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5話 買い物と貧乏人

 ブルバの町に着いたアローン、ウィズ、レイラの三人。

 町を散策しながら目当ての店を探す。レイラの旅支度を整えるための衣料店や雑貨店だ。

「なんで着の身着のままなんだよ」

 今更な疑問をアローンは膨れながら言う。

「だって、キャラバンに置きっぱなしだったし、それに、たいしたものは持ってこなかったし……」

 レイラは俯きながら答える。その様子を見てアローンはピクリと眉を動かす。

「お前、死ぬ気だな」

 アローンの言葉に空気が固まる。

「そんなことないわ。覚悟があるって言ってちょうだい」

「レイラさん……」

 レイラの言い訳を見抜いているのかウィズは悲しげな声をあげる。

「ウィズも安心して。せっかく緋雨の竜とも会えたんですもの。簡単には死ねないわ」

 薄く微笑むレイラの表情には危うさが漂っていた。

「お、ここじゃないのか?」

 アローンがお洒落な外観の店の前で立ち止まる。婦人衣料店のようだ。

「アローン、私も服買ってきてもいい?」

 ウィズがアローンの顔を覗き込みながら訪ねる。

「好きにしろよ。俺は外で待ってるから。あ、それとウィズ」

「なぁに?」

「コーラ代くれ」

 そう言いながら片手を出すアローンに困った顔をしながらウィズは小銭を渡す。

 アローンは店の外に設置してある自販機でコーラを買うと一口煽りながら呟く。

「ほんと、どこにでもあるなこれ」


 衣料店の店内に入ったウィズとレイラははしゃぎながら服を見て回る。

「レイラさん、どんな服にするんですか?」

「私はお洒落なのが良いんだけど、服なんて買ったことないのよね」

 皇女であるレイラは自ら服を選定したりはしないのだろうか。服を当てては戻しを繰り返している。

「私が選んであげようか」

 ウィズがにっこりしながらレイラに提案する。

「あなたが?……そうね。面白そうだし、試しに選んでみて」

 旅の間、ウィズの服装と言えば手首の絞った長袖シャツにえんじのベスト、オリーブ色のロングスカートだ。いかにも田舎娘と言った風情だ。

 そんな彼女に服装を選定させるとどうなるのかが気になったのかレイラはウィズの提案を受け入れる。

 レイラの承諾を得たウィズは鼻歌交じりにハンガーラックから色々出しては戻しを繰り返す。

「お待たせ。レイラさんに似合いそうな服持ってきたよ!」

 ニコニコと満面の笑みを浮かべながらウィズはレイラに服を一式見せる。

「……あなた、本気なの?」

 ウィズが持ってきた服はオーバーオールタイプのハーフパンツに、中央にイカの絵がプリントされた白のTシャツ。

「うん、すっごく似合うと思うよ。動きやすそうだし、私の分も欲しいくらいだよー!」

 ウィズはニコニコ満面の笑みだが対象的にレイラはこめかみを押さえため息を吐く。

「それはあなたの分だけ買いなさい。私は……自分で選ぶわ」

 そういい、レイラはあれこれと合わせながら服を見繕っていく。

「ねぇ、ウィズ、あなた、もうブラはしているの?」

 服を選び下着を見繕っていたレイラが思いだしたようにウィズに問いかける。

「え!?急に何ですか?……まだしてませんけど……」

「やっぱりそうなのね。ダメよ。女の子なんだから。今からちゃんとしとかないと後々に後悔するわよ」

 レイラはそう言いながらウィズに合うブラを見繕い始める。

「でも、アローン、喜んでくれるのかなあ」

 ウィズは心配そうに呟く。

「え!? あなたとアローンってやっぱりそういう関係なの!?」

 レイラが慌てながらウィズに詰め寄る。

「?そういう関係って何ですか?」

 ウィズはきょとん顔で聞き返す。レイラは言葉に詰まり、その顔は見る見る朱に染まっていく。

「その、あの、あれよ。その、男と女の関係というか……」

 レイラはモジモジしながら遠回しに聞くがウィズはイマイチピンと来ていないようで首を傾げる。

「もう! アローンともうエッチな事したのかって聞いてるの!」

 レイラは開き直り顔を真っ赤に染めながら叫ぶ。するとウィズもようやく合点がいったのか頬を朱に染めながら小声で言う。

「まだしてないです。レイラさん、声大きい……」

「あなたが鈍いからでしょ!ってまだっていった!?」

 今度はギョッとした顔をしながらウィズに詰め寄る。

「いい機会だから聞いとくけど、あなた、アローンのことどう思ってるの?」

 ふーっとため息を吐きながらウィズに問いかけるレイラ。

「アローンの事は大好きですよ」

 ウィズは満面の笑みで答えるがレイラはその回答では不満なようで再三問う。

