舞踏会
日暮れ、王城前…
ユリスは海に沈む太陽を見ながら屋根の上で足をぶらつかせ、門が開くのを待っていた。
少し待つと王の付き添い人の男が城の中から出てきて、歩き門へと近づいてきた。
「ユリス、もう降りてこい。
時間だ」
ノエルがそう言うとユリスは名残惜しそうに海を見つめてから、屋根から降りた。
門が開き王城への道が開く、すると集まっていた人達が中へと入り招待状を警備の騎士達に見せ城の中へと入ってゆく。
王城の庭は緑が溢れとても広く城をぐるりと囲んでいる。
城へと続く道は石畳で作れれ広い。
ユリスが城へと近づくと騎士に止められた。
「招待状はお持ちでしょうか?」
ユリスはポケットからそれを見せる。
「準決勝へ進出された選手の方ですね?
城へ入られたら前方の階段を登り右手の廊下突き当りの部屋までお進みください」
騎士はそう言い終わると次の人に声をかけ始める。
ユリスとノエルはもう見せなくていいと判断し城へと進んだ。
城が段々と大きくなりコロシアムと同じ程に高く大きくなった。
「ここが王様の住むお城かー」
見上げた後、大きな門をくぐり中に歩いて入る。
そこには大広間となっており、上に巨大なシャンデリアがぶら下がっている。
前方には二つの巨大な階段が備えられそれを登り奥の部屋へと向かう人達の流れが見える。
ユリスとノエルは言われた通り階段を登る、人が入っていく部屋は巨大な廊下となりその奥に玉座がちらりとだが見えた。
右の廊下を進み突き当りに来た。
するとそこにはメイドと執事が数人おりユリスとノエルを見るなりそれぞれ部屋へと誘導した。
「殿方はこちらへ」
「姫方はどうぞこちらに」
ノエルは執事につれていかれユリスはメイドの女性に連れて行かれた。
ユリスがその部屋に入るとそこは沢山のドレスと大きな多面鏡が置かれた部屋だった。
「どれになさいますか?」
ユリスは満面の笑みを浮かべ陳列されて要る、ドレスの森の中へと入っていった。
…
「遅いな…」
ノエルは黒い紳士服を着こなし廊下に立っていた。
ユリスを待っているが全くユリスが部屋から出てくる様子がない。
そう思いながらも待つとガチャりと扉を回す音がしユリスが出てきた。
「ユリス…か?」
「ノエルそれにあってるね」
そこには白いドレスをまとい普段はしない化粧をした、まるで別人のように見える姿のユリスが立っていた。
「さあ、行こ!」
ユリスはノエルの手を取ると小走りに舞踏会が行われている玉座の間に向かった。
その部屋につくと騒いでおらず静かに皆、玉座を仰ぎ見ている所だった。
しかし王は話さず椅子に深々と腰掛けているだけだ。
その横に立つ付き添い人の男が羊皮紙を広げ話し始める。
「えー、此度も無事に闘技試合、並びにこの舞踏会を問題なく行えた事を………」
長々と話が続く中ユリスは人をかき分けて歩き食べ物の並ぶ場所に出た。
そこでは丸焼きの七面鳥やフルーツの山、ケーキや焼き菓子、他にも豚や牛などの料理が作られ並んでいる。
「………どうぞ皆さん今日は楽しんでいってください」
王の付き添い人がそう話終わると何処かからか美しいハープの音色が聞こえそして徐々に他の楽曲の音が聞こえ次第にそれは重なり一つの曲になった。
音のする方を見ると楽曲団が上の舞台の赤いカーテンが開かれて現れ指揮者の杖に合わせ演奏している。
まるで魔法でも使っているかの様な連帯感だ。
曲が始まると中央で踊りを始める人達が出始めそれは次第に多くの人が参加し始め輪が大きくなっていった。
「わぁー」
ユリスは人垣の隙間から踊りを見て綺麗だと思った。
この王の間にある装飾と言い食事と言いこの踊りと言い、今まで観たことない、感じた事も、着たことも、聞いた事も無いものだらけだ。
今宵行われた舞踏会はユリスにとってとても凄く壮大で印象的。
「ご一緒に、ダンスを踊ってくださいませんか?」
ユリスの横から声がかけられ手を取られた。
「わたし?」
ユリスがそう聞くと男性は頷きユリスの手にキスをした。
