通り魔事件
翌日、ボーネの死体が見つかった事でギルド、いや街、マーレ全体がこの話で持ちきりになった。
ユリスはそれをノエルから朝食を取っている時に教えられた。
「それで、今日はギルドから再び招集命令が出された。
だが、ユリスは行かなくていい、部屋で休んでいてくれ。まだ完治はしてないだろうし」
「ノエル、私なら大丈夫だよ。
装備はまだ直して貰ってる途中だけど、問題無いよ」
ユリスはそう言い残りの朝食を口に放り込み立ち上がろうとした。
「駄目よ」
ユリスは立ち上がりノエルに付いていこうとしたがマダムに抑えられ椅子に戻された。
「確かに、ユリスちゃんはたった一日で通常の生活に戻れるくらい、異常に治りが早いから大丈夫かも知れないけど。
普通なら一週間は軽くベットの上よ」
マダムはそう言いユリスの前に座りユリスの左腕を取り袖をまくって手を置いた。
「毒は問題ないわね。
でもやっぱり疲労が蓄積してる。
せめてあと一日は休みなさい。
いいわね」
マダムは有無を言わさぬと強く言いユリスの食器を持ち台所へと入っていこうとして止まった。
「それと、今日は外出、禁止よ。
通り魔事件があったばかりだからね」
マダムは言い終わると台所へ入った。
ユリスはふてくされながら窓を見る、ここは三階の為とても見晴らしが良い。周りにここより高い建物が無い上、立地が高い場所にある為、街を見下ろせた。
街には出見せや商店が立ち並ぶメインの大通りや住宅街が見えた
今頃ノエルはあの大きなギルドに向かっている最中なのだろうか。
ユリスは窓に近づきおでこをガラスにつけ人混みを見た。思っていたより人を見たりキャラバンが見えるのではと見たりするのが面白かったので今日はここで一日過ごす事に決めた。
…
ノエルはギルドに入り以前と同じようにルアから話を聞いていた。
側にはシャールとボルカが偶然近くにいる。
「今回の通り魔事件ですが被害者はC級の冒険者五名です。
状況を見るにタラクス討伐による多額の賞金目当て、ではとギルド側は考えています。
殺害されたC級冒険者達は当日かなり酒を飲んでおり泥酔状態だった事が考えられそこを狙われたようです。
しかし、調査は最低三名のパーティーを組み行動し、犯人の捜索、確保をお願いします。
当然ながら捕まえたパーティーには十ガロンをギルドから払います」
ギルド内は以前とは異なり歓喜は起きず、ざわざわと話し声が聞こえる程度だった。
ギルドの面子がかかった招集、いつもなら怒りの声を上げ罵声などが飛び交う所だ。
しかし、ここ全員、2日間の魔物討伐で疲弊しきっている。そして泥酔状態とはいえ今までに無いC級五人同時殺害、状況は最悪だった。
「ノエルさん、どうします?」
シャールが聞いてきた。
「パス、と言いたいとこだが、街の事を考えるとそうも行かない。
俺達は捜索のみに徹底して行動しよう
確保は他のパーティーと一緒の時、もしくはC級に任せる」
ノエルはそうシャールとボルカに告げギルドを出た。
「まさか、あのボーネさんがあんな最後を遂げるなんて。
私あの人嫌いだったんですけど流石にこれは」
ノエルはフンと鼻を鳴らした。
「自業自得だ、ユリスが命懸けで倒した魔物を自分の手柄にしたからだ。
身の丈に合わない大金が手に入ってからの危険性は考えるべきだっただろうに」
ノエルは昨日行われた殺害現場に向かい現場を見て回った。
今はギルドが管理しておりギルド員以外は立入禁止となっていた。
「ここがおそらく最初に殺された場所か」
ノエルは次々と死体そして現場を見て回った。
最後にボーネが倒れていた場所で立ち止まり死体にかけられた布をめくり見た。
「まったく、とんだ災難だったな」
ノエルは、ボーネの首と腰に付けてあった袋が無いことを確認し布を戻そうとし、手を止めたボーネの首元から何か光るものが見える。
「これは、鍵?」
とっさにシャールが口を隠し驚いた。
「それ、貸し金庫の鍵だよ」
ノエルは首をかしげ手を口に当て黙った。
どうゆう事だ?犯人が見落とした?
