106話
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今日は七月の第一金曜日。ライブ本番はとうとう明日にまで迫っていた。
心は落ち着いている。楽観視はしていないが緊張しすぎるのもパフォーマンスに影響が出るのでよくない。ほどよく体の力を抜いて過ごすつもりだ。
と思っていたら、登校するやいなや土井ちゃんに可愛らしい包みをもらった。
頰を少し染めた土井ちゃんに促されて開封すると、フェルトで作ったお守りが現れる。
「甲子園の番組とかでよく見るじゃん、マネージャーの手作りお守り。真似して作ってみた!」
照れ臭そうに言う土井ちゃんに何度もありがとうを言い、私はかわいいお守りを胸に抱いた。
「明日、凛夏をずっと見てる。もしどうしても緊張したら凛夏もステージから私を探して。とびきりの変顔するから!」
「もう、土井ちゃんたら。ありがとう! 頼りにしてるよ」
ちなみに沢里の分のお守りは間に合わなかったので念を送るとのことだ。土井ちゃんの念は効きそうだ。
授業を受けながら窓の外に広がる青空を眺め、リハーサルが行われているであろう会場を思い浮かべる。
天気予報は快晴。暑さに負けないようにしっかりと準備しよう。
ここ数日、緊張は刻一刻と高まっていったが、沢里と追い込み練習をする間は不思議と心が凪いでいた。
ピアノとギターは問題なく弾けそうだ。今日は万全を期して放課後に何回か曲全体を合わせて、歌の調子がいいならそのままの状態で明日を迎えたい。
それに沢里に話しておきたいこともある。
穏やかに過ぎる時間が長く感じる。早く明日が来ればいいのに。そんなことを思うのは私が成長できたからだろうか。それとも早く皆に沢里の歌う姿をお披露目したいから?
ぼんやりと他愛のないことを考えていると教科書の音読を当てられた。焦って立ち上がるとその拍子に椅子を盛大に倒してしまう。
斜め後ろから沢里の笑い声が聞こえてきた。
緊張感のないやつだ。向こうも私のことをそう思っているかもしれないけれど。




