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1話 緋雨の竜と希望の少女 その2

 朝になり、男は警察署に来ていた。目的は手配書の確認だ。

男は手配書に書かれた賞金首を捕まえることで旅の生計を立てている。いわゆる賞金稼ぎだ。

この世界の手配書は大きく分けて2つある。王都や帝都の出す世界手配書。そして、地方が独自に発行する地方手配書だ。

 男の目的は地方手配書。というのも世界手配書に乗るような者はかなりの極悪人、もしくは凶悪犯であり、そもそも滅多なことでは発行されることもない。


 男は受付に行くと迷わず言う。

「アジトの割れている賞金首で一番額の高いものを頼む」

 男の言葉を聞いた保安官は顔をしかめながら一枚の紙を男に渡す。

「ほらよ。ここらの顔はこのジェイムズ・キッドだよ。町の外れに不似合いなデカい屋敷があるから」

 男は差し出された紙の賞金額と人相書きをじっと眺める。

「正直、あんまりジェイムズファミリーはつつかないで欲しいね。あんた、全然強そうには見えないし…」

 保安官は男を品定めするような目つきで眺める。

「こいつ、なんで賞金ついたんだ?」

「昔っから一味で強盗に殺人、誘拐に脅迫、なんでもやってきたんだよ。手出ししようにも敵うもんが居ないんだ。だから奴ら、白昼堂々と大手を振って町をあるいてやがる」

 男の問いに保安官は悔しそうに語る。

 それを聞くと男は頭を軽く下げ、保安官に背を向ける。

「なぁ、あんた、悪いことは言わねぇ。命は大事にしとくんだよ。いくらそこそこの賞金があっても死んじまったら意味がないぞ」

「ご忠告、感謝する」

 それだけ言うと、男は再び歩を進める。


 アローンが扉に手をかけようとしたその時、一人の男が飛び込んでくる。

「大変だ!ウィズがジェイムズファミリーの屋敷に連れて行かれちまった!裏路地でチンピラに絡まれてそのまま…」

 聞き覚えのある名にアローンの足が止まる。

「なに!あのお転婆!なんだってそんなとこフラフラしてんだ!」

「なんでも、人を探してたらしい。あいつがいくらお人よしでも裏路地一人で歩いたりしねぇよ!」

 飛び込んだ男は保安官をまくしたてる。

「相手がジェイムズファミリーじゃ俺らも手出しできねぇ。ウィズのことは可哀想だが…」

「そんな!ウィズは両親もファミリーに殺されてるんだ!このまま見捨てるなんてあんまりじゃないか!」

 剣幕の男を保安官は制止する。

「馬鹿、そんなことファミリーのもんの耳にでも入ったらお前さんも何されるかわからねぇ」

 保安官の言葉にその男は言葉を詰まらせる。

「町外れのデカい屋敷だな?」

 アローンが保安官に静かに問いかける。

「そうだが、まさかあんた行く気か!?やめとけ!ウィズとどういう関係か知らんが、あんた死ぬぞ!キッドには大勢の手下がいるし、キッド自身も銃の名手だ!」

「死ぬ気はない。飯の恩があるんでな」

 そう言い残すと男は警察署を去っていった。

「め、飯の恩って、そんなことで…」

 残された保安官はそう呟きながら男と顔を見合わせた。


 町外れに場所にそぐわない大きな屋敷がある。ジェイムズ・キッドの根城にしてジェイムズファミリーのアジトだ。屋敷の周りにはファミリーの手下が獲物を手に巡回している。

 その屋敷の二階。そこにウィズは連れてこられていた。


「こいつがチャドの娘か。いい女になってきたじゃねぇか」

 キッドはいやらしい目つきで少女を値踏みする。

「気持ち悪い目で見ないで!私、人を探してただけだから!」

 少女は勇敢にもキッドに反抗の意を示す。並の女であればこの屋敷に入れられた時点で諦め従順になるか、ひたすらに泣くばかりかのどちらかだ。

 その勇敢さが、少女の決意ゆえか、はたまた、彼女が世間を知らないだけかといえばおそらく後者だろう。

「おうおう、威勢がいいな。どれだけ教えてやれば従順になってくれるか、楽しみだな」

 そう言いながらキッドは少女の顎に手を伸ばす。そのいやらしい手つきに少女は顔を背ける。

 キッドはニヤニヤしながらさらに少女との間合いを詰める。

「誰も来やしねぇよ。保安官でさえもこの屋敷にゃ手も足も出ないんだ。観念しな」

 そういい、また一歩少女へ歩み寄る。その時だった。


ドン!ドン!パパパパ!

