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2話 女探偵と欲望の街 その3

 そのころ、アローンはカジノのSPの黒服に囲まれていた。あまりにも勝ちすぎていたからだ。

 黒服たちは徐々にアローンを囲み、周りの客を散らしていった。アローンの傍で興奮の最高潮だった老人もその異様な雰囲気にさっさとチップをまとめ逃げてしまった。

 気が付けば、アローンの傍の客はみな追い払われ、そばにはカジノのSPがぐるりとアローンを取り囲んでいた。

「なんだ、お前らぁ」

 アローンがそう言うと突然SPの一人がアローンに蹴りを入れる。

 それまで稼いだ大量のチップをぶち撒きアローンが吹っ飛ぶ。

「お客さん、イカサマはいけませんねぇ」

 そう言いながらカジノのオーナーのリッチが姿を現す。もちろんアローンはイカサマなどしていない。これは勝ちすぎたアローンに制裁を加えるためのカジノ側の口実である。

「イカサマなんてしてねぇよ」

「イカサマヤローはみんなそう言うんですよ。しかし、あなたのことは知っている。緋雨の竜が荒野の町に出たという噂は聞いている。おい!ガボンを呼べ!」

 リッチはそう言いながら手を叩く。するとカジノのホールにアローンの倍はあろうかという大男が現れた。


「フフフ、この男は王都の騎士団長をも勤め上げた男だ。いくら緋雨の竜といえども丸腰でこの男を退けることなど出来まい」

 リッチは不敵に微笑む。

「俺はガボン。元王都の騎士団騎士団長様だ丸腰を相手にするのは気が引けるがあの伝説の緋雨の竜が相手とあっちゃこちらは遠慮なく獲物を使わせてもらうぜ」

 そういうと大男は巨大な両刃の大剣を振り回す。すさまじい風圧がカジノ内に吹き荒れる。

「さて、私は紛れ込んだネズミの相手をしてやることとしよう。ガボン、ここは頼んだぞ」

 そう言いながらリッチはカジノの内部へと戻っていった。


 一方そのころ、クラリスは頭を抱えていた。暗証番号をもう2回間違えてしまった。あとチャンスは最後の1回しかない。しかし、それがわからない。

 アナログロックなので腕時計の疑似信号も使えないのだ。

「参ったわ。せめて桁数でもわかれば…」

 時間はあまりないというのに数字が思い浮かばない。クラリスは焦っていた。さらに追い打ちをかけるように通路から複数の足音が近づいていた。

「ここまでかしら」

「私に任せてください!」

 クラリスが諦めかけたその時、意気揚々とウィズが手をあげる。

「ダメよ。無理よ。そんなの」

 クラリスの言葉を無視しながらウィズは数字を入力していく。

「あぁ、もうお終いだわ」

 ウィズの蛮行にクラリスはとうとう頭を抱え込んでしまった。

 カシャ、と短い音が鳴り金庫が開く。

 クラリスは唖然としながらウィズを見る。

「ほら、私、運が良いんですから!」

 そう言ってウィズは胸を張る。廊下の足音はもうすぐそばまで迫っていた。

「ウィズ、あなた素質あるわよ。さぁ、とにかく入ってやり過ごすわよ」

 クラリスは腕時計を操作しながらウィズに言う。二人は金庫の中に入り、ドアを閉める。


 金庫内部の灯りを点すと金庫の内部には煌びやかに光る金、札束、宝石、これまで悪どく蓄えてきた財宝が所狭しとひしめき合っていた。

「すごいですね。綺麗…」

 ウィズは感嘆の声をあげるがクラリスの目的は別にある。お宝には目もくれず偽札の原版を探す。

 そしてそれはすぐに見つかった。ひしめき合う宝の中で特別といわんばかりの台の上、その上に唯一それは鎮座していた。

「あとはここから脱出するだけだけど…」

 おそらく金庫の扉の前には手下を引き連れたリッチが待ち構えている。下手に出るとその途端ウィズとクラリスは蜂の巣に撃ち抜かれることだろう。

