90話 イルカショーじゃダメですか?
ショープールに着くと既にほとんどの席は埋まっていた。
僕たちは放送を聞いてすぐに来たので、ここに居るのは予め場所取りをしていた人たちだろう。
「うわーもういっぱい居ますね」
「これだと立って見るしかないかもな」
「その必要は無いみたいですよ。ほら」
一瞬何を言っているかわからなかったがすぐに気付く。
ちょうど2席空いていることに。
しかしそこは……
「あそこの席は水しぶき来るとこじゃないか」
だから、ほぼ満席なのに埋まりにくかったのだろう。
瑠璃はそんなのお構いなしにそこへ向かおうとする。
「おい!ちょっと待て、」
するとキョトンとした顔で振り向いた。
「いや、何でそんな顔してるんだよ。そうじゃなくてその席だと濡れちゃうんじゃないか」
「良いじゃないですか、少し濡れるくらい」
少し濡れるくらいなら、まあ夏だし良いのかもしれない。
「少しですまなそうだから言ってるんだよ。下を見てみろ。ありえないくらい水たまってるじゃないか。さすがにあそこまで濡れたくない」
すると、瑠璃は人差し指を立てて左右に振る。
「ちっちっちっち。泰それは間違いですよ。見てください、ほら。あそこで水をかけながら掃除をしているでしょ。それが原因ですよ」
確かに、そう言われてみれば否定することはできないかもしれない。
「分かったよ。あそこに座ればいいんだろ」
こうなればやけくそだ。
水しぶきが大したこと無いことに賭けるるしかない。
僕はしぶしぶ唯一空いている席へ向かう。
「うわっ、この席濡れてるじゃないか。やっぱりここって……」
「あ、始まるみたいですよ」
僕の声をさえぎるようにして瑠璃が言った。
「みなさーん、こーんにーちわー」
やけに明るい声がスピーカー越しに聞こえてきた。
『こーんにーちわー』
瑠璃も周りの子供たちに混ざって挨拶するものだから、恥ずかしい。
初めに出てきたのはアシカだった。
まあ、する芸と言えばキャッチボールだったり、ヒレを使て拍手だったりだ。
それでも瑠璃は、初めて見るかのようにはしゃぎまくっているのだが。
次に始まったのはイルカのショーだった。
ジャンプしたり、トレーナーを上にのせて泳いだり。
これまたよく見る定番のものだが、大きいだけあって迫力がある。
イルカのショーも終盤に差し掛かってきたが、一向にして水しぶきが飛んでくる様子はなかった。
そんな時、僕のお腹が突然エマージェンシーコールを鳴らす。
「あ、ヤバい。……ちょっと瑠璃トイレ行ってくる。すぐ……は、戻れないかもしれないけど」
「え?はい、わかりました」
心配そうな顔をする瑠璃。
そんな瑠璃に何か声をかける余裕すらないほど急いでトイレへ向かった。




