
私が夕飯に遅れたことでピリピリしている母と、いつも笑顔でなにを考えているか分からない母の再婚相手。
肩身が狭い思いで料理に手をつけると、透流さんが思い出したように口を開いた。
「凛夏ちゃん、よかったら僕が勉強を見ようか?」
「えっ」
唐突な提案に舌を噛みそうになる私を尻目に、母が嬉々として手を合わせる。
「それはありがたいわ。透流くんは国立の医大生だもの。きっと勉強を教えるのも上手でしょうし。ねえあなた」
「そうだなぁ。凛夏ちゃんはどうかな?」
三人の視線が一気に刺さる。私は食べかけのポークチョップをごくりと飲み込み、その視線から逃げるように俯いた。
「あの……じゃあよろしくお願いします」
とても拒絶なんてできる雰囲気じゃない。
このどうしようもない閉塞感。
私の幸せな家族関係は、一年前、母の再婚で壊れていた。