「とにかく待ちましょうか」

 クラリスは呆気らかんにウィズに言い放つ。ウィズは要領を得ずに聞く。

「待つってアローンさんですか?」

「いいえ、私たちのパートナーよ!」

 自信をもってクラリスはそう言い放った。


 そのころアローンはガボンの振るう大剣に翻弄されながらも隙を突いては拳打を繰り出していく。しかし、大柄なガボンにはなかなか決定打足りえない。

「なかなかすばしっこい奴だ。だが、力はそんなに大したことなさそうだな。こんなことではお前が本当にあの緋雨の竜かどうか怪しいもんだ」

 ガボンはこの状況を優勢と捉えたのか余裕を見せる。

「なんだ、ヒヨッコが俺と力比べでは負けないってか」

 アローンは右に左に無造作に振り回される大剣を躱しながら言う。

「フッ、ヒヨッコはどっちの事か教えてやるわぁ!」

 ガボンは大剣に渾身の力を籠めアローンへと振り下ろした。

「馬鹿なぁ!」

 アローンに向かい袈裟切りに振り下ろされた大剣をアローンは片手で受け止める。

「弱い。剣の型も太刀筋も滅茶苦茶。おまけに遅い。お前、本当に騎士団長だったのかどうか怪しいもんだ」

 アローンは皮肉を込めて先ほどガボンがアローンに向けた言い回しを再現する。しかし、その言い回しにガボンは狼狽する。

 それもそのはず、このガボンという男、騎士団に入ったは良いものの、その粗暴さに対して実力が伴わず、逃げるように脱退。こうして元騎士団長を騙りゴロツキの用心棒で渡り歩いていた男なのだ。

 ガボンは慌てて剣を引くがアローンの掴んだ大剣はピクリとも動かない。

「クソ、クソ、なんだってんだ。さっきまではコイツ…はっ!」

 ここまで来てガボンも初めて気づく、緋雨の竜は最初から本気で戦ってなどいなかったのだ。

「悪いな。目立って時間を稼ぐように言われてたんでな。でも、もうバレてるみたいだし、良いだろ。終わりだ」

 アローンは大剣を掴む手に力を籠める。すると大剣にアローンの指がまるで砂の塊を掴むがごとくめり込み、大剣は大破する。

 アローンは渾身の力でガボンに拳打を見舞する。

「ぐっ、ごっ、ぼ」

 ガボンは言葉にならない悲鳴をあげ、打ちのめされる。もう彼に戦意はない。

 その時、クラリスのバイクがホールに飛び込んでくる。 

 アローンはそれを確認すると自動で走るバイクに飛び乗る。

「よっしゃ、ご主人のとこまで、案内。よろしく頼むぜ!」

 バイクは金庫室をまっすぐ目指し走る。アローンはバイクに括られた自らの刀を取り出す。


 金庫室の前に来た時、アローンはバイクのブレーキを引き減速を促す。まるでバイクも意思を持っているかのようにアローンの意図をくみ取った挙動をする。

 そのバイクからひと飛びしたアローンは金庫室のドアを切り裂き金庫室に飛び込む。

 不意を突かれたリッチと手下たちだったがアローンを見止めるとその銃口を一斉にアローンへ向け一斉に発砲する。その銃弾をアローンは身を捩りながら走り避ける。

「クソ、騎士団長はなにやってやがる。使えねぇ野郎だ!」

 悪態を吐きながらリッチは銃を乱射するがアローンには当たらない。

 リッチの部下は一人、また一人とアローンによって倒されていく。

「安心しろ、峰打ちだ。あのエセ騎士団長ならホールで伸びてるぞ」

 大太刀を肩に乗せ退屈そうにアローンは言う。

「クソ、何もかも順調だったんだ!てめえらさえ来なけりゃな!」

 そう言い、リッチは二丁のサブマシンガンをアローンに向け乱射する。

 大太刀でその銃弾を全て叩き落したアローンは一歩、また一歩とリッチに近づく。リッチは狼狽えながらも弾倉を変えまたアローンに発砲する。しかし、いくら距離が詰まろうがその銃弾がアローンに届くことはなかった。

