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ふれたい唇  作者: 天川さく
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05 「命をかけた責任追及」


「ひとりでは出られないなにか問題があるんですか? ……メンタル的なもの? 対人恐怖症とか」

「対人恐怖、ではあるわね。特定の人物限定だから、PTSD、心的外傷後ストレス障害に近いかしら」


 ……PTSD。


「彼ね。結構な人数にこっぴどく裏切られて、命をかけて責任を押し付けられかけたのよ。相手は社会的地位もあるいい大人なのに。ふざけた話よ」


 顔がみるみるこわばった。命をかけた責任追及? ……それって。


「でももう、対人関係的には問題は解決しているの。必要なのは、きっかけ。薫が外へ『出たい』という踏ん切り」


 ただ、となごみさんは苦笑する。


「わたしがいえば彼は逆らえないもの。追い出すみたいになる。薫が自分から外へ出ないと、彼がここでほとぼりを冷ましていた意味がないわ」


 外に出た薫さんは、追い出されたと思い込んで──。


「たえられなくなって彼は──死を選ぶ」


 端的な言葉が胸をえぐる。

 だって彼は、となごみさんが続ける。


「優しいから」


 口が震えた。目頭が熱くなる。目を伏せる。胸でつぶやく。

 ──うん。

 

 私が──教授の代わりをしていると告げると、「がんばれ」ではなく「がんばるな」といってくれた薫さん。

 がんばりすぎても誰も褒めてくれない。がんばれなくなったときに、どうしてがんばれないんだと(なじ)られるくらいだ。そういってくれた薫さん。

 その薫さんがなごみさんに「出ていきなさい」といわれたら、自分に落ち度があったかと、きっと悩む。外に出たことで自分の周りの誰かを傷つけるんじゃないか。それくらいなら、ってきっと思う。

 ──自分なんかいないほうがベストだ、って。

 それくらい彼は、優しい。

 

 なごみさんが潤んだ視線を私へ向けていた。


「ここへ来てくれたのが、あなたでよかった」


 はっとして顔をあげる。

 吸い込まれそうに透きとおった、なごみさんの瞳。なごみさんがどんな思いでずっと薫さんをここで(かくま)っていたか。それを思うと胸が熱くなって。痛くなって。叫びだしそうになって。

 私はしっかりとなごみさんの目を見つめる。

 それから力強く、うなずいた。



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