ナバト村
心地の良いそよ風に打たれながら二人と一匹は麦畑を抜けて、その先の遠くに小さな村を見つけた。
近づくにつれユリスの好奇心は掻き立てられた。
家から出て初めての村だ、いったいどんな人たちがいて、一体どんな事をしているのだろう。
村に近づき村の門を見ると木で作られており、所々黒ずみ、朽ちているのが分かった。
しかし、ユリスにとってそんな事は取るに足らないものだ。今まで外の世界を見た事の無いユリスにとってこの門の先は未知だった。
きっと面白い事や楽しい事そして知らなかった事がたくさんあるに違いない。
普通の人が見ればただの廃れた田舎の村にある門なのにそれをユリスは、憧れの眼差しで見た後、扉をリズム良く拳で叩いた。
セーラを見て村についたよ、と見たが眠ってしまったようで村についても反応がない。
「ちょっと待ってくれ」
ガラっと音とともに門の除き窓が開き、中から男の目が覗いた。
「あっえっと」
ユリスはまさかそこが開くとはと驚き上手く話かけれなかった。
「すまんな、今開ける」
ユリスが要件を言うまえに門がギギギっと今にも金具が取れ、門が倒れてくるのではないかと不安になるような音を立てながらゆっくりと開き出した。
門が開くと中から先程覗いていた男性であろう人物が押して大きな門を開けているのが見えた。
「ふー よし、入んな……って何だそいつ」
男は門を開け終わりユリスを見るやいなや門を開け、疲れていた表情が吹き飛んだ。
そしてセアムに近寄り、まじまじと見始めた。
「こんなでけえ狼は初めて見た。しかもそいつを女の子が手懐けてるたぁ」
男は感心したようにホー、へーとセアムを凝視し、ユリスもセアムと同じようにまた、まじまじと見た。
ユリスはそれを別に気にせず、セーラを見ていった。
「あの、治療ができる方はいませんか怪我人が乗っていて」
「ほう、怪我人?どれ」
男はセーラが乗っている荷車を除き込みあっと息を呑んだ。
「セーラ、セーラじゃねえか」
セーラは男の知り合いらしい、男は慌てた様子で急にこっちだっと走り出し、追ってこいと腕を使って手招きした。
ユリスはセアムに男を追わせ並走して村の中に入っていった。
村の中も外からみた様子と変わらず廃れた印象を受ける。
しかしそれでもユリスは一人、一人が何をしているのかや建物を目移りさせていた。
そしてその人たちもユリス、いや、セアムを見て驚いていた。
「ここだ、ここ おーい先生、セーラが」
案内をした男は中に入って行きすぐ、白い服を着た男を連れて出てきた。
「これは」
出てきた男はセアムに一瞬面食らったが荷車からセーラを持ち上げ降りてくるユリスの姿を見てユリスの元へと駆けつけた。
「今は少し寝てるみたい」
セーラは安心したのかぐっすりと眠っており、ユリスが持ち上げても起きはしなかった。
「そのままこっちに頼む」
ユリスは医者の男に言われるがまま家の中に入りガラス瓶や薬草が置かれた部屋のベットにセーラを寝かした。
「ありがとな。じょうちゃん」
セーラを任せ、その家を出ると門番がセアムを撫でて待っていた。
「ところで名前はなんていうんだ」
門番が訪ねる。
「ユリス・アラフェルです」
「そうか、俺はフット・バーキン フットでいい」
フットはそう言うとにっと、ユリスに笑顔を見せて、手を差し出した。
ユリスはその後、フットと共に歩いて門まで戻ってきていた。
「これでよしだ」
フットはセアムを馬達のいる馬小屋に繋ぎ止めユリスに向き直った。
あまりユリスはセアムを繋ぐのを良いように思わなかったがそれに従う事にした。
「悪いなあんたの狼をこんなとこ繋いで 皆が怖がっちまうからな」
「狼じゃない、セアム、それと私のじゃない、友達」
ユリスは少しムッとなって言った。
フットは悪いと頭をかき、ついて来いよと促した。
「今日は宿屋に泊まってくんだろ?任せろ、俺が案内してやる」
任せろとドンッと胸を叩いた。
ユリスは宿屋? という物が何かを知ら無かったので少し楽しみと期待した。
少し歩くとすぐにそれらしきものが目に入った。
「あれがナバト村、一番の宿屋だ」
フットは指を指しながら自慢げに言った。ボソッと小声でまあ一つしかないんだけどな、と付け足して。
ユリスがその宿屋の前に立つと看板にはデカデカとその宿の名前が書かれていた。
ナバト村、随一の宿 休息の館
ユリスはその看板をまじまじと見たあと、中に入る。
すると小さな女の子があたふたと奥から駆けつけてきた。