「ふん!」

 アローンが気合一声で大太刀をクルクルと回し、背を向ける。

「なんだ!コケおどしかぁ!」

 そう言いリッチは新たな弾倉を籠めアローンに銃口を向ける。しかし、その銃身から銃弾が出ることはもうなかった。

アローンに向けた銃身は輪切りのようになっており、リッチが引き金を引いていればたちまち暴発。彼の両腕は吹き飛んでいたことだろう。

 アローンは金庫の前まで来ると大太刀を縦横無尽に振るう。分厚い金属でできた金庫の扉はまるで豆腐が切り刻まれるかのようにバラバラになる。


「遅いわ」

 扉の向こうで偽札の原版を持ったクラリスが抗議の声をあげる。

「アローンさん、無事で良かった!」

 ウィズはアローンに跳びつこうとするがアローンが片手でウィズの頭を押さえ阻止する。

「目的の物はあったんだな、帰るぞ」

 そういうアローンの後ろから笑い声がする。


「フフフ、フハハハハ!もうだめだ。お前らを帰しはしない。その原版が表に出れば死罪は免れん。ならばお前らも道連れになってもらう!」

 リッチは両手にダイナマイトを持ち狂気に笑う。その導火線には火がついている。

「さらにはこれだぁ!」

 そういうとリッチは羽織っていた上着を広げる。その内側には大量のダイナマイトが仕込まれていた。

「いくら貴様でもこの量のダイナマイトに吹き飛ばされては無事では済むまい」

「面倒ね、どうする?」

 クラリスは顔をしかめながら言う。

「飛ぶ。相棒を呼べ!」

 アローンはそう言うが早いかウィズを小脇に抱え金庫の奥へ走り出す。

 クラリスは出遅れたがすぐに来たパートナーのバイクに飛び乗る。

「アクセル全開にしろ!」

 そういい、アローンは大太刀を金庫の奥に向けて振り回す。

「もう遅い!死ねぇ!緋雨の竜!」

 リッチがそう叫ぶが早いか大爆発を起こす。

 アローンはウィズを小脇に抱えクラリスのバイクに片手で捕まる。斬られた金庫の奥は爆風に押され粉々になり吹き飛ぶ。


 クラリスはアクセルを全開にし斬られた金庫の奥から飛び出した。

 金庫の中の金銀財宝と共にアローン達はカジノの外に飛び出る。

「わぁ、金色の…竜!」

 ウィズにはアローンの背中の竜がまるで金の鱗粉をちらしながら飛んでいるように見えたのだろう。感嘆の声をあげる。


「まったく、余計な仕事増やしてくれるわ。リッチの奴」

 クラリスはそう言いながら腕時計を操作する。

カジノの外に飛び出たアローン達の元に物の数分もしないうちに街の治安保安員達がやってくる。

 クラリスはやってきた治安保安員に胸ポケットから取り出した手帳を見せると治安保安員達は一斉にクラリスに敬礼をする。

 その様子を不審に伺うウィズの元に事後処理を任せたクラリスが歩いてきて改めて自己紹介をする。

「改めまして、王都騎士団、第二大隊隊長クラリス。人呼んで銀のクラリスよ。初めまして。ウィズ」

 それを聞いたクラリスはあたふたと辺りを見回す。

「え、偉い人だったんですか?」

 小声でアローンに聞こえないようにウィズが問う。

「ふふ、可愛いのね。大丈夫よ。もうアローンは知ってるから」

 クラリスが笑いながら言うとウィズは肩を落としながら、なんだと言わんばかりにため息を吐く。

「アローン、報酬はどうする?」

「いつも通りで頼む」

「あなたも変わってるわね。それじゃ、また会いましょう。ウィズもね。これはあなたの分の報酬よ」

 そういうとクラリスはウィズに札束を投げて寄越し、パートナーに跨り走って行ってしまった。


 そして二人は再び歩き出す。

アローンとウィズの旅はまだまだ続く。

「ねぇ」

「なんだ」

「どうだった?」

「緋雨の竜よりかはマシだな」

「ちぇ、マシなの?」

「マシ…だな」


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