しかし腰袋は取られている…いや最初からつけていなかったという可能性は無いか。
ノエルは首から鍵を取り布を戻す。
すぐさま他の遺体の腰袋を確認しに戻った。
どれも少額ではあったがついている。
ノエルは改めて死体を見て、嫌な想像が頭をよぎった。
「これ、賞金目当てじゃ無いかも」
だがしかし、なぜ彼らなのだろうか。
「それと、只者じゃない」
ボーネ以外、剣が抜かれていない、つまり気づかれず殺したか…反撃もできなかったか…。
「後は金庫に何が入っているか」
ノエルは鍵を見てポケットにしまい、貸し金庫のある商業街へと戻った。
…
「うわぁ」
商業地区にある貸し金庫店、店内地下でノエル達は事情を説明し貸し金庫を開けてもらっていた。
中からは金貨、百五十程の小山が積み上げられていた。
「間違いなく、タラクスの賞金だな」
ノエルは鍵を再び掛けギルドへ報告する為に一旦戻ろうと店を出る。
外に出ると夕日が沈みかけた空となっており何時もは賑わい明かりが灯っているはずの大通りは暗く人がチラチラと見える程度となっていた。
ノエル達は歩きギルドへと向かう、その間に太陽は沈み大通りは闇に包まれた。
「ちょと待て」
ノエルは離れた前方に人が佇んでいるのが見えた。
ここはギルドの目と鼻の先だ。
ノエルはまさかと思いながらも唾を飲み込み剣に手をかけようとした。
次の瞬間ノエルは後ろへ倒れていた。
ボルカがノエルの服を掴み後ろへと引いたのだ。
ノエルがいた場所にナイフが空を切った。
「っう、はあああ!」
シャールが剣を抜き影に斬りかかるしかしそれはひらりと交わしシャールへとナイフを振るった。
「うおおおおお!」
ボルカが唸りそうはさせないと突進した。
黒い影はまたしてもひらりと軽く避けナイフがボルカの首を狙った。
ボルカは首を腕でとっさに守り致命傷は避けたが腕から大量の血が吹き出した。
ノエルは剣を抜き黒い影に向けた。
「シャール!走れ!! ギルドに行って応援を読んで来るんだ!!」
黒い影はそう言われ走り出したシャールに向かおうとした。
ノエルはそうはさせないと斬りかかる…がやはりふわりと交わされる。
影はするりとナイフを持ち替えノエルの首を狙い振り下ろされる。
ノエルは死を悟った。
ガキンという音と共に黒い影は中に舞いノエルから遠ざかった。
「人がいなくて、見つけやすかったよ」
ノエルが振り向くとメイド服姿のユリスが剣を持ちそこに立っていた。
その後ろには、立ち並ぶ家々そして宿屋の窓から漏れる光が美しく点々と輝いていた。
…
互いに交わる剣とナイフやがてそれは火花を散らし。
ユリスと影の攻防は加熱し段々と速さをまして行った。
次々と繰り出される剣戟をなんとも無いかのようにナイフで弾く。
ユリスは相手を見据え剣を強く振るう。
なんど斬りつけても空きが見いだせない、それどころか徐々に反撃が激しくなりユリスは防前一方になった。
明らかに相手の方が上手だ。
しかし影の攻撃が急に弱まった。
ユリスはそれを逃さず一歩踏み込み大振りの薙ぎ払いを繰り出した。
影は後ろに飛び退りそれを交す。
その時ギルドから次々と松明を持った人影が飛び出し黒い影とユリスを囲んだ。
黒い影の正体が照らされた。
ふわりとした動きの正体は黒いローブで顔もフードで覆われ口もとのみが薄っすらと見えた。
その部分は血が一筋、滴り落ちてゆきそれを舐め笑っていた。
ユリスは剣を再び構える。
しかし黒いフードを翻し冒険者達を飛び越え再び闇へと姿をくらました。




