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4話 皇女様と石の森 その1

 アローンとウィズが山を抜けてしばらくの事、次の町まではもう幾何もないほどの距離である。

「アローン、あれ! 何か大変じゃない?」

 ウィズが先の街道を指差し慌てた様子で言う。

 その視線の先には小規模のキャラバンの一行。

この世界でのキャラバンは珍しく、基本的には王族または皇族である。

 一般の行商や、人々は基本的にクラリスのバイクのような機械式の乗り物や馬やロバに引かせるリアカーが主であり、幌付きキャラバンなどはその意味あいも相まって敬遠されることがほとんどだ。

 その理由というのがこの世界の二大都市、王都と帝都の関係に由来する。九年前の帝都による王都侵略戦。今は戦争自体は下火になっているが終わってはいない。

 その為、王族や皇族が互いの領土を移動し合うときには幌付きのキャラバンを利用し、戦闘意思がないことを示しながら移動する慣例がある。

 護衛も極少数でありながら王族、皇族が乗っているので金目の物を持っていることも多く、盗賊や追剥に狙われやすい。それ故に一般人はキャラバンを利用する事を忌避するのだ。

 また、それだけの危険を冒しながらもキャラバンを利用し互いの国を行き来するには並大抵ではない覚悟が必要だろう。


そして今、ウィズが指差すキャラバンの一行もちょうどその危機に瀕していた。盗賊に出くわしたのだろう。

 すでに御者の騎士は殺され、直近の騎士が幌に近寄ろうとする逆賊を退けようと戦っていた。

「ほっとけよ。この辺でキャラバンだとどうせ皇族だろ?関わったってろくな事ねえよ」

 アローンは冷たく言い放ち、その場を去ろうとする。

「ダメだよ! アローン! あの人たち殺されちゃう!」

 ウィズはアローンを引き止めるがアローンは聞く耳を持たない。

 遂には直近の護衛もとどめを刺され、野党たちは遂に幌馬車に手を掛ける。

「アローン! あの人、何もかも奪われちゃう! 行って!」

 ウィズの必死の説得にアローンは歩みを止める。

「……クソ!」

 そして、踵を返したかと思うと一目散で盗賊の元へ駆け出した。


 盗賊たちは幌の中で震える娘を嫌らしい目つきで品定めした後、幌の中から娘を引きずりだす。

本命の金品がほとんど乗っていなかったことへの不満が娘に向けられる。

 娘は盗賊たちから乱暴な扱いを受けながらも顎の前で両手を組み合わせ、神に祈りを捧げている。

「クソが! 皇族ならさぞかし上質のお宝でも乗ってるかと思ったのによ! オケラじゃねぇか!」

「親分、でも女はかなりの上玉ですぜ! 売れば金になるし、今晩は俺達にも抱かせてくだせぇ!」

娘は自分に向けられる下品な会話など聞こえぬといった素振りで目を瞑り、必死に祈りを続ける。しかし、組み合わせた両手はガタガタと恐怖に震え、祈りを捧げるその顔は蒼白に染まっている。