「いらっしゃいませー」
ユリスは出てきた少女に視線を向けた。
子供だそれもまだかなり、ユリスの胸あたりに頭がくるほどの背丈だ。
宿屋の中を見渡すとレストランのようにテーブルと椅子が並べられているのが見え、その中央には螺旋階段が備え付けられていつる。
上の階は下の階を見下ろせるようになっており下の階の奥と同じように扉が五つほど備え付けられていた。
「レイラちゃん今日は客を連れてきたぜ」
フットがユリスの横からぬっと現れユリスの前に出た。
「あっフットさんいつもありがとうございます」
レイラは小さな体でペコリと丁重にお辞儀をした。
「それでなんだが3日分頼む」
とフットは懐から五枚の銀貨を少女に渡した。
渡し終えるとフットはユリスに小声で、もし明日出てくならそれでいいと言った。
「多めにしといた、その代わり、そのぶんサービスしてやってくれ恩人なんだ」
レイラは明るい笑顔を見せて頷いた。
「はい、三日ですね分かりました。ありがとうございます」
ユリスはその後、レイラに部屋の場所を教えてもらった。
螺旋階段を上がって一番左の部屋だ。
「少々、ここでお待ちください。今すぐ昼食をお作りしますので」
そう言い部屋を飛び出してバタバタと音を立てている少女を見送ったあと、部屋を見渡した。
部屋はとても綺麗で隅々まで掃除が行き渡っている。
机をすっと指でなぞってもホコリがつかない。
「一人で切り盛りしてるのかな」
厨房でバタバタと聞こえる足音を耳にしながらユリスは呟いた。
それと同じにお腹の空きを感じ食事が待ち遠しく感じた。
…
昼食はとても質素なものだった。
スープにパンそしてちょっとした干し肉が添えられている。
肉は固くスープは薄い、具材がゴロゴロとぶつ切りのものだ。
「あ…あのお味はいかがでしょうか」
レイラは心配そうにユリスが食べている姿をずっとお盆を抱きかかえて見ていた。
少し食べづらい。
「ん…美味しいよ ありがと」
ユリスはちらりと不安げな少女を見て微笑んだ。
これは正直半分、嘘半分だったスープは正直言うと野菜をそのまま煮込んだ感じのものだ、しかしパンと言う物はどうだ、見たこともきいたことも無い食べ物だ。
「ほんとですか‼ ありがとうございます」
レイラは満面の笑みを見せ喜んだ。包帯で雑にグルグル巻きにされた指をお盆の後ろに隠して。
ユリスは昼食を取り終わった後、村を探索しに宿屋を出た。
外に出ると人がちらほらと4人ほど歩いているのが目に入った。
改めてユリスは小さな村を隅々まで見て回る事にした。
村には宿屋に続き外で売っている、八百屋に酒場それと馬小屋がある。
ユリスはその一つ一つまじまじと見て回った。
その中で、一番惹かれたのは酒場だ。酒場の中には人が5人程とユリスにとっては活気に満ちている。
それにカウンターという場所、そこでお酒を頼むらしく、後ろにはズラーっとそれぞれ違う張り紙が貼られた樽が六個ほど並べてあった。
どうやらその中には酒が入っているらしく、カウンターの人が注文を受けると栓を抜き酒を樽から吹き出させ木のジョッキに注いでいるのをユリスは見た。
ユリスは満足げに宿屋に戻ると一人の男がユリスを呼び止めた。
「君、ユリスくんだったね。
ちょっと頼みたい依頼があるんだ」
ユリスが振り返るとそこには昼方に出会った医者がいた。
医者は何やら紙切れを持って渡そうと紙を持ち上げユリスに向けた。
ユリスはそれを手に取り紙を広げ覗き込んだ。
「これは?」
依頼 薬草の採取
賞金 五エルク (銀貨5枚)
内容 ハスミンの採取
依頼主 メド・ウェル
「この薬草は打ち身や捻挫に使えるんだが今切らしてしまってね。
もし 受けてくれるなら ノエルの奴を頼るといい。
数カ月前にふらっと帰ってきたやつなんだが薬草に関して知識は確かだ」
やってくれるかい、とメドはユリスに問いかけた。
ユリスは何なのかよく分からなかったが薬草を取ってこればいいのかと頷いた。
「わかった、いいよ」
メドはそれを見て先払いだと言い、ユリスに銀貨五枚の五エルクを渡して頼んだと去っていった。
メドを見送ったあとに振り向くと宿屋からフットが出てくる所が少し遠くに見えた。
遅めの昼食の様で満足そうにお腹をポンポンと叩いている。
「ありがとよレイラ。今日も美味しかったぜ」
「いつも、ありがとうございます」
どうやらフットもあの薄いスープとパンを食べたらしい。
フットはそのまま門の方へと向かって行った。