屋敷の庭の方から大量の銃声が響く。

「誰だぁ!俺の楽しみを邪魔しやがる奴ァ!」

 そう言いながら銃を手に窓から屋敷の庭を見るキッド。その眼に映ったのは白い和服に抜身の大太刀の男。アローンだった。

 手下達はアローンに向け大量の銃弾を浴びせ掛ける。しかし、その全てをアローンは見切り、もしくは手に持った大太刀ではじき返す。

 アローンは窓から覗くキッドの姿を捉えると銃を乱射する手下たちに向かい走り出す。

 焦る手下たちはより一層激しくアローン目がけ銃を発砲するが震える銃身から放たれた弾はもはや刀ではじく必要もないほど狙いの定まらないものだった。

 手下たちがアローンの間合いに入る。

 アローンはその大太刀をまるで脇差しでも振るうかのように軽々と右に左に振り回す。

 それだけで手下たちの首が次々に宙を舞った。アローンは白い和服を赤く染め上げながら刀を振り続ける。

 手下たちは一人、二人、また一人とアローンの刀によって切り伏せられていった。そして、庭先の手下を一掃したアローンはキッドに目を遣ると屋敷の中に向かって走り出す。

 キッドは狼狽した。大慌てで自身の精鋭たちを呼ぶ。普段ならキッドの鶴の一声ですぐに表れるはずの精鋭たちは現れない。

 かわりに屋敷に響く銃声。その銃声も一つ、また一つと消えていった。

 そして屋敷は再び静寂に包まれた。


キッドは全く安堵できなかった。先ほど手下たちに起きた惨劇を目の当たりにしたのだ。その反応は寧ろ当然と言える。

 やがて、通路の方からコツコツと歩く音が聞こえてくる。

 部屋の扉が開かれるのをキッドは固唾を飲んで待った。

 結果的に扉は開かれなかった。アローンの斬撃が扉を切り捨てる。キッドは大慌てでウィズを人質に取る。

「動くんじゃねぇ!こいつの頭がぶっ飛ぶぞ!」

「アローンさん!」

 キッドに銃を突き付けられたウィズが叫ぶ。

「お前は何をやってるんだ…」

 アローンはウィズに呆れたような声で頭を掻きながら問う。

「私、アローンさんのこと、探してたの!お願い、決めたから。叶えてもらおうと思って!」

「俺は、治安の悪いところは行かねぇ。怖いから」

 まるで、キッドなど居ないかのように二人は話す。その様子にキッドは激昂する。

「テメェらぁ!俺を無視すんじゃねぇ!」

 キッドはウィズに向けた銃身をアローンに向け、その瞬間発砲する。

 銃身から放たれた弾はアローンに向かいまっすぐ飛んでくる。アローンは臆することなく大太刀を自身の前に突き立てる。

 ピッ。

 軽い音がし、発射された銃弾は真っ二つになりアローンの後ろの壁に突き刺さる。

 キッドは狼狽えながら銃を再び構えようとする。その刹那、未だ遠くにいたと思っていたアローンはキッドの目の前にいた。

 キッドが確認できたのはここまで。ゴトリと鈍い音を立ててキッドの首が地面に転がった。


「はぁはぁ、ダメだ。屋敷の方から音もしねぇよ。あいつ、もうやられちまってるよ」

「それでも、せめて死体だけでも回収してやらんと」

 保安官と男はキッドの屋敷に向かい走っていた。

 屋敷に着き、男たちは驚愕する。累々と横たわるジェイムスファミリーの手下たち。どの死体も刃物で切られた跡がある。

「な、なんだ、これは」

「ゆ、ゆめ、いや、悪夢だ」

 男たちの腰が抜ける。


 そして、屋敷の中からアローンとウィズが出てくる。

 その手にはキッドの首が握られていた。

 アローンは保安官の姿を見止めるとキッドの首を投げて寄越す。

「ひゃぁぁ!」

 キッドの首を眼前に投げられ保安官があられもない声を出す。

