第100話
「もしもーし、どした?」
「土井ちゃん! あの、今から会えないかな!?」
「今から? さっき家着いちゃったけど……」
「分かった! 今から土井ちゃんちの近くまで行くね!」
「ん? ちょっと凛夏?」
そのまま通話を終えて、雨粒がびしびしと顔に当たるのも気にせず駅へと駆ける。土井ちゃんの家は駅前からバスに乗って十五分ほどの住宅街だ。
土井ちゃんに正体を明かせずにもやもやしているのが歌に表れている。そのわだかまりはずっと胸の中にあった。これまでは一人で歌っていたから誤魔化せたけれど、沢里と歌うのに不安要素を抱えていられない。
例え怒られても嫌われても、黙っているよりはマシだ。大勢の前で歌う覚悟をしたはずなのに、土井ちゃんの反応を思うと全身に緊張が走る。
バスに揺られながら、私は必死に言葉を考える。まずは、謝らなければいけないことを伝える。黙っていたことがあると。そして、私は土井ちゃんのことを大切な親友だと思っていることは必ず言っておかないといけない。そして私が【linK】である、ということを伝える。家庭や過去のしがらみで正体を隠していたこと。沢里とライブに出るから観に来てほしいということ。
考えれば考えるほど自分勝手な話で、私は額に手を当ててため息をつく。
バスを降りると雨が少しだけ激しさを増して、傘を持っていないことに気が付く。頭の先と肩からじんわりと冷たさが広がる。
土井ちゃんに連絡をしようとしたその時、雨音の向こう側から「凛夏!」と焦った声が聞こえた。