「そうだな、俺が満足したら考えてやる! ほら、いつまで祈ってんだ! 来い! 良かったな! 生きててよ! ヒィヒィ言わしてやるぜ!」

 盗賊の親分は娘を強引にひっ立たせる。娘は盗賊に強引に引っ張られフラフラとよろめきながら盗賊のなすがままに歩く。

 その時だった。一筋の剣閃が盗賊と娘の間に走る。

「うぎゃぁぁ! いでぇぇ!」

 親分のしわがれた悲鳴が街道に木霊する。娘が恐怖の中で目を開けると自らの肩に捕まったままの腕と、片腕から血を流し、悲鳴を上げる盗賊。

 そして、自らの身の丈ほどの大きな太刀を振るう和服の男。先ほどの剣閃はこの男によるものだったことは容易に推測できる。

「なんだ! てめぇ! ぶっ殺してやる!」

 盗賊たちは当然激昂し、和服の男を取り囲む。皆、手には銃や刀剣、各々武器を引っ提げている。

 盗賊の親分も片腕から血を流しながら自らの銃を抜く。

「いでぇぇ、こ、こいつ、用心棒か?ぶっ殺さなきゃ気が済まねぇ」

 盗賊たちの数はざっと十二、三人は居るだろうか。そのいずれもが武器を携えている。

「やれ!」

 親分の指示で子分たちが和服の男に襲い掛かる。

 まず銃を持った子分が弾丸を放つ。和服の男が刀でその銃弾を弾くと襲い掛かる別の子分に命中する。

「ぐわ!」

 撃たれた子分が悲鳴を上げた刹那、和服の男が刀を水平に薙ぐ。

 和服の男の間合いにいた子分たちの首が地面に落ちる。

 もうそうなってしまうと盗賊たちはもはや逃げ腰になる。しかし、和服の男は許さない。戦意を失い後退る子分に一歩大きく踏み込むとその長い大太刀で突き刺し、そのまま横に薙ぐこの動作だけでも三人の子分たちは芥に変わる。

 残る盗賊は親分を含む四人のみとなった。

 子分たちは破れかぶれに和服の男に切りかかる。それに合わせて親分も銃を放つ。しかし、子分たちの剣は届かず、弾はかすりもしない。

 和服の男は容赦なく子分を袈裟切り、そしてそのまま別の子分を切り上げ、最後の一撃は誰の目にも止まらぬ速さで大太刀を振るう。前後にいた最後の子分と親分の頭がゴトリと落ちる。

 盗賊たちは断末魔の声を出すことも許されず、ただ、血飛沫をあげるだけの塊になった。


 全ての盗賊を始末した和服の男は何も言わず、その場を立ち去ろうとする。その和服は盗賊たちの返り血で真っ赤に染まっている。

「あ、あ、ありがとうございました。あ、危ないところを……」

 娘は必死で礼を伝えるが和服の男はそのまま歩を進める。

「あの!ひ、ひ、緋雨の竜、アローン様で合っていますか?」

「違う」

 和服の男が娘の質問を短く否定し、そのまま行こうとしたその時。遠くから少女が走ってくるのが見える。

「アローン! 大丈夫だったー!? 怪我とかしてないー?」

 その声を聞いたアローンと呼ばれた男の肩がぶるぶる震え、頭をがっくり落とす姿が、先ほどまでの狂気に満ちた男との差異で娘には余計に滑稽に見えた。

「やっぱり、緋雨の竜のアローン様なのですね!」

娘がアローンに駆け寄る。

「だから、違うっつってんだろ!」

 アローンは開き直り、娘に向かって唾を撒き散らしながら否定する。

 アローンの元に来たウィズはそのやり取りをキョトンとした顔で眺めてから、娘に声を掛ける。

「初めまして。私はウィズ、この人はアローン。あなたのお名前は?」

「申し遅れながらワタクシ、帝都皇帝ロイス・ファン・エレステファルが第八子、第五皇女、レイラ・リーシアと申します。レイラとお呼びください」

 ウィズの穏やかな声に落ち着きを取り戻したのか、レイラと名乗る娘は優雅に名乗りを上げた。


 レイラは歳は十七,八歳といったころで、髪は吸い込まれそうな黒髪。服装は皇族を自称する割にそこまで派手というわけではなく少し豪華な侍女と言った方がしっくりくる。旅をする上で機能性を優先した結果なのだろうか。

「あなた、アローンと呼ばれているみたいですが、緋雨の竜ではないのですか?」

「違う、俺は、こ……金色の竜だ」

 アローンは顔を真っ赤にしながら言う。

「あ、使ってる」

 それを聞いたウィズが顔を綻ばせる。

「金色の……?という事は緋雨の竜とは別人という事でよろしいですの?」

「アローンはね、金色の竜で緋雨の竜でもあるんだよ!」

 アローンが否定しようと娘に視線を向けた矢先、ウィズが意気揚々と答えてしまう。

「やはり緋雨の竜様ですのね。あなたを探しておりました。どうか、お力をお借りいたしたくございます」

 皇女レイラはアローンに向かい畏まる。

「ほらな、やっぱろくな事がなかった」

 アローンは毒づき歩き出す。

「あの、どちらへ?」

 レイラは先刻からのアローンの素っ気ない態度に不安を覚えつつ問う。

「腹減った。街行って飯食う」

 そう言い、目的の町とは反対方向へ歩き出すアローン。それに付いて行こうとするウィズ。

「アローン様、最寄りの町はこちらですわ」

 レイラに間違いを指摘され、アローンは再び顔を赤く染めるのだった。


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