8話 デートと呼んじゃダメですか?2
兄メイトに来た雪本泰と皆越ゆかり先輩は、とりあえず各々好きなところを見て回っていた。
所在もなく適当に回ってみる。普段こういうところに来ないのでいまいち要領がつかめない。分かれてはみたが1人では特にすることもないので先輩と合流することにした。1週回ってみようとすると、3分の2くらい回ったところで先輩を見つけることができた。
「あっ、先輩ここに居た……、うげぇ」
「どうしたんだい、泰君。あ、これ持ってくれ」
先輩は、数十冊のラノベを抱えていた。それを強引にこちらへ渡してくる。そしてまた新たな本を探しに行った。
「(重たい……)」
仕方なく、後を付いて行く。店を出るころにはさらに本が増えていた……
「先輩!もしかして僕、荷物持ちとして連れてきたんですか?」
「何言ってるんだ?泰君。男女が2人で出かける。それは誰が何と言おうとデートだよ」
「都合のいいように言わないでください」
なんだろう、最初浮かれてた自分に今の気持ちを教えてあげたい。弥久先輩が来なかったのはこれが原因だろう。あのどぎまぎした気持ちを返してほしい。
本屋を出て数分歩いた時、先輩は話しかけてきた。
「そんながっかりした顔しないでくれよ。そうだな働いてくれたからには、それに見合った報酬を与えないとな」
先輩は何かを探しているのかあたりを見渡している。目的のものを見つけたのか「あったあった」と言いながら小走りでそちらに向かっていた。
「あっ、先輩。こっちは荷物持ってるんですよ、ちょっと待ってください!」
先輩は聞く耳持たずといった感じで先にたどり着き、のんきに手招きしている。自分は息を切らせながら追いかけた。
「なんか大変そうだな泰君。普段しっかり運動してるのか?」
「わりと……して、ますよ」
荷物を持たせておいてひどい言われようだ。
「それはさておき……個々のファミレスでスイーツフェアやってるみたいでな。手伝ってもらったからお礼がしたかったのだよ」
もしかして先輩って優しい?さっきまで憎く思ってたのが後ろめたい……
「先輩。僕先輩のこと誤解していたのかもしれません。すみません」
「? 何のことかわからないが許すぞ」
店に入ると中は思ったほど混んではいなかった。僕たちは店員から4人掛けの席へ案内される。
席に着くと皆越先輩はメニューを渡してくれた。
「泰君何にする?私のおごりだから遠慮はいらないよ」
そう言われても女性におごられるのは気が引ける……。まあ、会計の時にでも無理やり払えばいいか。
メニューに目を通してみる。どうやら今だけの特別メニュー表らしく、色とりどりなスイーツが載っていた。その中から適当にモンブランでも選んでおく。
先輩は、チョコケーキを選んでいた。
持ってきてもらったケーキをおいしそうに頬張る先輩。
「先輩は、甘いものとか好きなんですか?」
「あまひもも?」
「飲み込んでからしゃべってください……」
「特段好きってわけではないが、読書に集中するためには糖分が必要だからな。(はむっ!)」
その割にはおいしそうに食べるな……。見てるこっちが幸せになってくる。
「(これだけでも今日来た甲斐はあった、かな?)」
こうしてみると、先輩も女の子なんだなって思う。糖分補給と称している割には少しずつ大切そうに食べているのがおかしい。そうやって先輩を眺めていると「どうした?」といった感じで小首をかしげてくる。
「先輩ほっぺにチョコがついていますよ」
「とってくれないか?」
そう言って悪戯な笑みを浮かべる先輩。
お手拭きを手に、身を乗り出す。緊張で手が震えているのを見て笑ってるのが腹立つ……
「(もう少しで手が届く)」
「ゆかりさんじゃないですか?偶然ですね。こんにちは!」
横を見ると、そこに立っていたのは金髪碧眼、高身長の美青年だった。
「なるほど、ゆかりさんのご学友でしたか」
あれから、先輩を介して自己紹介をしあった。
彼の名前は、エドワード・H・マーカムというらしい。出身はイギリスで、先輩の許嫁だそうだ。
「君のことは僕のフィアンセからよく聞いてますよ」
「エド君……」
いつもと違い先輩はしおらしい。2人の様子を見ると、なんだか胸の奥がざわつく。端的に言ってあまり面白くなかった。
「泰君?どうしたんだい、そんなふくれっ面で」
気にかけてくれた先輩の声を無視する。本当はそうしたいわけではないはずなのに。それから2人は何か話していたようだが、僕の耳には入ってはこなかった。ケーキは半分残した。
「泰君これからよろしくね」
そう言って、手を出してくるエドとやら。僕は大人気ないと思いながらもそっぽを向いていた。
「僕もう帰りますね……」
「えっ、それなら私もこの辺で……」
別れの挨拶をする、先輩を置いて先に支払いを済ませて店を出た。
「泰君まってくれ」
先輩は、先に行った僕を急いで追いかけってきた。
「…………」
「あの、その、今日はすまなかった」
「先輩は、悪くないですよ。悪いのは僕の方です」
その後、2人の間に会話はなかった。
休日明け、雪本泰は初めて部活をさぼったのだった。