ユリスは何をやってるのだろうと首をかしげその男を見た。
どうしたものかと戸惑っていると他にも二人現れユリスを囲んだ。
「その様な方は貴方にはつり合いませんよ」
更に増えユリスは困った事になったと少し下がった。
3人はこちらを見つめている。
「えっと…わっ」
ユリスがどうしようかと悩んでいると黒いドレス、短めの髪、黒髪の綺麗な赤い瞳をした女性がユリスの手を取って他の人達が踊る円の中へとユリスの手を取り躍り出た。
「私に体を委ねて」
黒いドレスを着た女性は成人の女性でユリスより背が少し高い。
そして何より耳が尖っておりエルフだという事が分かった。
ユリスは言われた通り取り敢えず彼女に合わせてみる事にする。
すると不思議と周りと同じ様に踊れている自分がいた。
黒と白のそれぞれ半極する二人は周囲の目を引き注目を集める。
ユリスと女性は回り飛んだりと美しく踊った。
不思議と彼女とは息が会い彼女が次にどうするか、どういう足使いをするかが手に取るように分かる。
ユリスは楽しくなり笑った。
女性もユリスに微笑みかける。
二人は音楽の音色に合わせ踊りその曲が終わるまで続けた。
曲が終わると二人は離れた。
「ありがとう」
ユリスは満面の笑みを見せてそう言い彼女の手を掴んだ。
「いえ、大した事ではありませんよ」
黒髪の女性はそう言うとユリスの手をそっと外しユリスから離れていった。
「ユリス、今の女性は?」
ノエルがユリスを見つけ近寄る。
「そう言えば名前聞くの忘れた」
ユリスが再び彼女を探すがおらずもうどこかに行ってしまった様だった。
「知り合いじゃないのか?」
ノエルの問に頷き答えた。
「ちょっと、踊らないかって誘われて困ってた時に助けてくれて…。
そうだ、ノエルも踊る?
私、今覚えたから踊れるよ」
ノエルはユリスの差し出す手に戸惑いながらも手を取った。
…
パン
突如、破裂音と共に音楽が終わり、会場に暗闇と声が響いた。
聞いたことのある声、以前ジュエルキャットで見た道化師ジャンの声だ。
『レディースアンドジェントルメン。
舞踏会にご参加の皆さま始めまして知っている方はお久しぶり。
道化師ジャン、ここに呼ばれ参上致しました』
ライトで照らされたジャンは綺麗にお辞儀をすると指を鳴らした。
その瞬間に鳩と紙吹雪が中に舞いジャンの登場を知らせた。
会場にいる人達は拍手をし2階で手を広げているジャンを見る。
『本日はほんの少しの余興、そして司会として呼ばれました』
赤い布を胸ポケットから取り出しそれを振りながら話す。
すると赤い布はいつの間にか杖へと変わりクルクルと回して見せた。
その後も炎やら水やらを操り見せた。
『本日は特別に物語を見せましょう、神々の物語を…』
ジャンがそう言うと炎が大きく燃え上がり巨大な巨人となった。
ユリスはこれに興味津々で見る。
物語と聞いたからだ。
物語は昔から好きでよく読んでいた物だ。
ユリスは天井を見上げ炎の巨人を見る。
『ある時、魔族の神は言った。
この世界は我ら魔族の物だと』
神と悪神 この物語の題名だ。
ユリスの好きなおとぎ話の一つで神と悪神が戦う話だ。
炎は燃え上がり会場にいる人々を恐怖させる。
『我ら神が言った。
それは違うと』
何処かからか水が現れ氷の人らしき姿を持つ者が現れた。
氷の神は剣を持ち炎の神に立ち向かう。
交わる炎と氷その戦いは観客の上空で熾烈を極め互いに一瞬にして姿を消した。
『そうして双方の神々は天から消え。
それでもやはり最後には人の神が勝利を収め今あるこの地上に平和と安寧を授けてくださったのでした』
ジャンはそう言い終わると会場に大きな拍手が起きジャンを讃えた。
ジャンはそれにお辞儀で返すといつの間にか隣に置いていた箱を杖で叩いた。
『余興はこれで終わり、さあ紹介しましょう。
今大会、優勝者レオ・ライオネル』
ジャンがそう言い終わると同時に箱が4つに開き中からライオネルが姿を表した。
