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2話 女探偵と欲望の街 その2

 三人は目的のカジノPHANTOM WISEへとやってきた。

カジノが軒並み立つこの街においてもひときわ大きく派手な外観をもつそこは客に大いなる期待と射幸心を抱かせるのだろう。

しかし、それは所詮幻想。派手で豪華な外観は甘い匂いに誘われてきた愚か者達の身銭を根こそぎ奪ってきた証拠だ。この街に賢者など居やしない。


 カジノに入るとアローンは卓に着く。二人はそのギャラリーとしてアローンが目立つのを待つのだ。

 カジノの内部は高い天井にきらびやかな装飾。酒をふるまうカウンター、バカラ、ルーレット、ポーカー、ブラックジャック、そしてスロットマシンとあらゆるギャンブルが所狭しと賑わっていた。


 アローンはバカラのテーブルに着く。

「なんだ、アンちゃん、バカラやったことねーのか?よし、俺が教えてやるよ!」

 卓に着いたなり、ジッと卓を見て難しい顔をするアローンに見かねたのか隣に居た気さくな雰囲気の初老の老人が声をかける。

「要は右と左どっちのカードが9に近いか当てるゲームだ。それを当てたら勝ちだ。簡単だろ。やってみな」

 老人に促され、アローンは手持ちの札束をディーラーに寄越す。ディーラーはアローンにチップを寄越す。

「豪勢な兄ちゃんだな!まぁ、最初はチビチビやるこったな。一気に大きくかけてたらあっという間にオケラだぞ。っておい、人の話聞いてんのか!」

 老人の忠告を聞いてか聞かずか、アローンは渡されたチップを全てバンカーにベットする。

「いきなり終わっちまうぞ。仕方ねぇ、俺も乗ってやらぁ!」

 そういうとその老人も手持ちのチップを全てバンカーに賭ける。

 他の客のベットも終わり、テーブルに緊張が走る。なにせこの場の二人が手持ちチップを全てかけているのだ。

 バンカーがゆっくりとカードをスクイーズする。

 カードが半分ほど開かれ大きなスペードのマークが見える。Aのカードだ。そしてバンカーはゆっくりもう一枚のカードを端からめくる。そしてすぐにハートが見える。大きな数字だ7,8,9,10この場合、7,8であればバンカーの勝ちとなる。

「おーし、来いよ来いよ来いよ来いよ!」

 熱が入り呪文のように唱える老人を尻目にアローンは一つため息を吐く。

 ハートマークのすぐ下にはハートマークはなかった。この時点で7,8いずれかでアローンの勝ちが確定した。バンカーは一気にカードをめくる。

バンカーの数字は9。プレイヤーの数字は合計6でアローンの勝利だ。

「うおぉぉぉぉ!やったな!あんちゃん、スゲーよ!流石俺の見込んだ男だ!待ってな、すぐ酒を持ってきてやる!」

 そういう老人をアローンは片手で静止する。

「酒は要らねぇ。コーラがいい」

 そういうと老人はホイ来たと言わんばかりに陽気にカウンターまで駆けて行った。

 意気揚々と老人が戻ってくるとすでに次のゲームのベットが始まっていた。

「おい!なんだ!なんてことしてるんだ!俺のチップも全部掛けちまってるじゃねぇか」

 そう、アローンは先ほどの掛け金にさらに勝ち分を乗せ、さらに老人が卓に残していったチップもすべて今度はプレイヤー側に掛けていた。

「なんてことしやがる!ビギナーズラックがそうそう続くものかよ!一文無しになっちまう!コーラはお預けだよ!」

 取り乱した老人はアローンに持ってきたコーラを一気飲みする。目の前でコーラのお預けを喰らったアローンは悔しそうに口を尖らせる。

 テーブルには騒ぎを聞きつけた客がにわかに集まりだしていた。まだ他の客は見に回っているようだが、この無謀なビギナーの勝利の行方にみな注目していた。

 そしてプレイヤーがカードをゆっくりスクイーズする。

 一枚目のカードはすぐに結果がわかる。絵札が見えたのだ。

バカラで絵札は0点もう一枚のカードに皆の注目が集まる。

 ゆっくりと開かれていくカード、老人は額の前で両手を握り神に祈りだす。そして、その数字は9。

「やったぞ!なんだこれ!あんちゃん、悪魔か何かでも味方につけてんのか!?」

またしてもプレイヤー9のバンカー7アローンの勝ちである。

 アローンは一気に大量のチップを手に入れた。


 その後もアローンは毎ゲームずっとMAXベットで賭け続ける。老人もその度にアローンの賭けた方に賭ける。

周りの興奮も最高潮に達し、アローンに乗っかり同じ方に賭ける者。アローンと老人の破滅を願い、逆に賭ける者。勝負の行く末を固唾を飲んで見守るもの。様々なものがテーブルを取り囲み周りを興奮の渦に引き込んでいく。

老人はアローンが勝利する度忙しそうにコーラを取りに行く。アローンの着くバカラ台は大いに賑わった。結局その夜、アローンと老人が負けることは一度たりとてなかった。


 勝負の様子を傍らの別のテーブルで見守る二人の女性。ウィズとクラリスはアローンの台に人が集まり続ける様を見ていた。

「アローンさん、楽しそうだね」

 ウィズが羨む様に呟く。

「本人はそんなに楽しんでないみたいだけどね。あの才能には嫉妬しちゃうわ」

 そして、次第にアローンの台の興奮が最高潮に達してきた頃。

「そろそろ行くわよ」

 ウィズに作戦の決行を告げる。クラリスは予め調べておいたカジノの内部構造を頼りに慎重に歩を進める。そのすぐ真後ろをウィズは、抜き足差し足で付いていく。

「ここね。金庫室。あとはこの金庫を開けるだけ」

 カジノの金庫室には部屋いっぱいに広がる大きなドア。そしてその横にある小さな操作パネル。どうやらこの金庫のロックパネルのようだ。

 クラリスは金庫室に入ると金庫のロックパネルを入念にチェックする。

「こういうロックは簡単なのよねぇ」

 そういうとクラリスはロックパネルに腕時計から出る光を当てる。

 ピーという音がして金庫のロックが一つ解除される。

「次はアナログロックね」

 そういうと今度は金庫の小さな鍵穴に二本の棒を突き刺し何かを探るような手付きでいじりだす。

「なんだか、泥棒さんみたいですね」

 その様子を見たウィズが興味津々に覗き込む。

「私の先生に教えてもらったのよ」

 微笑みながらそう言い、クラリスは二つ目のロックも易々と解除する。

「よし、これでロックは最後の一つね」

 しかし、そういうクラリスの手は止まってしまった。

「どうかしたんですか?」

 その様子を不審に思ったウィズはクラリスに声を掛ける。

「アナログの暗証番号。しかも、回数制限まである……」

「間違えたらどうなるの?」

「警報が鳴ってゲームオーバー。どおりでここの警戒が薄すぎると思ったのよ」

 クラリスの顔に焦りの色が浮かぶ。


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