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6話 正義の虎と極悪の竜 その3

 男はアローンに向かい銃を構えるが一足早くアローンが少女たちにその刀を振るう。一人、二人、そして、最後の少女も血だまりの中に倒れていった。

「き、貴様ぁー! なんてことするんやぁー!」

 男の叫びを無視し、アローンは震えるエヴィンに向かい大太刀をスイングする。エヴィンの頭が胴を離れ、宙を舞い、地面に落ちる。

 アローンがその頭を拾おうとした時、一発の銃弾がアローンの足元に放たれる。

「お前! 緋雨の竜やろ!? まさかお前やったとはな!」

 そこでアローンは初めて男に向き直る。それはつい先ほど一緒の風呂に入っていた気さくな男だった。

「お前がピースメーカーか。賞金首同士で争うのは嫌なんじゃなかったのか?」

 アローンの言葉に男は怒りの感情を露にする。

「気安く呼ぶな! ボケがぁ! オドレは史上最低最悪の凶悪犯やんけ! ここでお縄頂戴したるから覚悟せえや!」

 男は両手の銃をアローンに向けて放つ。その銃弾は急所を避けてはいるものの、的確にアローンを無力化させる部位を狙ってきている。

 アローンは咄嗟に大太刀で銃弾を弾くがすぐさま次の弾が飛んでくる。その大口径の銃弾はたとえ遮蔽物に身を躱していても易々と貫通してくることだろう。

 わずかな隙間を縫ってアローンは男に接近する。

 アローンの振るう大太刀をすんでのところで下に躱すと男はアローンに向かい至近距離から銃弾を放つ。

それを横跳びしながら躱したアローンは男に向かい大太刀を振り下ろす。

 今度は男が銃でアローンの大太刀を受け止める。

 鍔迫り合いのような形から男は左手の銃口をアローンに向け放つ。至近距離の弾を何とか交わしたアローンは、一旦男と距離を置き、すぐに走って間合いを詰める。

 男はアローンの剣戟を躱し、受け、隙を見ては銃弾を放つ。男が叫ぶ。

「オドレみたいなもんが生きとったら、それだけで夜も、よう寝れん奴らが仰山おるんじゃ! ここいらで死んどけや!」

 男が叫ぶ。


 アローンとピースメーカーの戦いは激しさを増していく。何よりも驚くべきはこのピースメーカーという男、人間離れしたアローンの動きにも付いて行っているというところだ。

 しかし、流石に疲れが出たのか男の膝が折れる。アローンはその隙を逃さず大太刀を男の首目がけ振るう。

 男の首が宙を舞うと見えたその時、男は左手の銃でアローンの刀を受け止める。その口元は不敵に吊り上がっている。

「掛かったな!」

 そう言うと男は右手の銃をアローンの額に付け、ゼロ距離で放つ。

しかし、アローンはゼロ距離で放たれた弾丸よりも早く仰け反り銃弾を躱す。

 アローンが仰け反った先に見えたのはアローンの刀によって倒れた少女。

 男ははっとした。いくら事切れているとはいえ、少女に銃弾を放ってしまったことに。

「あかん!」

 男が叫ぶのが早いかアローンは仰け反りの体制から腰の打ち刀、音無をそれこそ銃弾よりも早く抜き放つ。

男の放った弾丸は音もなく二つに斬れ、何もない床へと吸い込まれていった。そのままアローンは宙返りし事も無げに着地する。

「なんでや」

 その光景を見た男の戦意は消え失せる。

 男の戦意がなくなったのを見てアローンは刀を鞘に納める。

「オドレみたいな極悪人が、なんで死体なんか庇うんや」

 先ほどまでの覇気は消え失せ、放心に近い状態で男はアローンに問う。

「ああん? こいつら殺してないからな。俺が殺すのは奪う奴だけだ」

「殺してないやと。それに、なんやあの斬撃。いつでも俺の事殺せたんちゃうんか?」

 男の再びの問いにアローンはため息を吐きながら言う。

「だから言っただろ。俺が殺すのは奪う奴だけだ。本気で俺を殺しに来ていない奴を殺す趣味はない」

 そう言い、アローンは床に転がったエヴィンの首を拾い上げる。

 そして、床に転がった少女たちを抱え上げる。

「おい。ピースメーカー」

 不意に男に声を掛けるアローン。

「な、なんや」

「一人頼む。手がいっぱいだ」

 放心から徐々に我を取り戻す男。言われるままに少女を抱えると自然とその口元から笑みが零れる。

「変なやっちゃな。あんた」

 男はそう言い、アローンの後を追う。


アローン達は茂みに隠れたウィズたちの元へ行く。地面に少女たちを寝かせる。

「この子たちは?」

 レイラが少女たちを見ながら言う。

「ここで繋がれてたみたいだ。相当酷い目にあっていたようだな」

「みんな血まみれ……」

 ウィズが顔を引きつらせて言う。

「ここ温泉引いてるんだろ?起きたら入れてやってくれ」

 アローンがそう言うとレイラは男に目を向ける。

「で、この方はどなた?」

「こいつがピースメーカーらしい」

 アローンの適当な説明を受けてレイラとウィズが名乗りを上げる。

「よろしく。ピースメーカーさん。私はレイラ」

「ピースメーカーさん、ウィズだよ。よろしくね」

 間の抜けた雰囲気に毒気を抜かれた男は笑いながら改めて名乗りを上げる。

「なかなか肝の座った嬢ちゃんたちやなぁ! ワイの名前はジャックや! ピースメーカーは通り名やな! んで、あんた、名前はなんて言うねん。まさか緋雨の竜が本名なんて言わんやろな」