「こいつだろ?賞金、くれ」

 アローンは淡々と言った。


 保安官と警察署に戻り、アローンは賞金を受け取る。

「それにしてもあのジェイムズファミリーをたった一人で。あんた、いったい何者だ?」

 保安官が問いかけるがアローンは答えない。

「まぁまぁ、誰にだって言い辛いことはあるってもんだよ。いや、ほんと、あんたたいしたもんだよ!」

 男はそういい、アローンの肩を叩く。男の手にはアローンの浴びた返り血が付き男は静かに腰を抜かす。

「世話になったな」

 それだけ言い残し、アローンは背を向け、警察署を後にする。


「あ、あ、あ…」

 アローンが去った後、男が急に狼狽えだす。

「なんだぁ、どうかしたのか?」

 それを不審に思った保安官が男に問いかける。

「あ、あ、あいつ。あの返り血で雨の降ったみたいな背中に金の竜。あいつ、緋雨の竜だ。間違いない」

「そんな馬鹿な。世界手配書の中でも最大額の手配犯だぞ。しかも手配されたのはもう十年近い昔だ。そんな馬鹿なことがあるか」

「じゃあ、ジェイムズファミリーのことはどう説明するんだ。こんなことやってのけるのは緋雨の竜以外にいねぇよ!」

 男の言葉を聞き保安官の顔も真っ青になる。

 その後、警察署で二人の腰を抜かした男が見つかった。


 アローンが警察署を出ると見慣れた顔を見つける。ウィズだ。しかし、その手には大荷物が握られている。

「なんだ、飯の恩はもう返しただろ?」

 アローンが言うとウィズは顔を横に振り言う。

「ううん、まだ。私、お願い事あるって言った」

「それなら助けてやったからチャラだ」

 アローンはそのまま歩き出す。

「ダメだよ。私一人で大丈夫だったよ。だから、ちゃんとお願い聞いて」

「意味の分からんことを…。とりあえず言ってみろ」

 ウィズはアローンの隣を歩きながら言う。

「生命の実はさ、私が探すから、アローンさんは私の護衛をして。ボディーガード」

「はぁ?なんだそれ?そんなのダメに決まってんだろ!」

 アローンが歩を止めウィズに向き直る。

「なんで?これも一つのお願いだよ」

「そんなもん、いつ見つかるかわかんねぇだろ!見つかんなかったら一生お前の護衛じゃねぇか!」

「仕方ないよね。願い聞いてくれるって言ったもんね。アローンさんは約束平気で破る人なの?」

 ウィズの言葉にアローンは項垂れる。

「勝手にしろ…」

 その言葉にウィズは顔を綻ばせる。

「ねぇ、アローンさん」

「なんだ?」

「荷物重い。持って」

「やだ」

「持って!」

「ヤダ!」

「けちー」


 そうして二人は再び歩き出す。二人がこの冒険で何を見、何をし、何を得るのか。

 そう、これは緋雨の竜と呼ばれた男と希望の少女の物語。


TIPS

二種類の手配書:地方手配書と世界手配書の二種類の手配書がある。地方手配書は所謂その町や地方でのみ効力をなす手配書。一般的な犯罪者にはこの手配書が発行される。世界手配書は所謂戦犯。政治犯など、王都や帝都にとって脅威となる者に対して発行される。これは王都圏、帝都圏関係なく世界中に発行されるものである。しかし、ここ九年、王都での世界手配書は発行されていない。


賞金首と賞金稼ぎ:犯罪者には所在のしれている者も多数居る。しかし、保安官や警官も命を懸けて踏み込んだりはしない。なぜなら命知らずの賞金稼ぎは掃いて捨てるほどいるのだ。彼らが頼まずとも賞金首の命を狙う。そして、警察署ではそんな彼らに賞金を渡すことで治安を維持している。

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