アイラの生死
ユリスは信じられなかった。
つい最近まで会い話していた少女の名が新聞に乗り。
死亡したと書かれている。
あのマーレの元気に街なかを走り回る赤い髪の少女が死んだ?
アイラが死んだ?
本当にユリスはなにかの間違い、そんな事はあり得ない。
ユリスは何度も何度も新聞を読み返した。
なんて現実感が無いのだろう。
外を見れば人々は何事もないかのように歩き行き交う。
あり得ない…そんな事はあり得ない。
ユリスは涙も出ずただただその言葉と感覚が頭の中を満たした。
ユリスはすぐさま部屋を出ようと扉を開けた。
しかしそこにはノエルが階段の手すりに寄りかかりユリスを見てこの先には行かせまいとしていた。
「ノエル! どいて!!」
今でもお姉ちゃんと元気よく挨拶をするアイラを思い出せる。
「ユリス!! 約束しただろ!
それに、なんでこうなったのか。
俺にも分からないんだ!
これ以上犠牲者を増やさない為にも今はマーレに戻らないほうがいい!」
「そんなの、私には分からない!
お願い、どいて!」
ユリスはノエルに手を置き退かそうとした。
「明らかに、俺達は狙われていた。
彼女は一番俺たちに関わっていた。
そうは思わないか?
また俺達が行き他の子に関われば今回のような事が起こる可能性がある。
ユリス!! 君はまだ犠牲者を増やしたいのか!?」
ユリスは初めてノエルに怒りの感情が膨れ上がった。
「そんな分けない!!」
ユリスが声を荒げたのを見てノエルは冷静な口調に戻りユリスを落ち着かせるため肩に手をおいてゆっくり話した。
「なら、答えは単純だ。
まずは、敵を知ろう。
殺人鬼が誰なのか、それは単独の行動なのか…一体どんな動機でこんな事をするのかを。
まずはそこからだ」
ユリスはそのノエルの優しく語りかける言葉に冷静さを戻した。
「取り敢えず今日はもう遅いから寝よ。
寝れば、落ち着くし冷静に客観的に見られる様になる」
ユリスはその日、部屋に入ったが眠れずこっそりと宿を抜け出した。
ユリスは気づけば海辺の孤児院へと足を進めて海を見に来ていた。
手には新聞が握られている。
唐突な死と言う報告。
こんな紙切れ一つに…。
ユリスは新聞を広げた、次の瞬間強い風が新聞をさらいユリスの手から取った。
「あっ…」
さざなみが聞こえる崖の下へと紙はひらひらと舞い…落ちてゆく。
それはやがて海へと消えた。
「アイラ・エトワールさんの為に悲しんでおられるのですか?」
ユリスが一人海を見ていると一人の女性が現れた。
アリマ・エトワールだ。
白い髪を持つ女性はユリスの横に来て座った。
「いえ、悲しいと言うより、実感が無いんです。
本当にこの私の今いる世界から消えてしまったのかと」
アリマはユリスに近づきユリスの頭を撫でた。
「貴方はまだ若い、死と言うものは生きている限り必ず訪れます」
ユリスはアリマの優しい声に耳を傾け聞いた。
「きっとアイラさんは、数多くの悲しみ、祈りで主の身元に送り届けられた事でしょう。
そして私達も、それを受け入れ前に進まねばなりません。
後ろには戻れませんし、過去に捕われ道をはずれぬように」
アリマはそう言い終わり少しして立ち上がった。
「今日は少し冷えます。
良かったら、来ませんか?」
ユリスはここからまた宿に戻ろうとも思わなかったのでこの教会で夜を過ごす事にした。
教会での朝は騒がしかった。
周りの声にうなされ、寝返る。
「起きて、お姉ちゃん」
「ご飯、できたよ」
ユリスは重たいまぶたを開けた。
すると太陽の光が部屋の入り口から中を照らしている。
目の前には子供が数人ユリスの上に横にそれぞれ、はしゃぎユリスを叩いたり、声を上げたりしていた。
「起きた、今起きたから…」
ユリスはそう言い体を起こし上に乗っていた子供を降ろした。
「ああ、ユリスさんすいません…
子供達が、勝手に起こしてしまったみたいで」
目を上げるとアリマが部屋に入りユリスを見ていた。
その日の朝食はとても賑やかでなんだか落ち込んだ気持ちを何だか魔法で消してくれているかのようだった。
子供たちは明るく笑いかけ、ユリスを囲む、そんな中一人の子供が窓の外を見つめ叫んだ。
「おっきな、わんちゃん!!」
子供たちは一斉に窓に集まり顔をガラスにつけた。
ユリスは立ち上がって見るとセアムがノエルを乗せてこっちに近づいて来るのが見えた。
ユリスは扉を開け外に出る。
すると大きなズシズシという足音と鼻息がユリスの近くまで来た。
ユリスはセアムを抱きしめ撫でる。
「心配、したぞユリス!
一人でマーレに向かったのかと…」
「ごめん…ちょっと海を見たくなって」
ユリスはそう言いノエルを見た。
子供たちはユリスがセアムを撫でているのを見て一斉に飛び出し、今度はセアムを囲んで触りだした。
「お手ー」
「あったかーい」
子供たちの元気は底知れずだ。
セアムは楽しげに尻尾を振りその場に座った。
ノエルはセアムからおり柵に捕まり海を見た。
「なあ、ユリス…砂浜にでも行くか?」
…
砂浜に降りるには崖を下り降りる必要があった。
ユリスはついてくるアリマと子供達と共に海沿いを行き下る道へと入った。
上から港を見る景色は良く、船が停泊したり出港する様子は見ていて面白かった。
砂浜を歩く感触もユリスは初めてでザクザクと少し足が砂に沈む感覚や海が行ったり来たりする光景を間近で見るのはまるで夢の中にでもいるような感覚になった。
物語で聞いた海。
ユリスが子供たちを見るとすでに靴を脱ぎ海の中へと入っていく所だった。
「お姉ちゃん、早く」
笑い、ユリスもまた素足になり子供達に続き海に浸かった。
子供たちに水をかけられかけ返す。
砂で子供と遊び、景色を楽しんだ。
しかし、アイラの事を思うとユリスの心に影を落とした。
あの時だ…あの時黒ずくめの殺人鬼を捕まえる事が出来たのであれば、こんな事にはならなかったのでは無いだろうか。
ノエルは海に行かず海へと続く坂道に腰掛けたまに遠くを見つめるユリスを見ていた。
「気になりますか?
彼女の事が」
ノエルが振り向くとそこにはアリマがいた。
「まあ、少しな…これまでナバトからここまで来たが。
なんて言うか…まだ少しユリスは…」
「子供っぽい? ですか?」
アリマはそう言いノエルを見た。
「そんな所もあるかもな…でもどちらかと言うと、普通の人じゃない、優しさ? がある様な気がする。
他を思う…そんな優しさが」
ノエルはそう言いユリスに目を戻した。
「ユリスさんは、お強いですか?」
アリマは唐突にそのような質問をしてきた。
「ん? ああ、それもかなり」
「なら、闘技大会に参加するのはどうですか?
思いっ切り体を動かせば、思い詰めた事でも受け止めきれる様になりますよ。
子供達が悩み事や悲しいこと、辛い事、思い詰めていたりした時があったら、思いっ切り体を遊びなんかで運動させたりします。
そうすると例え嫌でも元気になりますよ」
アリマはそう言い下へと向かい子供達やユリス、セアムの中に混ざっていった。