 ジャックはアローンに名乗りを求める。

「アローンだ。それに今は金色の竜を通り名にしている」

「なんやそれ。けったいな通り名やな」

 ジャックは肩を竦める。

「アローン、どこ行くの?」

 不意に背を向けるアローンにウィズは声を掛ける。

「警察署。いつまでもこんなもんもっときたくねぇ」

 そういい、エヴィンの首を掲げるアローン、レイラがヒッと小さな悲鳴を上げる。

「あぁ、それなら、ワイが行ったるわ。さっきの詫びも兼ねてな。あんたは嬢ちゃんたちとおったってか」

 そう言い、アローンからエヴィンの首を取るジャック。

「お前、懸賞金持ち逃げする気じゃないだろうな」

 アローンが疑いの眼差しを向ける。

「そんな危ないマネ誰がするかい。命がなんぼあっても足らんわ。まぁ、一刻ほど待っとき」

 ジャックはそう言いながら、エヴィンの首を持って警察署へ歩いて行った。


「変な人ね」

 レイラがため息交じりに言う。

「楽しそうな人だったね。アローンと仲良しさんだね」

 ウィズはニコニコと嬉しそうに言う。

「仲良くねぇ。それより、こいつら、どうする?」

アローンは未だに眠ったままの三人に視線を落とす。

「おーい、朝ですよー。起きて起きてー。温泉入ろー」

 ウィズはいつぞや、アローンにしたように少女たちの頬を叩きながら起こしにかかる。

 やがて少女たちが目を覚ます。

「ヒッ!な、何でもします。だから、命だけは、なにとぞ、なにとぞ……」

 少女たちは肩を寄せ合いながら震え命乞いを始める。それも仕方ないこと。彼女たちはつい先ほどまで目の前の男に銃を向けていたのだ。

「大丈夫だよ。怖くないよ。アローン優しいよ」

 ウィズは優しく声を掛けながら少女たちに近付くが彼女たちにとってそれは慰めにはならなかったようで未だに顔を青くしながら震えている。

「はぁ、仕方ないわね。あなたたち、一列に並びなさい!」

 様子を見ていたレイラが溜息交じりに彼女たちに号令をかける。

 余程屋敷でこき使われていたのだろう。彼女たちは条件反射のように震えながら一列に並ぶ。

「名前を」

 レイラが短く命令する。

「デージーです」

「ガーベラです」

「マ、マーガレットです」

「歳を」

「17です」

「15です」

「じ、14です」

 彼女たちは並びの通りデージーを年長として、マーガレットが年少者になるようだ。

 手際よく彼女たちの名前と年齢を聞きだしたレイラは一歩後ろに下がる。

「れ、レイラすごい」

 呆気に取られていたウィズが感嘆の声を挙げる。

「なんの自慢にもならないわ。こういうことができる自分の事が嫌になるわ」

 レイラは目を伏せながら言う。

「お前ら、親、兄弟は?」

「いません。皆、殺されました」

 アローンの問いにデージーが答えると、遂にマーガレットは泣き出してしまった。

「やれやれ」

 アローンはため息交じりに彼女たちの前に立つ。

「気を付け!そこを動くな!」

 アローンが彼女たちに命令をする。するとやはり彼女たちは条件反射のように背筋を伸ばし、手指に至るまでピンと伸ばす。