会場は次にライオネルを称え、拍手を送った。
…
舞踏会も終わりに差し掛かった頃ユリスは王座の後ろに書かれた何枚かの壁画を眺めていた。
人が角を持つ魔族に攻められ殺されている絵、そして光り輝く表現のされた一人の人間が魔族と戦い勝利する絵だ。
その対極に先程のジャンが見せた神と悪神らしき絵も見られる。
「この絵はとある遺跡から採取した壁画らしい」
ユリスが声のする方を向くとそこには王女の格好をしたアミーラの姿があった。
その隣にはブラダが控え少し後ろで立っている。
アミーラは話を続ける。
「我ら人は遥か太古、魔族に攻め込まれ滅びかけたと聞く、その時の時代を図に表した物だ…。
そんな中、一人の英雄が現れ魔族を屠り魔族の神をも倒しこの世に平和をもたらす」
アミーラは何かを読み上げるかのようにそう言いユリスに向いた。
「所で、考え直してくれたか?」
「ごめん、それは無理。
もっといろんな場所に行きたいし、見たい」
ユリスはそう言うとアミーラから離れノエルのもとに戻った。
もう終わりと言う事もありユリスは着替えた部屋に戻り着替え、再びもとの服に戻った。
「やっぱりこの服が一番動きやすい」
ユリス達はこれで王城を後にした。
「今日は、ありがとうユリス」
暗い人気の少なくなった道の中ノエルはそうユリスに礼を言い道を歩く。
「別にいいよ。
ノエルがくれた薬草の薬で体中が痛かったのも治ったし、そのお礼」
ユリスはそう言いながらノエルの前を歩いていた。
宿に戻ろうとしていると前方に一人の人影が見えた。
ローブを被り顔は見えない。
それを見た瞬間ユリスは剣に手を伸ばした。
いつかの記憶が蘇る。
ノエルを襲っていた者に酷似する服装、状況。
「ノエル、止まって」
ユリスを追い越そうとするノエルを手で止めユリスはフードを被る何者かを睨んだ。
ノエルは前方を見て気づき数歩後ろに下がった。
「ノエル、私がもし戦いを始めたらできるだけ遠くに逃げてね」
ユリスはそう言い相手の出方を立ち止まり伺った。
「ユリス…」
ノエルがユリスの肩を掴み後ろを指さして言った。
「囲まれてる」
ユリスがちらりと後ろを振り向くと同じフードを被った人影が2人、立ち止まりこちらを見ていた。
ユリスはノエルを庇い横に立たせ両方を見る。
「走って!」
ユリスはそう言ってノエルの手を取り横の路地へと走り始めた。
フードを被った人物達もそれに反応し走り出す。
狭い路地を走り抜ける。
何故か視線をそこら中から感じる。
上を見ると屋根の上を挟むように二人が並走している事に気づいた。
ノエルを連れていては逃げ切れない、しかし戦うにも多体一、分が悪い上ノエルを守らなければならない。
走っていると前方の路地の出口にも人影が現れた。
「ノエル! 我慢してね」
ユリスはそう言うとノエルを持ち上げ急に反転し壁伝いに飛び屋根の上に出る。
屋根の上は障害は無い、しかしそれは相手も同じ事で4人程の人が走り、ユリスに近づいてくるのが見える。
ユリスはノエルを下ろし再び手を取り走り出す。
ユリスは逃げ切れないと悟り声を上げて呼んだ。
「セアム!!」
しかし何も起きるはずも無く徐々に差は縮まって行く。
あと少しで追い付かれると言うところで2つの影が間に割って入った。
黒いローブに狐の仮面、もう片方は褐色肌の女性。
「なに止まってんだ?
行くならさっさと行きな」
フィオとライエールだった。
フィオは拳でライエールは剣で4人を相手取り足を止めさせた。
ユリスは加勢しようかと迷ったが下の道を走る影や屋根の上を走る別の影たちに気づきこの場を任せノエルを連れて走り出した。
再び徐々に包囲され始め前方にまたしても人影が現れる。
後ろ横と続々と現れユリス達は屋根の上、8人ほどの人達に包囲された。
ユリスが戸惑いながらも剣を抜くと一人の女性の声が掛けられた。
「やめろユリス…。
同胞を殺す気か?」
その声はとても懐かしい、聞いたことのある声だった。




