89話 モップペンギンじゃダメですか?
次に向かったのは、ペンギンの居る水槽。
その見た目は水槽というよりもガラスの向こうに岩がなれべられているだけのようにも見えるが。
一応水槽っぽいところが無いわけではない。
「あれみてください!まるで大空を羽ばたいているようです」
瑠璃は必死に上を見上げて、頭上を舞うペンギンを首で追っていた。
そう、このペンギンの水槽は天井に橋のように渡しておりそこをペンギンが行き交うような作りになっている。
その姿はまるで大空を自由に飛び回る鳥のようであった。
水族館の粋な演出と言ったところだろう。
「陸ではぴょこぴょこ動いているのに水中での動きは機敏でなんだか面白いな」
「可愛いですね〜ずっと見ていられます」
ペンギンをしばらく見ていると水槽にはられたポスターが目につく。
それによると、この大勢の中に雛鳥が居るらしかった。
「瑠璃、この中に雛鳥が居るらしいぞ」
「そうなんですか。どれですか?」
「うーん、ポスターによるとこんなシルエットらしんだけど……」
期待を煽るためなのか、ポスターには影しか乗っていない。
しばらく探していると、それらしき形のペンギンを見つける。
いやでも……
「流石にあれは無いよな……」
僕が指差した先には悪く言えば薄汚れたモップみたいな塊だった。
「泰何言ってるんですか、あれは掃除道具ですよ(笑)」
「そうだよな、しかも親よりでかいもんな」
「そうですよ」
『……え、もしかしてあれ?』
スマホで調べること数十秒。さっきのがキングペンギンの雛らしいことが分かった。
「本当にあの汚いモップが雛なんだな」
「あれだと学校で、やーいモップっていじめられちゃいますよ」
「いやそうはならんだろ。人間に例えると、お前爪があると言われているようなものだ」
「そこで爪を選ぶ泰のセンスは独特ですね」
いちいち煩い。良いじゃないか爪でも。
「普通は髪とかにしませんか。同じ毛ですし」
「髪の毛はあれだ、ない人も居るんだから配慮しろ……」
「なんですかそれ?」
「僕はハゲの遺伝子を持っているからな、将来できるだけ傷つきたくない」
父も祖父も曽祖父もみんな頭が寂しい。
今から僕がハゲに優しい世界を作って置いて、いざ禿げたときに備えるようにしてる。
「ふむ。髪の毛がなくても私の愛は変わりませんよ?」
「そういうこと言ってもポイントは稼げないぞ」
「ポイント?」
「いやなんでも無い」
そんな顔で聞き返されると本当は狙ってないんじゃないかと勘違いしそうだったのでそれ以上はやめておいた。
「まもなく、1階ショープールによりイルカ&アシカのショーが始まります。ぜひ御覧ください」
館内アナウンスが流れた。
「だそうだ」
「そうですね、では行きましょうか」
「なら急がないと席が取られそうだな」
「はい!」
僕たちはまだ見ていない途中の水槽になど目もくれず、一目散にショープールへ向かった。