 アローンは少し腰を落とし、腰の打ち刀に手を添える。それを見た彼女たちの顔が見る見る蒼白に染まる。マーガレットに至っては直立のまま涙やその他諸々を垂れ流している。

「フン!」

 アローンは打ち刀を一息に彼女たちに向け振るう。

 彼女たちの首の鎖が音もなく二つに割れ地面へ落ちる。その光景を見たウィズが彼女たちに駆け寄る。

「ごめんね。怖かったよね。温泉入って綺麗にしようね」

 そう言い、レイラと共に屋敷に引かれた温泉へと彼女たちを連れて行く。

「さぁ、どうしたもんかな……」

 一人残されたアローンはポツリと呟いた。


 しばらくして、温泉に行ったウィズたちが戻ってくる。

「あのね、アローン……」

 ウィズが恐る恐るアローンを見上げる。

「ヤダって言っても、お前は聞かねえだろ。別に邪魔にさえならなきゃいい」

「やった! ね? アローン、優しい」

 ウィズが言おうとしたこと、それはデージーたち三人の旅の同行だ。

 そのことを聞くまでもなく許可するアローン。その意外な返答にレイラが驚きながら問いかける。

「ちょっと、どういう風の吹き回し?あなた、絶対断ると思ってたのに」

「どうもこうもねえよ。ウィズは言い出したら聞かねえ。それに……あいつらほっぽり出しても飢えて死ぬか、娼婦にでもなるしかねえだろ。ならあいつらでも生きていけるようなところまでは連れてってやるのが人情ってもんだ」

 レイラの問いにアローンは淡々と答える。レイラは何とも付かぬ表情を浮かべた後、くすっと笑う。

「あなた、本当にわからない人ね。私の中の緋雨の竜のイメージがどんどん変わっていくわ」

「金色の竜だ」

「そうね」


 アローンがレイラと話している時もデージーたち三人はウィズの後ろに隠れたままであった。

 ウィズが三人にアローンが怖くないと諭しても、三人はやはりアローンに近付こうとはしない。

 それもそのはず、この三人は先ほどまでアローンと対峙し凄惨な光景を目の当たりにしてきたのだ。アローンに対する恐怖心は並々ならぬものだろう。

 ウィズとレイラがどうしたものかと顔を見合わせていると警察署にエヴィンを引き渡しに行っていたジャックが帰ってくる。

「おー!待たせて悪かったな!ちゃーんと換金してきたさかい、ほれ」

 そう言いながらアローンに札束を放り投げる。

 アローンはそれを受け取ると、そのままウィズに渡す。

「買い物、しなきゃいけねえし、腹も減った。お前持ってろ」

 ぶっきらぼうにそう言うとアローンは町に向かって歩き出す。

それを追う、ウィズ、レイラ、デージーたち。

「ほんま、楽しそうでええなぁ」

 その後ろ姿を見てジャックは一人呟いた。


「ねえアローン、みんなのお洋服も買わなきゃいけないね」

「そうだな」

「お鍋も大きいのにしなきゃいけないね」

「そうだな」

「食べ物もいっぱい買わないとね」

「そうだな」

「コーラ買うお金は無くなっちゃうね」

「絶対買うから!」

「あなた……病気ね」


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