「そうじゃないわ。その、男として好きなのかってことよ」

 今度の意味合いはうまく伝わったのか、ウィズはしばらく宙を見て答える。

「よくわからない。でも、一緒に居たいとは思ってるよ」

 ウィズは微笑みながら言う。レイラはようやく納得したのかまた視線を下着に戻しながら言う。

「よくわかったわ。あの男の何がそんなにいいのか、私にはよくわからないけどね」

「アローン、優しいから」

「それがわからないのよ……」


「おまたせー」

「遅い!」

 外の自販機にもたれながらウトウトしていたアローンに買い物を終えたウィズが声を掛ける。それにアローンは語気を強めて返す。

「仕方ないでしょ。乙女の買い物は長いものなの」

 そう言いながら買ってきた荷物を当然のようにアローンに渡すレイラ。

「なんで俺がお前の荷物まで持たなきゃいけねーんだ!?」

 アローンは鬱陶しそうに眉をひそめながら言う。

「ウィズの荷物は持ってるんだし、良いじゃない。ついでよ。この後、私のカバン買いに行くから」

 そっけなくアローンに言い放つレイラ。アローンはしぶしぶレイラに従う。

「俺は腹減ってるんだけどな」

 不満を漏らすアローン。

「鞄なんてすぐに決まるわ。そしたらご飯にしましょう」

 そういい、結局アローンはまたかばん屋の外で小一時間ほど待たされる羽目になったのであった。


 レイラが選んだのは大きめのキャリーバッグだった。その上にウィズの大きなカバンを括りつけ、アローンが転がしていく。

 もうアローンは文句を言わない。というのもこれでやっと昼飯にありつく事ができるのだ。その期待感から文句も小言も控えめになる。

 レストランに入った三人はメニュー表を見ながら各自食べたいものをオーダーする。相変わらずアローンの頼んだメニューはこの店で一番高いものである。

 料理が運ばれてくるまでの間、ウィズは珍しく静かにメニュー表を眺めていた。

「なんだ?まだなんか頼むのか?」

 その様子を気にしたアローンが聞く。

「あのね、二人とも、聞いてほしいの」

 神妙な面持ちでウィズは二人に告げる。

「ここ、支払ったら、もうお金、ないの」

「ハァァァァ!?」

 ウィズの言葉にアローンはこの世の終わりのような声をあげる。

「お前ら、一体どんな服買ってきたんだよ!なんであんなにあった金がなくなる!?」

「今後の食事はどうするのよ。私、雑草食べるのはいやよ!」

 アローンとレイラが交互に不満の声を挙げる。

「だって、アローン高いのばっかり頼むし、服代も私が全部出したし……」

 ウィズの言葉にアローンとレイラはうっと言葉を詰まらせる。

「食ったら警察署行くぞ。賞金首捕まえれば金もできるだろ」

 そういい、ようやく運ばれてきたメニューに齧り付くアローン。

「アローン、それ、私の料理」

 そんなアローンにウィズは冷たい声で言い放った。


 食後。三人で警察署にやってきた。

「この町で居場所のわかってる飛び切り悪い奴を頼む」

 いつものようにカウンターで保安官に手配書の斡旋を頼むアローン。

「そうは言ってもねぇ、少し前にピースメーカーがそういう奴らをみんな捕まえちまったからなぁ」

 それを聞き、アローンはがっくりと肩を落とす。

 警察署を出た三人は途方に暮れる。なにせ、路銀がもうほとんどないのだ。

「お前、なんで皇女のくせに金持ってないんだよ!」

 アローンは八つ当たり気味にレイラにつっかかる。

「仕方ないじゃない。皇女って言っても第五皇女が好きにできる額なんてそんな多いわけないじゃない」

 フンと鼻を鳴らしながらレイラは答える。

「あのピースメーカーって人、すごい人なのかな?」

 ウィズがぼそり呟く。

「そうね、前の町でもここでも目ぼしい賞金首はみんなピースメーカーに捕まったって言ってたものね。

「アローンの事も捕まえに来るのかな?」

 レイラの言葉にウィズは心配そうに言う。

「アローンは捕まえるだけじゃダメなんでしょ。殺して首を持っていかないと」

「おい。物騒なこと言うな。怖いだろ」

 レイラの言葉にアローンが抗議を声を挙げる。

「事実じゃない。でも、その人の後をウロウロしててもアローンは仕事にならないんじゃなくて?」

 レイラのいう事は尤もだ。

「クソ!早く次の町に行くぞ!賞金首が全部狩られちまう」

 そう言い、アローン達はまた次の町を目指すのだった。


「ウィズ……金ないってことはコーラは……」

「ないよ。仕方ないよね。我慢だよ」

「急ごう!ほら!走って行こう。奴より少しでも早く次の町に!」

「あなた……そこまで……」


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