闘牛士ユリス
何度もライエールの攻撃を目隠しの状態で受けるたびにユリスは少しずつ風の音や気配を感じれる様になっていた。
そうしてやがて、ユリスは見えずとも攻撃が避けれる事に気づいた。
剣さばきが見える。
今まで反射神経のみで避けて来たのだが…分かる。
何発もの攻撃を避ける。
「単調な攻撃は躱せるまでにはなったな」
…
ユリスは今、闘牛場の中、闘牛士の服を着てその場に立った。
観客は以前と同じ様に多く闘牛はあのスノービークル。
なんでもライエールが話を勧め、スノービークルを使う代わり闘牛をやる事になったらしい。
本来の闘牛士であるロワンも緊急の自体に備え脇で待機している。
「全く、どう言うつもりだ、あんな素人を。
あんた殺すつもりか?」
ロワンは腕を組んで見ているライエールを見て聞いた。
「実戦で仕上げたかっただけだ」
闘牛はスノービークルが放たれた瞬間に始まった。
ユリスはそれを見て剣を抜かず見据えた。
突進…感じる、ユリスはひらりと空中を舞い避ける。
その正確さはロワンのものよりも優れており観客は湧いた。
「なっ!?」
ロワンはユリスを見て驚き、目を見開きそれを見る。
ユリスは突進にもなれ、目をつむって見る事にした。
風の音、足音砂の舞う音そして殺気ユリスは魔物の攻撃を躱す。
何も問題は無い。
些細な音や感覚を頼りにユリスはその後も躱し続け、観客達もそれに歓声を上げ白いハンカチを振って賞賛した。
こうしてしばらく続いた訓練は終わりをつげた。
ノエルは未だに魔力を使えず苦戦しているらしいが。
ユリスは部屋に戻り寝ようとしていると窓からコンコンと叩く音が聞こえた。
ユリスがカーテンを開け、窓を見るとそこには一人のエルフがいた。
スサナ・アラフェル、ユリスの母だ。
スサナはユリスの部屋に窓を開けて入りユリスを見た。
ユリスは突然の事で驚き動かなかったが口を開いた。
「母さん…」
ユリスが次の言葉を言う前にスサナはベットに座って言った。
「もう、連れ戻そうとはしないよ。
ここには母さん一人で来たから」
スサナはそう言い部屋の内装を見た。
「どうせ、止めても聞かないんだろ?」
「うん、世界を見て回るのが私の夢だから」
ユリスはそれに力弱く答え窓を閉める。
「そう…絵本を抱えていつも言ってたっけね」
スサナは微笑み今のユリスを見る。
「背も伸びてこんなにも可愛くなって…。
本当の事を言うとね…母さんなんとなく分かってた。
あなたがいずれ家から出ていくんだろうなって。
本当に似てる」
スサナはそう言いユリスの瞳を見つめ、窓に向かって歩き始めた。
「今日は、しばらくの別れになるだろうからと思って、行ってらっしゃいを言いに来ただけ。
ユリス、いつでも家に帰ってきていいからね。
危ない事はせず、しっかりご飯を食べて風邪を引かないように気をつけなさい」
そしてスサナは自分と葛藤しているかの様に歯を噛み締めるとユリスを窓際で抱きしめ頬にキスをした。
「後悔の無いよう…思いっきり生きなさい」
スサナはそう言い終えると窓を開け飛び降りると闇の中に消えた。
そのほんの一瞬の出来事だったがなんだか胸に引っ掛かっていた何かが無くなったような気がする。
母が自分の気持ちを受け入れ背中を押してくれた。
そんな暖かな気持ちがユリスを包んだ。
…
通り魔事件…ユリスはその事を考えた。
夜に少し見て回ってはいたのだが何の手掛かりも掴めない。
訓練でクタクタになっていた事もありあまりその時間を使えなかったと言う理由もあるが。
そこでユリスは街の人達に聞いて回る事にした。
ノエルは魔力を扱う訓練の為いない。
ユリスはまずはと店の店員に話を聞いた。
「すいません、通り魔についてなんですけど…」
「えっ?ああ、その話 噂によるとね…」
ユリスはいろいろ聞いたがまさに神出鬼没、犯行現場を転々としておりまるで霧を掴もうとしているように感じられた。
カロスにいる期間はもうあまり残されてはいない。
ユリスは夜、一か八かでノエルと共に街を歩く事にした。
…
太陽の照らす平原。
血のついた装備を着た兵士が十名、彼らはただ行く宛も無くただ逃げるためにさまよい歩いていた。
ある者は足を引きずり、またある者は息を切らし傷跡を抑えている。
戦闘に立つ女性ヌサル・ディーンは無理に強がり皆を励まし率いてここまで行軍を続けてきた。
「大丈夫だ! 歩き続けろ!」
何が大丈夫だと言うのだ。
ヌサルは兵士達に限界が来ている事を知りながらも今はそう励ますしかなかった。
「隊長…もう限界です。
隊のメンバーはもう…」
ヌサルは隊の人達を見て苦々しい顔をした。
もう彼らは本当に限界に近いことが痛いほど分かる。
だが、ここで止まるわけにはいかない、追ってが掛かっていないとは限らない。
「諦めるな! せっかく我らはあの戦場を抜け生き延びたんだ!
