伯爵夫人
「ユリス!! そっちに行ったぞ!」
「分かった! 任せて」
朝方、ユリスとノエルは路地裏を走っていた。
「あと、少し…だめ!」
ノエルはそれを見るや別の路地裏の道に進み走った。
「ノエル! お願い」
ユリスは上を見て目の前の壁を越えるために窓などを利用し登り始める。
ようやく壁を乗り上がるとノエルが走って行くのが遠くの路地で見えた。
ユリスはそのまま屋根の上からノエルを追いかけた。
下を見ながら屋根を伝い狭い路地の間を飛び越えユリスは走った。
下でついにノエルが息をきらし立ち止まる。
ユリスはノエルを追い越しようやく追ってをまいたと気を抜いている目標めがけ飛び降りた。
「やった、捕まえたー!」
ユリスの手にはもふもふとした毛むくじゃらの生き物が掴まれていた。
それはたじろぎ逃れようと奮闘しニャーと暴れる。
そこにノエルが横腹を抑えながら追いついた。
「この…猫ほんとに…逃げ足が…速い」
ユリス達はその猫を抱え依頼主のもとへと届ける。
いつもと変わらず冒険者ギルドでは今日も人が集まりガヤガヤと騒ぐ。
「はい、達成を確認しました。こちらが依頼、私のマロンちゃんを探しての報酬になります」
受付嬢はそう言うとカウンターの上に三枚の銀貨、三エルクが置かれた。
ユリスはそれを受け取り腰袋に入れる。
ノエルと話し合い、資金はユリスが持つことになったからだ。
この街に来てから数日が過ぎ、その間、まず、資金集めとクエストを受けていた。
がF〜Dランクのものしか取れず薬草集めや運送、そして猫探しをこなしている。
魔物の討伐依頼はあったがCランク以上のみでD以下のクエストは朝に貼り出されるが全員が狙っていて、それをまるで鯉の様に依頼をちぎっていく為見た事も無い。
運送の依頼も討伐依頼程では無かったが取れなかった人、初心者冒険者が取っていってしまう。
だが、薬草取りと猫探しの依頼は何故か沢山、余っている。
ノエルが言うには、討伐が冒険者の花で薬草取りは見つからず困難なうえ多少の知識が無ければ見分けられない事から放置されるらしい。
猫探しの依頼も同様だ。
しかし、それは二人に当てはまらなかったらしい。
ノエルは薬草を取るのは得意だしユリスは直感と持ち前の運動神経や視力で猫を見つけては依頼主のもとまで届けていた。
おかげで今では少し揺らすだけでエルクがジャラジャラと音を立てるまでになっていた。
「おい、ノエル。
また雑用の依頼、やってんのか」
嫌なニヤニヤ笑いを浮かべた男がノエルに呼びかけた。
ボーネだ、どうやらノエルの知り合いらしいが、いつも飲んだくれ、依頼を終えた二人に絡んでくる。
「大変そうだなあ、俺みたいなC級冒険者様になれば、そんな依頼受けなくてもいいのにな」
小汚い男はそう言いビールを飲み笑った。
ノエルは無視をしユリスに行こうとギルドの外へと向かおうとした。
「ユリスちゃん、そんな男と一緒にいないで俺とC級の依頼に来ないかい?」
いつもこうだ、ここ数日この弄りをあきもせず彼らは続けている。
ユリスはため息をつき、いつもの様に無視をした。
「ユリスさん、ノエルさん少しお話があります」
受付嬢のもう一人が近づき話しかけてきた。
受付嬢の二人はそっくりでこうして並ぶとどちらがどっちかが分からない。
一人はルアで前髪で右目を隠し、もう一人はルナで逆に左目を隠している。名前まで似ていて分かりづらい。
ルアとルナ 双子の姉妹でギルドの看板娘だ。
ルナが話を続けた。
「二人にクローバ夫人から指名のご依頼があるそうです」
そう言い持っていた一つの依頼書をカウンターに置いた。
「クローバ? あのクローバ伯爵?それも指名!?」
