93話 メイド服じゃダメですか?
「ちょっと泰!これどういうこと!」
コーヒーハウスでエアコンの稼働音だけが唸る中、突然弥久先輩の叫びが響く。
しかし、その声はいつもより迫力にかけている。
理由は単純明快。
先輩を見れば、明らかにこの店の制服ではないメイド服。
しかも胸元も多少空いており、スカートの裾も短いコスプレ用のものだ。
先輩は顔を赤くしながら、少しでも裾を長くしようとスカートを下に引っ張っている。
それで、こちらの方を鋭い目つきで睨んでくるから、そういう性癖を持っていない僕でも……ゲフンゲフン。話がそれた。
何はともあれ、もしここに客がいたとするなら入る店を間違えたと思って帰り兼ねない、そんなカオスな状況だった。
どうしてこうなったのか。それは文化祭の頃まで遡る。
文化祭の片付けがちょうど終わった頃、スマホの通知がなった。
画面を見てみると、真由美と表示されている。
彼女とは、放課後に約束をしていたのでその件だろう。
後は帰るだけとなっていたのですぐに指定された待ち合わせ場所に向かう。
「おっ、ようやく来たね。全くぅ、女の子を待たせるなんて弥久に振られちゃうよ」
指定された、校舎裏に向かうとすでに真由美先輩は来ていた。
「別に付き合ってるわけじゃありませんから」
「え、そうなの。そりゃびっくり」
そんなこと知っていたと言うようにわざとらしく驚いて見せる彼女。
「それで、例のものは?」
僕がここへ来たのは他でもない。アレをもらうためだ。
「そう急かすなよ後輩くん。ほらしっかりと持ってきたよ」
安心せよと言わんばかりに左手に持っていた紙袋を掲げる。
大きさは通学鞄と同じくらいだろうか?
それには外からでも微かな膨らみがわかり、中身が入っていることが分かる。
「ほい、じゃあこれは君に託すよ。有効活用してね」
僕は差し出されてた紙袋を受け取り、一応中身を確認する。
中には、さっきまで弥久先輩が来ていたメイド服1着がしっかり入っていた。
「確かに受け取りました。それでは」
僕が、さっさと帰ろうとしていると。
「あっちょっとまって」と真由美先輩が引き止めてきた。
何かと思い、足を止めて振り返る。
「それを渡したからには分かってるね?ちゃんと写真と報告書を頼んだよ。それじゃーねー」
言うことを言うと、大手を振って見送ってくれた。
そして現在。
僕はこの夏休み、コーヒーハウスでバイトをすることになっていた。
まあ結構な頻度で、利用していたら助っ人を頼まっれた形だ。
テストも無事終わり、先日夏休みが幕を開けた。
それと同時に夏休みのバイトが始まったのだ。
弥久も長期休暇はここでバイトをしていることはマスターから聞いていたので今回の作戦を企てた。
マスターに話すと、子供がするような悪戯な笑みを浮かべて承諾してくれたのだった。
「泰、こんな制服で仕事して良いわけ無いじゃない。マスターもなんとか言ってやってよ」
不満を口に出す弥久先輩。
「私は一向にかまわないよ。そもそもすでに泰君に許可は出したし」
「なんでマスターが勝手に許可出すの!私に許可を取りなさいよ!だいたいね、こんなんだとお客さんが困惑するでしょ?」
先輩が話しているとタイミング悪く「カランコロン」とカウベルの心地よい音を立てて、お客が入店してくる。
「あ、ほらお客さん来たよ弥久ちゃん」
弥久先輩はこの格好で本当に行くの?という表情をしたが、根が真面目なのか逆らうことはせずにお客さんが向かったテーブル席へ行った。
「泰くん今更だけどこれセクハラで訴えられたりしないよね」
「まさか……ね」
「まさかだよね」
弥久先輩に限ってそんなことは無いだろうと、思いながらもこれから控えようと思った2人だった。
その日の帰宅後・・・
僕は、しっかりと盗撮していた弥久先輩の写真を真由美先輩に送る。
ついでに今日のバイトの様子も文章で報告しておいた。
送信して鬼の速度で返信が来る。
「でかしたぞ後輩くんb」
僕は、なんとなく敬礼の顔文字で返事しておいた。