死んでいった数え切れぬ仲間たちの為にも…我らは生きねばならぬ」
ガシャン
一人が地面に崩れ落ちる。
ヌサルはその兵に近づくと彼女は泣いていた。
「何やってる、立て‼」
ヌサルは心を鬼にしてそう言い放つ。
しかし彼女は立ち上がらない。
「私はもう無理です。
隊長達だけでこの先は行って下さい…」
彼女もまた自らの血と他者の血を浴び赤く所々染まっている。
「ふざけるな‼ お前を置いていくつもりは無い。
命令だ立て!」
女性はヌサルの言葉を聞き、拳を握りしめ地面に叩きつけ怒鳴った。
「ふざけてませんよっ‼……私たち…は負けたんですよ!?
一体どこに行くっていうんですか!?
もう私達の行く宛なんて…ないじゃないですか…」
その言葉はヌサルにも響いた。
一瞬…自分も崩れ落ちそうになりこらえる。
足に力を入れ踏みとどまる。
そして強く…強く…彼女の胸に皆に届くように言い放った。
「立てパルマ!!
確かに…私達は負け祖国ベサデロは人間に敗れ……国を…守るべき者をも失った!!
だが今…私達は生きている!
貴様の家族はこのまま何もせず野垂れ死ぬお前を良く思うとでも⁉」
ヌサルは再び言い放つ。
「立て! まだ貴様に命があるのなら最後まで足掻いて見せろ!!」
それを言い終わるとヌサルは無理にハルマの肩に手を回し立ち上がらせた。
この言葉に隊員達は自分の足を無理に力を入れ奮い立たせた。
それから更に長い距離を飲まず食わずで歩いた部隊は完全に疲弊しきり。
等のヌサルですら目がかすみ朦朧として自分が何をしているのかですら確かでは無かった。
横で肩を貸しているパルマに至ってはぐったりとし意識はもう無いのではと思うほどだ。
隊は限界を迎え一人また一人と立ち止まっていく。
ヌサルは隊長として、導く者として最後まで立っていたが、やがて力尽き倒れ込むように足を崩し座りこんだ。
すると遠くから馬の走る音が聞こえた。
追ってが来たのだろうか? だとしてももう動くほどの力は無い。
馬と荷車の音だろうか?がガラガラと音を立てすぐそばで止まるのを感じた。
ヌサルは諦めかけた。しかし隊員の姿を見てふらふらと立ち上がり最後の力を振り絞り言う。
「殺すなら……。
私だけにしてくれ………他の奴らは見逃してほしい」
しかし慈悲の声は無い。
この場で全員殺されるのだろう。
どんな奴に殺されるのだろうか…そう考えていると想像とは違う優しい声がかけられた。
「全員、後ろに乗ってください私、宿屋をやってるんです。
そこなら…」
「お母さん…その人達怪我してるみたい…」
ヌサルにはぼんやりと人の姿が見えるだけで何を言っているのか分からなかった。
気力も限界に達しヌサルは気を失った。