ノエルは驚き声を大きくして話してしまった。
その声にザワザワと周りが騒ぎ出しボーネは黙り込み盗み聞きしているようだった。
クローバという名前は有名でこの街の中心にある豪邸に住んでいる人の名前だ。
ノエルは周りを見渡した後、落ち着いて依頼書を見た。
依頼 猫の捜索
賞金 二五エルク
内容 ピーチちゃんの捜索
依頼者 バトゥナ・ジョセフ
その下にはさらに文がある猫探しの依頼を毎日こなしている
「なんだビビらせやがって、猫の捜索じゃねえか」
ボーネはいつの間にか盗み見て前インに聞こえるように叫んだ。
それにより会場に笑い声がドット湧き出した。
「ほっとけ」
ノエルはそう言って、依頼書を大切そうにしまい、ユリスと共にギルドを出た。
ユリスは嫌そうな顔をして、中にいる人達を見ていたが時間の無駄だとギルドを離れる事にした。
今は調度、昼もう一つの依頼を受けても問題ないだろう。
そうノエルは思い伯爵のいる豪邸へと足を進める。
近づくに連れ豪邸はますます大きくなって行きやがては見上げる程になった。
「ノエル、ここすごいね。
でもこんな大っきい家に住んでどうするんだろ?」
ユリスはそう言いながらノエルの後ろについていく。
ノエルが立ち止まり一息つくと扉を叩いた。
すると扉がひとりでに開くと中にメイド服を着て笑顔で出迎える女性が目の前に立っていた。
「ようこそ、おいで下さいました。
私はこの屋敷を担当しております、メイドのソフィアと申します。
ユリス様にノエル様ですね。
お話は聞いております、どうぞこちらへ」
ユリスとノエルはソフィアが名前を当てた事に一瞬、驚いたがソフィアが背を向け、進みだしたのでそのままついて行った。
屋敷の中は広々とした空間になっており、廊下には所々、ランプや甲冑が置かれ扉がずらりと奥まで続いているようだ。
ソフィアは迷うことなく歩いていき
一つの扉の前に止まった。
コンコンとソフィアが扉を叩く。
「お客様を連れて参りました」
すると中から野太い女性の声が帰って来た。
「今はそれどころじゃないザマス。
そんな事よりピーチちゃんが先ざますわ」
ソフィアは笑顔で続けた。
「はい、その件でユリス様と…」
ソフィアが言い終わる前に扉がガバッと開き中から太ったガマガエルのような女性が現れた。
腕や首そして指に宝石をジャラジャラといわせつけている眼鏡にも宝石がキラキラと輝いていた。
ノエルとユリスは部屋の椅子に座らされクローバ夫人の話を聞かされる事になった。
その間にメイドのソフィアが小さな食べ物と濁った水を持ってきて三人の前においた。
「こちらはコーヒーにマドレーヌと言うお菓子です」
ユリスは話を聞いてはいたが、出てきた食べ物に興味が湧いた、周りにはコーヒーと甘い香りが立ち込めている。
ユリスはマドレーヌを一つ取り頬張った。甘い、ユリスはそれを眺め驚いた、こんな美味しい物があるなんて。
それじゃあこっちはとコーヒーに手をつけた。
「にがい…」
ユリスは先程のマドレーヌで口直しにとつまんだ。
ユリスは話を聞かなければと話に集中しようとしたが、夫人が白い粉をコーヒーに入れるのを見てユリスも真似をした。
「…それでねうちのピーチちゃんを探してほしいあますの」
クローバ夫人は涙を時折ハンカチで拭い自分の猫の特徴を話した。しばらく話を聞いた。
ピンクでふさふさ 宝石が入った首輪
泣いている夫人の顔は余計にガマガエルに見える。
ユリスはそんな事は気にもせず泣いている夫人にそっと肩に手をおいて優しく話した。
「大丈夫です、任せてください。
必ず、私がそのピーチちゃんを見つけますから」




